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三十五歳  作者: 青山えむ
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6話 傲慢

 義務だと思っていた入浴が、近頃は違う。

 シャンプーを念入りにするようになった。香りのよいシャンプーに変えた。トリートメントもつけてみる。宮川さんと、いつ接近してもいいように、ボディソープも香りのよいものに変えた。


 まずシャンプーをして、次に体を洗う。最後に湯船に浸かる。この湯船に浸かる瞬間が好きだった。シャンプーもボディソープを泡立てるのも、まだ少し義務感が残っていた。けれども湯船だけはリラックスできる。なにもしなくていいからだ。

 適温のお湯に浸かり、少しだけ宮川さんの顔を思い出す。念入りに頭と体を洗い、湯船に浸かる。幸せだなぁ。

 冬は熱めのお湯に、夏はぬるめのお湯に浸かる。ゆっくりとお湯に浸かる瞬間、幸せを嚙みしめる。


 次の日、偶然にも私は宮川さんの横を通った。本当は話したかったけれども、仕事中なのでそうもいかない。私は自分の気持ちを隠して、なんでもない風を装い、通りすぎた。昨日念入りにシャンプーをしてよかったと思いながら。


 自分の身なりを気にすると、周りも気になってきた。髪の毛が輝いている女子が多い。色も質感も輝きつつ、サラサラしている。みんな、女子力が高かったんだなと感心する。それと同時に、自分はどれほど遅れていたのかと恐ろしくもなる。


 ある日宮川さんが、女子力の高い女子社員と話をしているのを見かける。心の中に青い炎がちらつく。

 嫉妬だ。嫉妬だと分かっていてもおさまらない。仕事が手につかない。同僚に声をかけられる、私は余裕のない表情で応える。同僚に罪はないのに、私は醜い形相で受け答えをする。申し訳なく思いながら、軌道修正ができない。自分を見失ってはいけない。


 宮川さんは私のことをどう思っているのだろう。見当もつかない。

 男の気持ちが分かるのは男だと、誰かが言っていた。しかし他の男の相談を、男にするのはいかがなものか。相談を受けた男が万が一、私に好意を少しでも持っていたとしたらどうだろう。宮川さんの不利になるような発言をしないだろうか。私がこのような相談をするとしたら、八百津(やおつ)くんだ。


 八百津くんとはメルアド交換をしていて、気軽に連絡がとれる関係だった。八百津くんはおとなしい性格だけれども、意思がはっきりとしている。頭がよいせいだろうか。

 八百津くんは私に好意を抱いているのだろうか。友達としての好意は持っているだろう。それに少しでも、私を女子だと意識はしていると思う。なぜなら飲み会の帰り道、送ってくれたことがあるからだ。

 けれども私は八百津くんには友達以上の感情は持っていない。友達以上には見ることができなかった。顔がタイプではないせいだろうか。だから八百津くんとは意識せずになんでも話すことができたのだろうか。


 そんな傲慢なことを考えていたら、八百津くんから結婚披露宴の招待状が届いた。

 開封しなくても分かる。封を止めているシールにハッピーウェディングと書いてある。今は六月、ジューンブライドか。けれども今招待状が届くということは、披露宴は六月ではない。入籍が六月なのだろうか。

 なんだろう、このもやもやした気持ちは。

 見たくなかった、こんな封書。それに、八百津くんに彼女ができたなんて聞いてなかった。友達だと思っていたのに。私には、わざわざ報告する必要はないと思ったのか。それとも一時期は、私も八百津くんの恋愛対象だったのか。

 いけない、勝手に被害妄想を広げるのはよくない。自分の気持ちを見つめよう。


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