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三十五歳  作者: 青山えむ
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4話 私の幸せ

 確かに、育児も仕事もこなしているのは本当にすごいと思う。

 けれどもそれは、独身の私が頑張っていないと言われている気がしてしまう。実家暮らしでごはんも全部親が作ってくれる。まぁ、確かに家事をやらないだけで自分の時間がぐんと増えるのは事実だけれども。よいことばかりではない。


 私には一人暮らしの経験がある。過去に大雪が続いたので、冬期間だけ会社の近くに住んでいた。家事や自炊で自分の時間が削られるけれども、慣れてくると時間の確保もできるようになる。

 慣れた頃に春になり実家に戻る。そんな生活を三年ほど続けた。つまり半年ごとに引っ越しをしていたことになる。それが面倒で、一人暮らしをやめた。雪道の運転は怖かったけれども、朝早く出勤するとそこまで交通量は多くないので、その手段を選んだ。


 一人暮らしは、今思うと快適だった。好きな時間に入浴ができたし好きな時間にごはんを食べられた。

 実家暮らしの今は、母親の「ごはんできたよ」を合図に、食べなくてはいけない。そんな圧力を感じていた。文句があるならまた一人暮らしを始めて、自分で好きなように時間を過ごせばいい。けれども、もう、私にはそれを遂行する気力はなかった。


 それに、女子がみんな「ママ」じゃない。「ママ」になりたくてもなれない人だっている。そんなことを言ったら「病気の人だっている」「被災した人だっている」と、きりがないのだけれど。


 ほら、ここでも「将来の夢はお嫁さん」が正しいような気がしてしまう。あれは呪文だ。

 あの呪文を唱えると「ふつう」の人生を送ることができるのかもしれない。だって、「三十代女子」は「ママ」が一般的だって宣伝文句が流れているのだから。子どもの時分に「夢はお嫁さん」の発想がなかった人はどうなるのか。


 そんなことを考えても答えはでない。ああ、また下らないことを考えてしまった。一般的とか「ふつう」なんてものは世相が絡まったイメージだし、呪縛だ。


 自分の気持ちにスポットを当てよう。三十代でママが当たり前、のような投稿を見てしまうと「私の存在」ってなんだろうと思ってしまう。

 

 今の会社は中途入社して、十年が経つ。十年の間に色々な変化があった。新入社員で入社した女子が結婚して産休に入った、何人も。

 入社当時仲の良かった子が不倫をしたと噂で聞いた。隣の職場の女子が年の離れた上司と結婚をした。

 私? 私は階級も上がらず役職もつかず、平社員のままだった。次々に妊婦になってゆく若い女子社員は妊婦専用の仕事に異動になる。定年する先輩社員もいた。けれども私の階級が上がることはなく、妊婦になることもなかった。ずっと同じ場所にいた。


 こうして見ると会社内だけなのに、結婚やら産休やら不倫やら、すべて男女の話ばっかりだな。

 ずっと趣味に生きてきた私には無縁の話だった。いや、無縁を装っていたのだろうか。

 そんな話ばかり聞くせいか、なんだか人恋しくなってきた。私だって女だ。そうだ、三十五歳だ。どうして性別と年齢をセットにしてしまうのか。なんだろう、この前よりも焦ってきた。そうか、高齢出産の単語を見たからだ。


 結婚は上の年齢制限がないけれども、出産は年齢が関わってくる。どうして女子だけ時間制限で悩まなくてはならないのだろう。


「結婚しないの?」


「子どもは産んだほうがいいよ」


「養子縁組もあるよ」


 結婚、出産、家族をもつことが当然だという世相は未だに根づいている。

「結婚しないの?」の質問がどれほど偏見か、質問者は気づいていないだろう。それは「結婚をする」のが当然だという前提が頭にあるからでてくる質問だと思う。


 結婚するかしないかは、分からない。一人で決められることではないからだ。質問自体が不自然だ。結婚したいか、と質問するほうがまだ自然だと思う。


 では結婚したいかと尋ねられたら、どうだろう。結婚したくないわけではない。ご縁があったらしてみてもよいと思う、この言い回しが一番しっくりくる。


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