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三十五歳  作者: 青山えむ
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3話 辛いことと幸せの数

 最近は友達と会っても楽しくない。姑のグチやママ友問題。私には分からない話題が増えてゆく。

 

 一番辛いのは、友達複数人で会い、私だけが独身のときだった。

 私に気を遣って子どもの話をしないのも辛いし、我慢できずに子どもの悩み相談をしているのも辛い。どっちにしても辛い。

 もうこれ、私がいないほうがスムーズだよね。そう思ってこのメンツと会うのはやめた。


 SNSで趣味仲間と交流しているほうが楽しい。ネット上でのつきあいは気楽だった。趣味に関わる楽しい話題だけをする。直接連絡が来るわけではなく、自分のタイミングでタイムラインを開いたときに返信をする。窮屈な集まりなんてない。これこそ人間関係に必須の「適度な距離感」ではないか。


 近頃の私の生活リズムは一定になっていた。朝に起きて会社に行き、夕方に帰宅する。晩ごはんを食べてSNSを見て入浴して就寝する。今の職場は残業も休出もない。土日は録画しているドラマやアニメを消化して、趣味を楽しみ、ときどき外出をする。

 

 同じ毎日が貴重だということを、分かってきた。以前は夜勤と日勤の交替勤務で毎週勤務時間が変わっていた。一度夜勤の生活をすると、夜に寝つけなくなる。

 日勤だけになってからは食欲も違う。きちんと三食がおいしく食べられるようになった。


 朝食に楽しみな食材を用意すると起床の苦痛がなくなると聞いた。オシャレな友達は、少し高級なパンを買ったと言っていた。

 私は朝食にオレンジがあると「ホテルみたい」だと思ってテンションが上がる。自分がイケている人間だと錯覚をする。

 オレンジを買ってきたのは母親だけれども、綺麗にカットして皿に盛りつけるのは私だから、私がイケていると言っても過言ではない。

 オレンジ一つで旅行気分か、安いものだ。


「私は安いお酒しか飲まない安い女なの」


 誰かが昔、言っていた。あの子の気持ちが今なら分かる。


 私は自由だった。毎日の食事は母親が作ってくれる。

 夕方、仕事から帰宅すると母親は晩ごはんの準備をしている。晩ごはんができるまでの間、私は新聞を読んだりゲームをしている。


「ごはんできたよ」


 両親と私と三人で食卓を囲む。完成された食事を食べるだけ。これがどれだけぜいたくなことか、一人暮らしの経験がある者だけが分かることだ。炊きたてのご飯にできたてのおみおつけ。


 おみおつけの味噌は、行きつけのスーパーに売っている一番安い味噌だ。以前、ちょっとお高めの味噌を買ったのだが、味が薄かった。薄いので多く味噌を入れるがいくら入れても味は薄いままだった。塩分だけが高くなると誰かが言った。いつもの一番安い味噌が一番よいのだと分かった。


 おかずは湯気が上がった焼き魚。茹でたばかりのほうれん草のおひたし。ほうれん草は少し長めに切るとお店みたいな雰囲気がでる。その上にあまり味が染みていない味つけたまごがトッピングされている。お漬物はしそ風味のさっぱりしたたくあん。ああ幸せだ。


 今ある幸せの数を数える。SNSではそういったスピリチュアル系の投稿が多い。私はすぐに影響された。

 本当は、そういった言葉が欲しかったのだろうか。自分が今いる環境が幸せだと自覚して、安心する。これは本当に、幸せな状態なのだろうか。そう思い込んでいるだけではないのか。


 近頃は、動画レシピを見るのが自分の流行だった。簡単でおいしそうな動画がたくさん流れている。面倒なクリームソースを考えなくていいグラタンが食欲をそそる。テンポのよい動画を見ながら材料と手順をメモに書く。結局紙のレシピのほうが分かりやすい。

 職場では、「材料を入れてレンチンすると肉じゃがが完成するジップロックがあるよ」と誰かが言っていた。口コミのほうが優秀だと思った。



―三十代女子、ママ頑張っています―


 インスタを見ていると、やたらと目につく「ママ頑張っています」の宣伝文句。

 正直「三十代女子」なんて書いてあると気になって見てしまう。

 けれどもそこに「ママ」と書いてあるだけで興ざめる。私はママじゃないし、ママだけが頑張っているわけじゃない。


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