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運転手と客の関係

タクシーを拾い佐賀まで行くことにしていた。

 心配性で、バスや電車を使って遅延でもしたらみんなに迷惑をかけると思い、お金が他より少しかかるがタクシーにした。

 ちょうどタクシーが隣を通り抜けようとしてたのでそのタクシーに乗せてもらった。

「佐賀までお願いします……」

 リアルでは人見知りなのもあってタクシーや床屋などの話しかけられる場所に行くのが苦手だった。

「了解しました…………佐賀ですか?」

 運転手のおじさんは行き先を聞き返した。きっと見た目から年齢が分かり、お金を持ってるのか不安なんだろう。

「はい、佐賀でお願いします」

「お客さん年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 ここまできたらある程度話すしかなかった。

「十七です。お金なら多少あります」

「約四万円くらいかかるけど大丈夫?」

「はい。家にある分全部持ってきたので大丈夫です」

 おじさんがさっきよりもっと優しい顔になった。そして優しい声で

「なんでお金全部持って佐賀まで行くのか知らないけど…………生きてたらきっといい事あるよ」

と言ってくれた。有り難い言葉だが別に死のうとしてるわけではない。でも説明が面倒なので、おじさんの話をずっと聞いていた。

「うちにも君と同じくらいの娘がいてね、毎日毎日喧嘩して。きっと娘からは嫌われてるんだよ」

 タクシーの鏡から太陽の光が反射して、おじさんの表情が見えなくなった。

「でもね。喧嘩しても娘を大事に思ってる。娘が一人で消えようとしてたら迷わずついていく」

 鏡から太陽の光が消えておじさんの表情が現れた。それは普段お客さんに見せる運転手の顔ではなく子供に見せる父親の顔だった。

「でも本音は娘には消えてほしくない。きっと君の親もそう思ってるよ」

 そうこうしている間に目的地に着いていた。

 タクシー運転手と客の関係が親戚のおじさんと親戚の子供の関係になっていたような気がした。

 メーターが止まり四万近くいった。けどおじさんが

「お代は三万五千円です」

 と五千円近く値引きをした値段を言ってきた。メーターを見間違えてるのかと思って

 「四万円ですよ」

 と言い財布から四万円を出そうした。するとそれを止められた。

 「五千円くらいおじさんが出すよ。でも家族の元にちゃんと帰ってあげて」

 おじさんが払うと百万円の罰金がある。それにこんな優しい人を騙し続けるのは心が痛む。

「家族の元には帰ります。絶対、絶対に」

 そう言ってお金を置きタクシーを降りた。

 集合時間まで三十分も余裕がある。暇つぶしのために喫茶店に行くことにした。

 平日の朝、ほどんど人がいない空いてる喫茶店を見つけそこに入った。

 「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

 八十近くいってると思うお爺さんが一人で営んでいる店。とても雰囲気が良くてそれでいて静か。これほど心が休まるお店は初めて。

 メニュー表を見ると色々ありプリンでも頼もうかと思ったがいざという時にすぐ出られるようにコーヒーだけ頼んだ。

「コーヒーお願いします」

 頼んでからすぐにコーヒーがきた。常に家で篭ってたから久しぶりのお店、しかも喫茶店なんて初めてきた。

 これからの事を考えながら飲むコーヒーはとても苦い。だがその苦さが大人に近づいたような感じもする。

 これからどうなるのだろうか。智樹さんや他のみんなも優しそう、だけどネットと現実では違う人が多い。ネットでは明るいが現実では暗い人がいる。ネットでは自己中心な行動していても現実だと人のことを気遣える人もいる。

 ある意味ネットは怖いのかもしれない。

 智樹さん達はどんな感じか会ってみないと分からないけど、僕はネットでもリアルでも割と同じな気がする。ネットで知り合いだったら現実の知り合いと同じく仮面を被る。逆に今回のように全く知らない旅の為だけに集まった人に対しては自然体でいられると思う。

 『あ、でも、智樹さん達は自然体な僕か仮面を被って性格を偽る僕、どっが好きなんだ』と考えコーヒーを持つ手が止まる。

 どっちで行けばいいんだ。自然体の僕。それとも偽った僕。考えても分からなかった。

 そうこうしている間に時間は過ぎていき集合時間十分前に設定していたスマホのアラームが鳴った。

 コーヒーを飲み干しお金を払い集合場所に走った。そして何とか五分前には着けた。

 体力がない僕は少し走っただけで息を切らした。

「……疲れた」

 息切れして考えすらまとまらない。

「君、大丈夫?」

 息を切らしている僕に声をかける一人の女性がいた。その人の声はどこか聞き覚えがある声だった。


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