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ありがとう。の尊さ

 なんだろう、と思って見てみると『さっきはありがとう』とメッセージが来てた。

 僕も同様に口ではなくメッセージアプリで返信をする。

「全然大丈夫ですよ!」

 視線を隣に向けると、雪さんはスマホを見て、右手の人差し指で画面を打っていた。

 視線をスマホに戻すと同時に、ピコッ、と自分のスマホから音が鳴る。

 もしや、と思いスマホを見てみると、案の定、雪さんからメッセージが来てた。

 なんで雪さんは口頭ではなく、スマホで会話をするんだろうか。まあ、いいか。

『何か悩みとかあったら何でも聞くよ!』

「ありがとうございます!」

 僕はありがとう、とメッセージを送信して雪さんの方を向いた。すると彼女と目が合い、僕は軽くお辞儀した。

 顔を上げると、雪さんは僕に微笑みかける。

 ありがとう、としか言っていないのに、彼女はすごく喜んでいるような感じ。

──僕はまだ、ありがとうという言葉の尊さを知らないのかもしれない。



 微かな振動を感じる車内で、他愛もない話だけを繰り返した。人の記憶から消えてしまいたいと思っていた時期があったのに、今は生きた証を残すように写真を撮っている。

 車のスピードが落ち、窓から見える景色がゆっくりと流れる。

「着いたよー!」

 七瀬さんが張りのある声を出すと同時に車が止まり、道の駅に着いた。

「運転お疲れ様です」

 皆でお礼を言って、車を降りる。僕はまずトイレに向かうことにした。

 旅行用のバスが二台停まっていたから、早めに言っておいた方が良さそうと思った。多少の覚悟を持ち、トイレに入ると、全く混んでいなった。

 トイレが終わり、手に洗剤をつけ、水で洗ってると、横の手洗い場に人が立つ。特に見る必要もないのに、隣に人が来ると、なぜか一瞬チラッと見てしまう。

「あれ、智樹さん」

 横で手を洗うのは智樹さんだった。だけど、心ここに在らずな表情をしてる。

 声を掛けると、智樹さんがこっちを向く。

「隼人君もトイレ来てたんだね」

 智樹さんは抑揚のない声で言った。やっぱり、元気がなさそうに見える。

「大丈夫ですか?」

 心配になって訊いてみると、智樹さんは鏡で自分の顔を見て、また僕の方を見た。

「あぁ、大丈夫だよ。……隼人君ってニュースよく見る?」

 明らかに大丈夫じゃなさげなのに、ニュースの話をしてきた。

 ニュースは暇つぶし程度で見ていたし、ちゃんとした目線で見たことはなかった。

「少し前まで、横目に見る感じで見てました」

「そっか……。隼人君の印象に残ったニュースって何かある?」

「印象に残ったニュースですか……あまり頭に浮かびませんね。すみません」

 唐突に、印象に残ったニュースなんて聞かれても、当然思いつかなかった。

「そっか……。ごめんね、変なこと聞いて」

 智樹さんは手を拭き、冷静を偽ったような顔でトイレを出ていった。

 今思えば、智樹さんは助手席でよく新聞を見ていた。もしかしたら、智樹さんにも旅の目標があったんじゃないか。僕はそう思い始めた。

 その時、ぐぅー、とお腹が鳴る。そういえば、昼はまだ食べていなかった。

 僕もトイレから出て、食事を取ろうとする。時刻は丁度昼時。だからか、結構お腹が空いている。

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