次は広島?
「次なんですけど、もう京都行きますか?」
智樹さんが次の行き先を京都にするかどうかをみんなに聞いた。
僕らは旅を楽しむことを第一としていて、細かくは予定を決めていない。今の時点で決まっているのは、タケちゃんの見たかった景色が見られる京都の清水寺だけ。
「いや、次は広島行こう!」
七瀬さんが急にこんなことを言い出した。何故、広島なんだろう。
「広島ですか?」
智樹さんがそう訊く。
「うん! 広島の厳島神社行きたいなって思って。タケちゃんいい?」
まだ二日目だけど、タケちゃん呼びは、呼ぶのにも聞くのにも慣れた。
「全然いいですよ。せっかくの旅なんですから、行きたい場所に行きましょう!」
タケちゃんは頭が柔らかかったり、余裕を持っているように見える。こういった大人になりたいと思っていた時期もあったが、今はもう諦めた。だって、僕がなれるはずがないんだもの。
「隼人君達はいい? 京都に行くの遅れちゃうけど」
七瀬さんが京都に行くのが遅れるというが、僕としては他にも色々な場所に行けるなら嬉しい。でも、七瀬さんは広島の何処に行きたいんだろうか。
僕の頭には一箇所、有名な場所が浮かんだ。しかし、連続でだから流石にないかと思い、聞くことにした。
「僕は大丈夫ですよ! 七瀬さんは広島の何処に行きたいんですか?」
前にいた七瀬さんに僕が訊くと、後ろを振り返る。
「厳島神社に行きたいんだよね!」
七瀬さんが言った厳島神社とは、広島にある、水辺に浮かぶ鳥居が有名な神社だ。日本三景の一つに数えられているらしく、とても綺麗な絶景が待ち望んでいるんだろう。
「厳島神社……めっちゃいいですね!」
もう少し大人になってからしか行けないと思っていた場所だから、早く行けることが嬉しくて、ワクワクしてきた。
「でしょ! 他の二人はどう?」
どう、と七瀬さんが訊く。智樹さんは軽く頷いた。雪さんも口を開く。
「私も大丈夫です! 行きましょう、厳島神社!」
あれ、そういえば雪さんは早く清水寺に行きたかったんじゃないっけ? まぁ、今はやめておこう。
この空気を壊さないように、僕は訊くのをやめた。
僕らは鳥居のトンネルを通り抜け、百二十三基の一番上に着いた。
百二十三基とは別の入り口の鳥居から、少し上に続く坂道があり、そこを上ると人だかりができている鳥居があった。
そこの鳥居は他の鳥居と少し違って、上に狐のマークと賽銭箱が設置されている。
皆は鳥居の上にある賽銭箱に小銭を入るまで投げている。
「賽銭箱の位置、高いですね」
智樹さんに話しかけて振り向くと、もう財布から小銭を取り出していた。それを見て僕も財布を出した。
「そうだね。ここから五メートルくらいはあるかも。隼人君は小銭ある?」
智樹さんに訊かれ、財布の中を確認する。
「はい。ちょうど五円玉が一枚あります」
智樹さんが上を向く。
「それはよかった。じゃあ、投げよっか」
澄ました顔で智樹さんが小銭を上に投げた。そのコインを目で追い、太陽の光がコインを光らせ、一瞬視界が一色に埋め尽くされる。
視界が開いたとき、賽銭箱に落ちる音が鳴る。
周りの人達が何回も投げては拾い、また投げているのに、智樹さんは一発で賽銭箱に入れた。
「凄いですね!」
僕は上に向いていた視線を下げ、智樹さんの方を見た。すると、智樹さんは目を閉じ、手を合わせていた。
力んでいるのか、合わせた手が震えている。まるで神様にしか成せないことを願うように手を合わせていた。
辺りから聞こえる声を気にせず、願うようにしてる智樹さんを邪魔してはいけない気がした。
僕も気を取り直して賽銭箱に小銭を投げた。だが、流石に一発で入らない。
そこから投げて、拾って、投げて拾い、また投げた。
数回すると、やっと賽銭箱に入る。
入れるのは結構難しく、手の甲を下にして投げなければいけない。七瀬さんとタケちゃんはまだ投げ続けている。
僕は手を合わせて、心の中で願った。
『家族が無病息災で、笑って過ごせますように』
心の中で願うだけなら誰にでもできる。それをわかった上で、無力な僕には願うことしかできなかった。
*
みんなが参拝し終わり、元乃隅神社を出て、車に戻った。
「広島に行く前に、トイレ休憩も兼ねてサービスエリアに寄ろっか」
七瀬さんがそう言い、車を出発させた。




