もう一度カメラのシャッターを
雪さんも眠っているのか。まぁ、昨日あれだけして、眠くならない方がおかしいんだけど……。
「えっ!」
僕は思わず声を漏らす。
ずっと、枕ではない何かに寄りかかっていることは分かっていたが、まさか雪さんの肩だったとは。
咄嗟に手で口を覆い、思わず目を見開いた。
七瀬さんや智樹さんの発言はこれのことだったのか。
恥ずかしさで背筋がピンと伸びる。
信号の色が変わり、車が動き出した。七瀬さんはハンドルを握り、口を開く。
「まだ眠っとく?」
茶化すような、小馬鹿にするような声で言ってきた。
僕は顔を窓の方に背けて、返事をする。
「もう眠たくないです……」
日光のせいか、体が火照ってるような感じがする。
*
タケちゃん側の窓からは綺麗な海が見えてきた。
あれから二十分くらい経ったが、僕はずっと黙っている。
雪さんは相変わらずスヤスヤと眠っている。
完全に黙っているわけではなく、七瀬さん、智樹さん、タケちゃんから話しかけられれば返事はする。ただ、自分から話をしないだけ。
「うわぁー、狭くなってきたね……」
今から通る道を見て、七瀬さんがそう言った。
元乃隅神社に行く途中で通らないといけない狭い道があることは事前に調べて、皆に共有していたが、実際に見ると写真より狭く感じる。
運転席と助手席に座る二人は、より狭いと感じてるだろう。
幅は車が二台通れるくらいで、とても狭いわけではないが、カーブが多くて、車と車がぶつかれば、外側の車が崖から落ちていきそうで、心の余裕が狭くなっていく。
「そうですね。隣にバスが来なければいいですけどね……」
智樹さんがそう言うと、食い気味に七瀬さんが
「ちょっと、フラグ建てないでよ!」
と不安を口に出した。
僕はその返事に思わずクスッと笑ってしまう。
「あっ……」
キョロキョロ周りを見る。だが、特に反応はない。
良かった。
ほっとしているのも束の間に、体が急激に右に傾いた。車が崖のカーブを曲がったらしい。
シートベルトは付けているが、勢い余って、またも雪さんに寄りかかってしまう。
「すみません!」
起きていないだろう、と思いつつも、顔を見て謝った。すると、さっきまで閉じていた瞼がゆっくりと開く。
目が合い、数秒沈黙が続いた。そして雪さんが口を開く。
「あれ、私、眠ってた?」
初めて聞いた、親以外の女性の寝起きの声。
僕は謎に緊張する。
「あっ、はい……」
次に彼女の口から出てくるのは「眠りすぎたなぁ」とか「すみませんって、何が?」と思っていた。だが、返ってきたものは予想とははるかに違った。
「もう眠らないの? もしあれなら、また寄りかかってもいいよ」
僕は焦り、言葉を詰まらせる。
「えっ、なんで、えっと、え、気づいてました?」
僕が訊くと、雪さんは顔に少し笑みを浮かべた。
「私、最初は起きてたよ」
彼女の言葉で、合点がいく。
「あっ、その節はどうも……」
どうにか平然を装い、また窓側に寄りかかった。
「おっ、雪ちゃんも起きた! おはよう」
「おはようございます」
「ゆったり眠れた?」
「はい。おかげさまで」
僕は二人の会話を聞きながら、窓から見える景色を眺めていた。
狭くてカーブの多い道を抜けて、元乃隅神社の入り口にある赤い鳥居が見えてくる。
僕はこういう風景を撮るのが昔からの趣味だった。だが、家を出る頻度が少なくなり、カメラに触れることも少なくなった。
もう一度カメラを手に、シャッターを切りたかったが、この旅の資金にする為に売ってしまったから叶わない。
まぁ、スマホで撮ればいいんだけれども……。
少し気分が落ち、俯いた。
「隼人くん、着いたよ」
俯いて数分経ったとき、タケちゃんに声を掛けられる。顔を上げると、僕らはもう駐車場にいた。
「ありがとうございます」
そう言って僕たちは車を降りた。




