撮影開始
「あの、七瀬さん。僕がこの時間に呼ばれてることをちゃんと雪さんに言いました?」
雪さんの驚き方が、明らかに知らない人のそれだった。
「ん? 雪ちゃんに言ってないよ」
あぁ、やっぱりかぁ。
僕の予想通り、雪さんには伝えてなかったみたいだ。
「こういうことはちゃんと伝えてくださいよ」
少し優しく叱ると、七瀬さんは
「ごめんなさい。今度から気をつけまーす」
と、憎めない返し方をした。
ほんとに、分かってるのか、この人は。
*
「お待たせ、入っていいよ」
数分扉の前で待ち、雪さんの声がしたので部屋に入った。
僕らの部屋と同じはずなのに、なんだか違うように感じる。微かに香る石鹸の香りがそう感じされるのだろう。
「座って、座って」
七瀬さんに誘導され、用意されていた椅子に腰を掛ける。
「そういえば、お二人とも、温泉はまだなんですか?」
僕もそうだが、二人は今日来ていた服のままだったので訊いてみた。タケちゃんと智樹さんは、僕が出て数分後に露天温泉へ向かった。
「まだだよ。私は資料撮影終わったら露天風呂いくけど、雪ちゃんはどうする?」
「私は部屋についてるお風呂に入ります」
どうやら二人とものまだ入ってないようだ。だが、雪さんは温泉に行かないらしい。
それを不思議に思ったのか、「え、なんで?」と七瀬さんは訊いた。
すると、雪さんの表情が一瞬曇った。
「えっと、その……」
雪さんは何を言えばいいか迷っている。
「わかりました。じゃあ、写真撮って、すぐに出ていますね」
僕はあえて理由を聞かなかった。もちろん、お節介だからというのもあるが、雪さんの事情を理解したからだ。多分、長袖を着ていたのもそれが理由だ。
「……ありがとう」
僕にそう伝え、雪さんは俯いた。
事情を無理に話せとも思わないし、雪さんが話す義理もない。
所詮、他人の悩みに過ぎない。でも、心配になってしまう。
「何かあれば、相談して下さいね」
小さな声でそう言うと、雪さんは俯いたまま、軽く頷いた。
それを不思議に見る七瀬さんに声を掛ける。
「じゃあ、早速写真を撮りましょうか」




