期間限定ドリンク
「君が僕のストーカーかもしれない」
「どっちがどっちのストーカーかって客観的にみたら私が被害者になれるから勝てる」
「顔のよさの使い方が最悪」
夏休み、また彼女に会った。
今度は、駅の近くで限定のドリンクメニューを見ている彼女を見つけてしまったのだ。
注文の仕方がわからない、おごるから私の分も、と2人分の冷たくて甘ったるいスイーツとも飲み物ともはっきり言えないものを買いに行かされて、結局2人で飲んでいる。
並んでいるだけあっておいしい。流行りものへの天邪鬼を発揮して避けていては損するかもなあ、とぼんやりと思う。
紅茶とスコーンのあるカフェは常連だったくせに、映画館のオンライン予約と、流行りのドリンクのテイクアウトはできないとは、どんな生活をしてきたんだろうか。
「おいしい。売れているものはちゃんとおいしいんだね」
「まあおいしくなかったら売れないからね」
ここはブランド力がありすぎて、期間限定の味がなんであれ新商品はずっと人気があるけれど、それは安定しておいしいものを出せているからなんだろう。
「期間限定っていうけど」
彼女はくっついたクリームと格闘しながら言う。へたくそ。人のことは言えないけど。
「こういう明確に販売期間が設けられていなくても、世の中にあるものは広く言えば期間限定だよね」
ズッとストローでへたくそな音で吸いながら彼女は続けた。
「販売終了とかリニューアルとか…世界とか」
「世界?」
「そうだよ少年。明日世界が終わるかもしれない。だから食べたいものは食べられるうちに食べておいたほうがいいのだ」
キメ顔で言った直後に、これここに捨てていいの?なんていう彼女はなんともしまらないなあと思ったけれど、一瞬、本当に一瞬、彼女が世界の全てに思えるくらい、僕にはまぶしく見えたのだ。
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やっぱり君だ。
君だったんだ。
君のせいで止まっていた私の時間。
お久しぶり、勇者くん。
ずっとずっと、大嫌いでした。