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PLANET:E(仮)  作者: 語楽 文章
2章
17/18

第17話 撤退

 異様な光景を目にした勇仁達は唖然あぜんとしていた。

「間もなく八岐島は爆弾低気圧の暴風圏内に入ります。これに伴いエイデン《だいひょう》から島外撤退命令が出されました。速やかに対応して下さい。なお撤退援護の為、キマイラからSLCM(水上艦発射巡航ミサイル)を発射します」

 沈黙を破るササエルの報告に勇仁は動揺し何かを言いかけた。即座にモニターの線量計と陽子のバイタルサインを一瞥いちべつすると意を決し口を開いた。

「これより一時的に島外へ撤退する。一時的にだ。スパイダーはアルファとブラボーの隊員の所まで前進、ホークはスパイダーの援護に対空警戒。ジョン、今なら残りの隊員を回収できる。説明は後だ。兎に角トラックを回せ。チャーリーは隊員の回収作業に当たれ」

「おっおう、大丈夫なんだろうな勇仁。信じるぞ。みんなつかまってろ」

 

 トラックがスパイダーに合流すると陽子達は倒れている隊員達の元に駆け寄った。

「陽子隊員、容態ようだいは?」

「浜田さん、みんな脈はありますが手が冷たい…たぶん昏睡状態だと思います」

「くそっ、担いで運ぶぞ。デルタの2人、荷台そっちで引き上げてくれ。せーの」

「奥からベンチに運べ。エリオット隊員はロープでプレートキャリア(隊員のポケット付チョッキ)と背もたれアオリを固定しろ」


 離れた場所で2体のオーガは互いの手を掴みロックアップ(プロレスの手四つ)の体勢を取っていた。その光景を目にしたイッターはよろめきながら立ち上がった。

「そんなウロボロスが…なんてことだ、あの黒いのは?わからない。何が起きたんだ?悠子ゆうこ、君が私に見せてくれたものは一体…ちがう違う!そんなはずはない。こうなったら彼女に……」

 イッターは血走った眼で陽子の姿を追うと不敵な笑みを浮かべた。そして何かつぶやきながらへたり込んだ。慌ただしく作業を行うなかルーカスだけがイッターの言葉に反応した。陽子は落ち着かない様子で辺りを見回すが司の姿は見当たらなかった。

「隊長。司が居ません!わたしの、私のせいだ。あの時と同じだ」

「落ち着け、落ち着くんだ陽子隊員、聞いてくれ!このままだと部隊全体の身動きが取れなくなる…ササエル、司からの応答は?」

「呼び出し中ですが以前応答ありません」

陽子の動揺した様子が勇仁には笑っている様に見え出発の日に見た夢と重なる。

「もう(これ以上何も失いたくない)…もう時間がない。この場に居ない隊員はMIA(作戦行動中行方不明)扱いとする。陽子隊員、これは態勢を立て直す為の撤退だ。理解して欲しい」

「陽子君、君は何のためにここに来たのか思い出すんだ。気をしっかり持て」

「先輩、でもまだ今なら…」

「陽子隊員、単独行動は認められません。隊長の指示に従いなさい。浜田分隊長、彼女のサポートを」

 忠美の指示を受けた浜田は陽子の肩を強く引き寄せると首を振りなだめた。

「浜田了解、それからアルファの隊員一名見当たりません」

「こちらホーク。キマイラよりミサイル発射を確認!数…3」

「ここまでだ。各自速やかに乗車、MIAは2名。ジョン、トラックを出せ。拠点まで急げ、LCAC-2を待たせてある。スパイダーは状況を補足しながらしんがり(最後尾)を務めろ!ホークは追っ手を警戒!」

「「「了解!」」」

「ササエル。スパイダーの動力を内部電源へ移行します。インフラケーブルを強制パージ。トラックの後方に移動、後退後はリバース走行にて追走」

 スパイダーはホイールタイヤに切り替えるとトラックの後方に陣取った。ジョンはアクセルをふかし運転席の窓から身を乗り出すとトラックのドア側面を叩き乗車を促す。勇仁の合図でトラックを発進させた。


「きゃぁ!」

「陽子さん危ない!!」

「やめろっ。だぁはー、うっ!」

 陽子は後ろを振り向くと湯田隊員がイッターを突き飛ばしトラックの荷台から転げ落ちるのを目にした。

「どうした。湯田隊員!何があった?」

「隊長!あいつ(イッター)がまた陽子さんに何かしようとして…陽子さん怪我は?」

「首を、捕まれただけ、他は何とも」

 陽子は首に着いた血を拭うと後ろに振り返る。転げ落ちたイッターの姿は頂上の地平線に隠れて見えなくなっていた。

「こちらホーク、まもなく爆撃来ます。もっと離れて!」

「おいっ後ろ(荷台)で何があったんだ。ミサイルが見えてきたぞ。勇仁、このまま突っ走るぞ。いいんだな?」

「間に合わない。もういいジョン拠点へ急げ。堀石主任、(拠点の)モジュール炉を休眠モードの準備」

「了解しました。ササエル、小型モジュール原子炉にスリープシグナル送信」

「送信します。エラーが発生しました。要因は2つ考えられますが備え付けのコンソール(制御盤)から直接実行する事を推奨します」

 トラックに空気を激しく切り裂くミサイルの轟音が迫ってくる。後ろから大きな爆発音が鳴り響くと頂きの向こうに赤黒い爆炎が立て続けに昇った。空には3本の航跡雲こうせきうんにじみただよう。

「こちらホーク、頂上付近に弾着。現在後方からの追っ手の兆候ちょうこうは確認できません」

 CICのモニターに拠点のロータリー、LCAC-2が見えてきた。

「よし、堀石主任。手動での作業を頼む」

「了解しました。ジョンさんモジュール炉の前でトラックを止めて下さい。えっと…カドリさん降りて一緒に手伝って下さい」

「おっ俺?」

「はいっ!マニュアル通りやればすぐ終わります。とにかく降りて下さい。急いで、早く!」

「トラックはそのまま乗船、負傷者(マイク)を汎用スペースへ収容。手の空いている者は荷台にホロを掛けろ」

 

 荷台から降りたカドリはスパイダーの後に続き小型モジュール原子炉に向かい作業を始めた。

「は~ぁ折角の南の島だって言うのに、水着回バカンスもなしかよ。クソっ」

「カドリさん!作業に集中して下さい」

「えっ聞こえてた?何か喋ってないと落ち着かなくってさぁ。でもあともう少し…よし終わった。早いトコずらかろうぜ。んっ、なんだ?…嘘だろ!」

 地面を強く弾いた音が聞こえるとカドリは音の方に振り向いた。

「くっ黒いオーガが…カドリさん逃げて!」

 尚美の言葉で一同に再び緊張が走った。そこには狒狒ひひの無残な上半身と隊員の作業着を着たロゴヘットを両手にたずさえた紫黒色しこくいろのオーガの姿があった。スパイダーと後ずさりするカドリに向かって1歩踏み出すと体表の幾何学模様が薄らぎ崩れる様にうつ伏せに倒れ込んだ。両手足末端から血の気が引く様に黒いもやが一か所に集まり薄らいでいくと人の姿が現れた。

「おいマジかよ!黒いのから人が、出てきた。スゥーこれって…どゆこと?」

 倒れた人影に恐る恐る近づくカドリを勇仁の声が制した。

「ウスマン(カドリ)隊員待て、近づくな!スパイダーに確認させる。ササエル、周辺の線量と対象の体温を測定」

「線量は基準値より上回りますが許容範囲内です。これより対象に接近します。

 ヒヒとロゴヘッドは熱量から活動停止状態、絶命しているものと思われます。他の個体は失神状態のもよう。FRS(顔認識システム)の結果、星守司と断定、他は識別不能」

 勇仁は我にかえると慌てて口を開いた。

「誰か、チャーリー船内から担架とボディバック(遺体袋)、何か拘束できる物を持ってスパイダーの元へ急行。先に司を担架へ、他の2体の回収はスパイダーで行い収容後は拘束、死骸に触れない様に注意してくれ。運搬はスパイダーで行う」

 

 陽子は一番に駆け付けるとスパイダーの前にボディバックを広げ司の元に向かった。

「よかった。本当によかった…」

 陽子は感情を押し込めると駆け付けた浜田達と司を担架に乗せ急いでその場を離れた。LCAC-2操縦席後方の汎用スペースに司を運ぶと勇仁の合図で八岐島やまたじまを後にした。血の気がない司の顔を見ると視界がにじむ。感情を飲み込むように歯を食いしばると甲板に出た。遠ざかる八岐港の近くにかつて住んでいた家が瞳に映ると19年前の光景と重なって見えた。

「母さん、父さん。いつか、いつか必ず戻ってくる。必ず」

 空を覆う灰色の雲からの滴が甲板を濃く染めていった。


 多目的輸送艦ホライゾン CIC(指揮所)

 勇仁のSWに島津官房長官から連絡が入った。

「状況は映像で確認した。残念だが調査は一時中断する。隊員の健康安全の確認を最優先し安全が取れ次第全員帰還、星守隊長は今回の調査詳報ちょうさしょうほうを速やかに取りまとめ総合海上政策推進事務局に出頭する様に、以上」

「了承しました。至急取り掛かります」

 勇仁は艦内図をメインモニターに表示するとそれぞれに指示をだした。

「ブリッジ及びトミー艦長へ、こちら星守、全行程を中止。LCAC-2を収容後にクァムへ帰艦する。以上。

 ササエル、ホークを低気圧の観測に向かわせろ。島津隊長補佐と脇谷隊員、添田医師は防護服を着用後ウェルドック手前の大型キャビン2区画で隊員の待機場所への誘導と医療処置を頼む。その区間を一旦封鎖する。他にアドバイスがあれば遠慮なく言ってくれ」

「私 (ハンナ)から1つ、ここの設備だと応急的な処置で精一杯だ。クァムの宿舎に隊員分の隔離区間と対応する医療スタッフが必要になると思う。BSL-3(バイオセーフティレベル3)の規模は欲しい。アルファとブラボーの隊員、それに司君と回収した死骸は慎重に対処したい。今はその位しか思いつかない」

「わかった。手配する。堀石主任はササエルと今回スパイダーが取得した情報を時系列に沿って編集、不可思議な事象については科学的に分析・検証…仮説でも構わない、可能性のある情報は全て拾ってくれ。私は低気圧の観測をモニターする」

 

 ホライゾン・キマイラはクァムに進路をとった。まもなく陽が沈む。船首は赤い黄昏時たそがれとき、船尾は雷鳴轟く逢魔時おうまがときと奇妙な夕暮れ時を迎えた。

 LCAC-2を収容すると水平線の夕陽は一瞬緑色に輝き沈んでいった。


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