第12話 任務
護衛艦キマイラ・多目的輸送艦ホライゾン 同日12時過ぎ
勇仁は忠美に上陸指示を出したあとギデオン、キマイラ・ホライゾン両艦長とSWで打ち合わせをしていた。
「約40名が八岐島に上陸後エネルギー研究所に立て籠もりました。完成当時の設計図によると研究所は美原山と地下で複雑に繋がっており、幾つかの出入り口が存在します。大型ディーゼル発電機が複数ある事も分かりました。
連中の目的はまだ断定できませんが、恐らく美原火山の地下資源が狙いだと思われます。空路で地下資源の生成部品を搬入、神湊港に大量のジェリカン(燃料容器)を搬入、中身はディーゼル燃料だと思います。それらが現在研究所に運び込まれている最中です」
「ヘリを壊しただけか?なぜ、すぐに対応せんのだ。後々厄介になるだけだぞ」
「クライアントにはまだ報告していませんが、専守防衛となるでしょう。それなら連中の補給路を断った方が早いと思います」
「はぁ面倒くさい話だ。」
ギデオンはため息をつくと背もたれに寄りかり腕を組んだ。
「私もそう思います。連中の残党がまだオマエハン島に潜伏しています。キマイラにも特記事項が適用されていますが、クライアントの領土外なので手出しができません」
「!?。つまり、クライアントのルールに従いコッチ(キマイラ・BS部隊)で対処しろと言う事か?」
ギデオンは前のめりでモニターに顔を近づける。勇仁は微動だにせず答えた。
「そう理解して戴いて結構です。航行可能状態でのヘルシー号の拿捕、オマエハン島の制圧、被害は軽微な負傷者程度が条件になります。プランを考えたのでよろしければ進言しますが…」
ギデオンが話そうとするの制止してキマイラの艦長が口を開いた。
「待ちたまえギデオン君、星守2級海佐1つ質問をしたいのだが、いいかな?」
「もちろんです。トミーシージョーンズ提督(海軍大将)」
「はっは、退役した身だ。トミーで構わんよ。身内以外で久しぶりにその名前で呼ばれたよ。君とは、この作戦で初めて顔を合わせたが合同演習では何度か訓練を共にした。面白い発言をしたので覚えている。
君のプランも…気になるが、提示した条件を満たせば独断専行でも構わないという理解でいいかな?それからホークをこちらに回して欲しい。任務完了の後の手筈は?」
「はい、トミー艦長。既に補給艦も含め手配済みです」
「よろしい、この件私に任せてくれ。勿論条件は守る。それではこれで失礼するよ。島津海将(島津官房長官)にも宜しく伝えておいてくれ。ギデオン君、独断専行なんてめったにないぞ。作戦会議といこうじゃないか…」
護衛艦キマイラ艦内 13時過ぎ
トミーは喉の調子を整えると四角いハンドマイクのスイッチを握る。
「全クルーに告ぐ、本艦はこれよりオマエハン島沖合を航行中のヘルシー号を拿捕しに向かう。これは演習ではない。繰り返す…」
艦内クルーはアラートが鳴るなか1度目のアナウンスを黙って聞くと蜂の巣を突いた様に慌ただしく動いた。トミーは続けて指示を出す。
「機関長、こちらブリッジ、トミーだ。補給艦が来る手筈になっている。最大戦速で頼む」
ハンドマイクを元の位置に戻すと航海士に高揚した面持ちで笑みを浮かべた。
「オマエハン島に進路をとれ、ヘルシー号の側面に着けろ!」
護衛艦キマイラ BS部隊待機所
「BS部隊総員。10分後に通常装備にて船尾格納庫へ集合」
艦内アナウンスが流れる中、各隊員のSWにギデオンの通信が入った。こちらも慌ただしく支度を済ませ格納庫へ集まった。サムソンはギデオンの作戦内容をメッセージで確認すると満面の笑みで整列した隊員の前に立った。
「あに、部隊長からの命令を伝える。ボトム1からボトム3(計30名)はJPUを装備。ボトム3はホライゾンに行って待機。ボトム4(10名)はこの場で待機。残りはガスマスクとネダルMGL(40mmリボルバーグレネードランチャー)を持ってCRRC(戦闘用ゴムボート)に乗船、ヘルシー号を拿捕する」
サムソンは隊員の前を往復しながら伝えると隊員に向かって人差し指を向けた。
「お前達は、バカ・アホ・クズ、俺も含め何処の部隊も爪弾きのならず者だ。周りからはハイエナ部隊と呼ばれている。だが兄貴や俺はそんなハイエナを誇らしいと思っている。骨を粉砕する強靭な顎、スピード、スタミナ、チームワーク、どれをとっても優秀なハンターだ。俺たちの強みは何だ?」
「ジョウ(顎)!スピード!スタミナ!チームワーク!ウワォ~ン」
「そうだ。兄弟雄叫びをあげろ!狩りに出かけるぞ。配置につけ!」
オマエハン島沖合 15時頃
ヘルシー号は二回目の物資を積んでオマエハン島沖2海里(約3,700km)を航行中だった。キマイラは水平線に隠れながらヘルシー号の船体側面に回り込んだ。
「ロングボウ(レーザー兵器)を起動。まずは口上と行こうじゃないか。通信始め」
「こちらは八岐島調査隊警備艦キマイラ、貴艦の八岐島並びにオマエハン島への不法な上陸・占拠・調査等の妨害工作は犯罪行為に該当する。速やかに停泊し臨検(立入検査)に対応されたし。応じない場合、強硬臨検を行う。繰り返す」
航海士の通信と甲板の信号灯からもモースル信号で伝えるが反応がない。上空のホークが甲板に出てきた構成員を捉えた。数名がワサビニコフとRPGを所持している。SWで確認すると航海士に指示を出した。
「交信はそのままにBS部隊を降ろせ。ジャミングを掛けろ。速度を維持しつつヘルシー号の船尾に回れ、甲板の戦力を分断する」
BS部隊が乗ったボート2隻は海面を跳ねながらヘルシー号の船首方面に近づく。距離1km近くに迫るとヘルシー号からRPGが3発ボート目がけて飛んできた。ロングボウが全て撃ち落とす。
「やろう!撃ってきやがった。いいぞぉ前方に煙幕撃て!ボトム1抜けたら乗り込むぞ。ボトム2は煙幕を撃ち続けろ」
ボートの進路先に茶色いドーナツ状の煙幕が無数に広がった。
「ボトム1出るぞ。俺に続けヒャッハー!!思った以上に風がきついな!シャルロ、もっと低く飛べ。全員俺の後ろに回れ。ササエル俺以外自動飛行モードにして俺を追尾しろ。ブリッジに着いたら距離をとって時計周りに旋回。兄弟は甲板に催涙弾を撃て。ボトム2離陸しろ船首下で待機」
指示通りに展開するとサムソンはブリッジの真上で状況を確認しブリッジ後方の死角になっている外通路に降りた。入り口の扉を確認すると小声で指示を出した。
「ボトム2は風上から甲板の賊を拘束しろ、ボトム1は3名俺の所に来い。残りは外からブリッジを取り囲め制圧するぞ」
サムソンは閃光手榴弾を2つ手に取ると合流した隊員が扉を開ける。投げ込むと炸裂する音を確認してから中に突入した。
「全員手を頭の後ろに回して跪け、少しでも動いたら射殺する。艦長は俺の前に来い」
サムソンの前に出てきた男に銃口を向けた。
「キャプテンキッド、海賊ごっこは終わりだ。ボトム1の6名は拘束した捕虜を1人連れて機関室を制圧、ボトム2の6名は各甲板を、封鎖するだけでもいいぞ。
エンジントラブルで戻ると島の仲間に言って全員出迎えさせろ。それから少しでも俺が怪しいと判断したら拘束した捕虜は板歩きの刑だ。わかったな?島の状況を詳しく説明しろ」
「こちらHQ。サムソン分隊長よくやった。状況が終了次第ボトム2はボトム1と弾薬の補充とJPUを交換、ボトム2は帰還後燃料を補充してボトム4と交代せよ」
オマエハン島の状況を把握したBS部隊は船着き場に停泊したヘルシー号から急襲。催涙弾で賊を制圧。補給と引き渡しを済ませ19時過ぎに八岐島まで戻ってきた。
八岐島 上陸1日目 元八岐港の近くのロータリー 7時過ぎ
俺たちは支度を済ませると島津隊長補佐の指示でラジオ体操を行った。ホライゾンにいるみんなもラジオ体操をやっているのだろうか。
ロータリーは縦20m横70mの長方形で真ん中は駐車場になっている。ここに拠点を作る。アルファとスパイダーはケーブルを敷設しながらブラボーと共に空港に向かった。ブラボーの要請があるまでチャーリーはデルタを手伝う段取りになっている。
遠くからヘリコプターの音が聞こえ先を見ると小型モジュール原子炉が運び込まれてきた。チャーリーが対応しロータリーの右横に降ろすとカドリと源さんが炉を起動させケーブルと接続した。インフラケーブルのボビンはそのまま通信アンテナになっていてこれをどんどん繋いで空港まで敷設する。
作業が始まると慌ただしくなった。真水生成器のホースの引き込み、3Dプリンタで真水貯水タンク作成、プリンタ用の材料調達(浜辺から採取)、デルタの任務は拠点の設営だ。ジョンと俺、カドリとルーカスに別れ浜辺の砂堀と3Dプリンタと一体になっているミキサーの充填作業を交代で行う事になった。
俺の運転でジョンとトラックに乗り込み上陸地点に向かう。尚美に確認して装備を外すとひたすら剣スコップで砂を土嚢袋に詰め込む。
「ジョンそろそろトラックに積み込む?ジョン聞いてる?」
「あ?なんだ、司。何か言ったか?」
「一度トラックに積む?」
「あぁ…そうだな。そうしよう。よし司、荷台に上げてくれ」
「大丈夫?まだ時差ボケで調子よくないの?」
「ん?あぁ。そうかも知れんな。それより司、剣スコの使い方上手いじゃないか。息もそんなに乱れてないし。塹壕堀やった事あるのか?」
「前にも言ったと思うけどウチ農家だからさ、こう言うの慣れてるんだよね。体全体を使わないとすぐバテるぞって、よくじいちゃんに言われたっけ。でも久しぶりにやると結構きつい」
「そりゃ頼もしいな。その調子で頼むぜ」
アルマジロからカドリの声が聞こえた。
「おーい。そろそろこっちの材料が無くなりそうだ。悪いけどある分だけ持ってきてくれないか?」
「すまんがちょっと行ってくる。ついでに飲み物持ってくるけど無理するなよ」
「オッケー任しといて」
トラックのエンジン音が遠ざかると押し寄せる波の音が耳に入る。何気なく音の先を見ると海面に青色以外の線が見える。海洋ゴミだった。線の先を辿ると入り江の方にゴミが集まっている。暫く眺めていると目線の先にある美原山の尾根から鳥の一団が一斉に飛び立った。
その後、2回交代を繰り返しその日の作業は終了した。夕食の後、各チームの状況を把握したけどケーブル敷設・拠点の進捗状況は全体の3分の1程度だった。
多目的輸送艦ホライゾン 10時頃
尚美はCICでチャーリーとデルタのスパイダーの行動をモニターしていた。
「!?。(また少し映像が乱れた)島津隊長補佐、私の方の機材、朝から少し調子悪いみたいなんですけどアルファ・ブラボーとのやり取りで不具合はありませんか?」
「たまに音声ノイズが入る位はあるが、どうかしたのか?」
「わかりません。私のほう作業的に余裕があるのでちょっと調べてみます。
ササエル、島に上陸してから大小関わらず通信に不具合が発生した記録を集めて下さい」
会話が終わると二人はお互いの作業に戻った。
「島津隊長補佐、昨日の夜19時頃からバラつきはありますが、ノイズが発生しています。ホークの映像とも一致しています」
「原因は?」
勇仁は忠美と尚美の会話に気が付いて声をかけると二人とも振り向いた。
「わかりません。ですが島は独立、浮いているのでエネルギー源はないと思います。外からの干渉を考えると私たちの船位しか考えられませんが、何か聞いていませんか?実験とか試験とかの話を」
「…特になにも、君は?そうか、次の予想時刻は?」
勇仁と忠美はお互いの顔を見ると尚美の意見を促した。
「多少バラつきはありますがノイズが発生してから次のノイズまで1時間前後から90分前後に1回の割合です。次の予想は11時頃から12時の間になると思います」
11時24分、二人はノイズを確認すると勇仁の方に振り向く。3人は顔を見合わせ黙って頷いた。
「次は12時半から13時前後か?」
勇仁の問いかけに尚美も黙って頷いた。その後も調査隊員の作業終了まで予想した範囲内でノイズが発生し続けた。
「堀石主任、この状況をどう考える?」
「夜1時頃のノイズが一番大きかった以外は大小様々です。専門外なのでハッキリとした事は言えませんが、昨日の19時頃のホークの映像からノイズが発生、そのとき機器に影響を及ぼす様な人工的なエネルギーによって磁場、とか若しくは何かしらの強い電離放射線(X線、γ線、α線、β線、電子線、陽子線、重粒子線、中性子線)が島の何処からか放出されたと思います。その現象がある程度の間隔で今も続いています」
「ただ、今の島の状況だと考え難いと」
「はい、そうです。大きな陸の塊が海に浮いていると思うと可笑しいと思います」
尚美は勇仁の目をまっすぐ見ながら答えた。
「わかった。もう暫く様子を見よう。二人ともこの事はまだ心に留めておいてくれ」
八岐島 元八岐港の近くのロータリー 20時
俺たちのチームから夜の見張りが始まった。昼の砂堀のせいで体のあちこちが軽い炎症気味だ。見張りが1番目で助かったと思った。スパイダーが配置されているので俺たちはロータリーを周回する形になる。昨日は全員で回ったが、ジョンが二手に分かれて半分を往復しようと提案してきたのでジョンとルーカス・俺とカドリに別れて見張りを行った。
昨日と同じ時間になると俺は姉ちゃんが休んでるトラックに向かった。
「またマフラー(クーフィーヤ)貸してよ。弾の入った銃って重いんだね。あとマガジンも、肩に跡できちゃうかも。そう言えばさぁ…ってなにその顔」
「またジョンに怒られちゃうよ。それに1日が終わったと思ったらどっと疲れが出てきて、ちょっとねむい。そんな変な顔してた?」
「…そっか、司のところ大変そうだったもんね。また今度話すね。今日も一日任務ご苦労だった司隊員、これより夜間の見張り交代します」
姉ちゃんはトラックを閉めるとチャーリーのテントに歩いて行った。
フィリピア海沖合 明け方
クァム島から約800km、ある海域に各地から捨てられた海洋ゴミが集まり始めた。数は徐々に増していき異様な光景が海面に広がった。それに合わせて海面から泡と煙が立ち上り始めた。




