33.儀式に向けて
「お願いします! 可能性があるなら、私はそれに賭けたいわ!」
三つ目の方法を聞き、エメラインは大きく身を乗り出す。
「その……俺もエメラインさまと結婚したいです」
バートが遠慮がちながらもはっきりと言うと、ザッカリーは力強く頷いた。
「うむ。ただし、そなたたちが非難の目にさらされることは覚悟せよ。また、仮にそなたたちが本当に兄妹だった場合は、選択肢など絶たれるだろう。それでもよいのか」
「もちろんです」
「構いません」
エメラインとバートの声が重なる。
このまま希望なく安穏な生涯を終えるよりも、たとえ茨の道であっても愛する人と結ばれたかった。
「わかった。ならば、血縁関係の有無を調べる方法だが、確かなものがある。神殿による鑑定だ」
「神殿……ですか?」
エメラインは首を傾げる。
王都にある神殿には、祝福を受けるために何度か行ったことがある。
しかし、血縁関係まで調べてもらえただろうかと疑問を抱く。
「そうだ。神に仕える神官たちだけが使える特殊な魔法があってな。それによって、親子関係などを判定できる。エメラインは一度、神殿で調べてもらったことがあるはずだが……覚えていないか?」
「ええと……そういえば、そんなこともあったような気が……」
曖昧に返事をしながら、エメラインは考え込む。
血縁を調べる儀式で、自分がギャレット辺境伯家の血を引いていることが確認されたのは知っていた。だが、そのときのことはよく覚えていない。
どうやらその儀式を受けたのが、神殿だったようだ。
「まあ、まだ幼い子供であったから仕方あるまい。とにかく、この方法を使えば血縁関係が明らかとなる。問題はそう簡単には調べてもらえないことだ。多大な魔力が必要となるので、王族やそれに準ずる高位貴族などしか頼めないからな」
「……でも、私も調べてもらっているのですよね。それなら、また頼めるのではありませんか?」
ギャレット辺境伯家はれっきとした高位貴族だ。
エメラインが言うと、ザッカリーは苦笑を浮かべた。
「まあ、そう思うであろうが、そなたの場合はギャレット辺境伯家の血縁かが重視されたからなのだ。我が家には特殊な血縁ゆえの魔力があるからな。今回のような、結婚のために兄妹か知りたいというのは前例がないのだよ」
「そうなのですね……」
エメラインは落胆する。
しかし、諦めるのは早すぎると思い直し、気を取り直して顔を上げた。
「では、どうすればいいでしょうか?」
「通常であれば、このようなことで儀式は行われないだろう。だが、幸いにして王族がそなたを貶めようと頑張っているではないか。その頑張りに賭けてみようと思ってな」
にやりと笑いながら、ザッカリーは言った。
「えっ?」
「あの……どういう意味でしょう?」
エメラインとバートは戸惑って顔を見合わせる。
「王族がそなたたちの仲を裂こうとしているではないか。実際には、第四王子を唆した者がいるだろうが……とにかく、このままそなたたちが結婚を諦めなければ、兄妹であることを大々的に公表しようとするはずだ。そのため、神殿での儀式を行うよう働きかけてくるだろう」
「なるほど……」
「確かに、可能性はあると思います」
エメラインとバートは納得しながら頷く。
第四王子を唆したのは、キャメロンかダミアン、あるいはその両方だろう。
見下していたエメラインに面目を潰されたダミアンの恨みは、相当深いに違いない。彼の執拗な性格からして、徹底抗戦の構えを取ると思われた。
おそらく、大勢の前で兄妹であることを暴き、つるし上げようとするはずだ。
もしかしたら、そのうえでダミアンが再び婚約者として返り咲き、辺境伯の座を狙おうとしているのかもしれない。
「そこで、わしとしてもバートの出自について調べてみよう。実は少々考えていることがあってな。それがうまくいけば、そなたたちが望んだ結果が得られるかもしれぬ」
「本当ですか!?」
エメラインとバートは驚きの声を上げる。
「ああ。ただし、上手くいくかどうかはわしにもわからん。何しろ、これは賭けだからな。むしろ、状況的にはそなたたちが兄妹である可能性のほうが高い。その場合、わしはそなたたちに謝罪せねばならぬだろう。だが、わしは信じておるよ。そなたたちが結ばれることをな」
穏やかなザッカリーの言葉を聞いて、エメラインは涙が溢れそうになる。
「ありがとうございます!」
エメラインは深く頭を下げた。
バートも感激しているようで、瞳が潤んでいる。
「よし。そうと決まればすぐに動こう。向こうが動く前に、いかに準備をするかが勝負だ。エメラインとバートは、神殿に行く心の準備をしておけ。さほど遠からず、呼び出しが来るはずだ。そこがそなたたちの戦場だぞ」
ザッカリーが力強く言い放つ。
「はい!」
エメラインとバートは声を合わせて答えた。
おそらく、神殿ではエメラインをつるし上げようと待ち構えていることだろう。
貴族たちを集めて、罵倒する場を用意しているかもしれない。
しかし、エメラインにとって本当に恐ろしいのは、バートと引き離されることだった。それから比べれば、蔑みの眼差しも、罵りも大したことではない。
エメラインは改めて決意を固めると、拳を握ったのだった。