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29.婚約

 エメラインとバートが連れ立ってギャレット辺境伯ザッカリーのもとを訪れると、彼は満面の笑みを浮かべていた。


「おお、そうか! ついに結婚を決めたのだな!」


「は、はい。お許しいただけるのであれば……ですが」


 エメラインが答えると、ザッカリーは嬉しそうに何度も頷く。


「当然だ。わしはそなたたちの仲を認めよう。そうと決まれば、早速準備を進めねばならんな!」


 ザッカリーの勢いに気圧されつつ、エメラインたちは顔を見合わせる。


「準備ですか?」


「そうだとも。貴族の結婚には、国王陛下の許可が必要となる。とはいっても形式的なものだから、気にすることはない。すべてわしに任せておけ」


「は、はい」


「結婚式はどうする? 王都で盛大な式を挙げようか?」


「いえ、ここギャレット辺境伯領こそ、私のいるべき場所……故郷なのです。ここで挙げたいと存じます」


「そうかそうか」


 エメラインの言葉を聞き、ザッカリーは満足げに笑う。


「ならば、領地を挙げて祝おう。領民たちも喜ぶぞ! 今のうちに、盛大な祭りを準備しておく必要があるな。すぐに手配しよう」


「ありがとうございます」


 張り切るザッカリーに、エメラインは恐縮しながらも礼を言う。だが、隣に立つバートは、複雑な表情をしていた。


「どうしたの? バート」


「いえ……本当に平民の俺なんかがエメラインさまと結婚できるんだなって……」


「バート……」


 エメラインは悲しげに目を伏せるが、ザッカリーは豪快に笑い飛ばす。


「何を言っている。そなたは立派に務めを果たしたではないか。結界が崩壊した際、最も強い魔物である黒竜を倒したのはそなただ。その功績は称賛に値する。何より、これまでずっとエメラインを救ってくれたことに感謝している」


「いえ、黒竜は辺境伯さまが弱らせていたからこそ倒せたのですし、俺はエメラインさまを守るのが役目だったので……」


「いいや、そんなことはない。そなたはエメラインを守った。だからこそ、エメラインもそなたを選んだのだ。自信を持てばいい」


「……はい」


 バートは戸惑いながらも返事をする。

 そんな彼に、エメラインは優しく微笑みかけた。


「ねえ、バート……。あなたがこの先もずっと一緒にいてくれるなら、それだけで私は幸せなの。だから、あまり自分を卑下しないで」


「エメラインさま……」


「それにね、私もバートのおかげで強くなれたもの。バートがいなければ、きっと何もできないままだったわ。バートがいたから、私はここまで来られたのよ」


「……わかりました。エメラインさまのお気持ち、しかと受け止めます。これからは、あなたの力になれるように頑張りますね」


「ええ、期待してるわ。これからもよろしくお願いします」


 エメラインが微笑むと、バートも笑顔になる。その様子を目の当たりにし、ザッカリーは楽しそうな笑い声を上げた。


「うむ、若いというのは良いものだな。ところで、挙式はいつ頃がよいだろうか?」


「えっと……早いほうがいいと思います」


「わかった。では、なるべく早く日取りを決めよう。そうだ、その前に婚約の発表も必要だな」


「ええ、それもよろしくお願いします」


 こうして、二人の結婚話はとんとん拍子に進む。

 エメラインとバートの婚約が正式に発表されたことで、領内はお祭り騒ぎとなった。

 辺境の聖女として慕われていたエメラインと、その護衛騎士であるバートとのロマンスは多くの領民を感動させたようだ。


 さらにバートは領内の見回りを積極的に行っていたこともあり、領民たちからの評判は非常に良かった。

 同じ騎士仲間たちからは多少のやっかみがあったようだが、それでもバートの功績は大きく、また誰もが実力を認めていたために、問題となるようなことはなかった。


「お嬢さまが、とうとうバートと……感無量でございます」


 バートの姉であるアルマも泣いて喜んでいた。

 彼女はエメラインにとっても姉のような存在だ。こうして喜んでくれることに、エメラインも心の底から嬉しく思う。


「バート、お嬢さまを幸せにして差し上げるのですよ。もし泣かせたら承知しませんからね!」


「わかってるよ。絶対に幸せにするさ」


 バートは力強く宣言し、エメラインは顔を赤らめる。

 こうして二人は、ギャレット辺境伯領内において皆に祝福されながら、順風満帆な日々を送っていたのだった。


 ただ、エメラインにとって少しだけ不満だったのは、バートがいささか他人行儀だったことだ。

 婚約者となったというのに、未だ彼は敬語のままで、エメラインを呼ぶときにも敬称をつける。


「あの……バート。二人きりのときくらい、普通に接してほしいわ」


「あー……すみません。まだ慣れなくて」


「そう……」


 エメラインは残念な気持ちを抱えながら、俯く。

 せっかく恋人同士になれたというのに、関係も以前とさほど変わらない。手を繋いだり、頬や額に口づけされたりすることはあったが、それ以上はなかなか進展しなかった。


「そのうち、もっと自然に話せるようになるといいんだけど……」


 ぽつりと呟きながら、エメラインは小さくため息をつく。

 そんな彼女の姿に、バートは申し訳なさそうに謝った。


「ごめんなさい、エメラインさま。もう少し待っていてください」


「いいの。無理は言わないから」


 エメラインは苦笑する。

 バートは生真面目な性格なのだ。急に態度を変えるのは難しいだろう。

 長年の護衛と主人、兄と妹のような関係から、いきなり夫婦になろうと言われても戸惑うのは当然だ。

 焦ることはない。これからじきに結婚式を挙げて正式な夫婦になれば、バートも自然体になっていってくれるはずだ。

 エメラインはそう考え、バートとの結婚生活を楽しみにしていた。


 ところが、国王からは一向に結婚の許可が下りなかった。

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