表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/43

28.告白

「え、ええと……裏庭に行きましょうか」


「そ、そうですね」


 エメラインの提案に、バートも同意して歩き出した。

 二人で屋敷の裏手にある小さな庭園へと向かう。

 幼い頃のエメラインが、ギャレット辺境伯家に滞在していたときによく遊んでいた場所だ。しばらく歩くと、やがて木々に囲まれた空間へと辿り着いた。そこにはベンチがあり、エメラインとバートは並んで腰を下ろす。

 日陰となっているせいか、少し肌寒い。けれど、火照っていた頬には心地よかった。


「……あのね、バート……」


「……はい」


 エメラインは深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。心臓がどきんどきんと高鳴っている。

 しかし、言わなくてはと焦るほど、次の言葉がうまく出てこない。


「……お嬢さま。俺から、先に話してもよろしいでしょうか? 少し長くなってしまいますが……」


 見かねたのか、バートが口を開いた。

 やや申し訳ないと思いつつ、エメラインはほっとする。


「ええ、もちろんよ。あなたの話を聞かせてほしいわ」


 微笑んでエメラインが首を縦に振ると、バートは意を決した様子で話し出す。


「俺は……ずっと前から、お嬢さまのことをお慕いしていました。でも、身分が違うからと諦めていました。お嬢さまが幸せであれば良いと……でも、あの婚約者ではお嬢さまを幸せにできるなどと思えず、見ているのがとてもつらかったです」


「バート……」


「だんだんと自分の気持ちが抑えられなくなって……俺は死ぬつもりでこの地に来たんです。お嬢さまのために少しでも魔物を倒して、そして死のうと」


「そんな……」


 思わず、エメラインはぎゅっと拳を握り締める。

 バートがエメラインのもとを去るとき、彼は死ぬ気なのだと直感したが、それは当たっていたらしい。


「でも、お嬢さまが追いかけてきてくださって……嬉しかった。お嬢さまがそばにいるだけで、こんなにも心が温かくなるんだと思い知りました。だから……今度こそ俺がお守りすると決めたんです。もう二度と、お嬢さまを悲しませたくはないです」


「バート……ありがとう。本当に……ごめんなさい。私の身勝手であなたを苦しめてしまったわ……」


 エメラインは涙を浮かべながら、そっとバートの手を取った。

 自分のせいで、どれほど彼を傷つけてしまったのだろう。そう思うと胸の奥が痛む。


「いいえ、謝らないでください。お嬢さまは何も悪くありません。俺が逃げてしまっただけなのです」


 そこで言葉を区切ると、バートはエメラインの手をそっと握った。


「俺は……お嬢さまが好きです。もし本当に許されるのなら、俺は……お嬢さまと結婚できたらと、思っています」


「……っ」


 疑いようのないはっきりとした告白を聞き、エメラインは大きく目を見開いた。


「だから……だから、お嬢さまの気持ちを教えてください。お嬢さまは……どう思ってくれていますか?」


 真剣な眼差しで見つめられ、エメラインは目を逸らすことができなかった。

 顔が熱くて仕方がない。全身が燃えるように熱い。

 今にも爆発してしまいそうなほど、胸の鼓動が激しく脈打っている。


「……好き」


 エメラインは掠れた声で囁く。


「……好きだわ。大好き。私は……あなたが好き」


「……っ!」


 控えめな声ながらもしっかりと告げると、バートの顔も真っ赤に染まる。そして、そのまま二人はどちらともなく抱き合った。

 しばらくの間、無言のまま相手の体温を感じていたが、ふと思い出してエメラインは顔を上げた。


「ねえ、バート……。私のこと、名前で呼んでくれないかしら? お嬢さまなんて他人行儀な呼び方じゃなくて……」


「えっと……いいんですか? 今までずっとお嬢さまって呼んできたのに……」


「いいの。だって……恋人同士なんだもの。特別な関係になったんだって実感したいわ」


「わかりました」


 バートはエメラインから体を話すと、両肩に手を置いて至近距離で視線を合わせる。


「エメラインさま」


「……さまはいらないわ。呼び捨てにしてちょうだい」


「いえ、それはちょっと……慣れるまで時間がかかりそうだし、今はこれで許してもらえませんか?」


「……わかったわ」


 バートの照れくさそうな表情を見て、エメラインも微笑み返す。そんなエメラインをバートは愛おしそうに見つめると、額に口づけを落とした。


「ん……っ」


 くすぐったさに身を捩りそうになるが、エメラインはじっと我慢する。

 そのまま目を閉じ、受け入れながら続きを待つ。しかし、いつまで経っても唇には触れてこなかった。

 不思議に思い、エメラインが薄目を開けると、バートが困り果てたような顔をしていた。


「バート……?」


「あー……すみません。その……これ以上はやめておきましょうか」


「えっ……」


 どうしてやめてしまうのかと、エメラインは不満げに頬を膨らませる。

 すると、バートは苦笑してエメラインの頬を撫でた。


「あのですね、ここは一応外ですよ。誰に見られるかわかったもんじゃないですし……」


「あっ……」


 その言葉で、エメラインもようやく周囲の状況を思い出す。

 すっかり二人きりの空間だと思い込んでいたが、ここは屋敷の裏庭だ。庭園として整えられてはいるが、屋敷の敷地内である以上、誰かが通りかかる可能性もある。


「それに……俺もまだ心の準備ができていないというか……」


「心の準備?」


「ええ、まぁ、なんと言いますか……その、いずれそういうこともしたいとは思ってますけど、今の段階では……少し恥ずかしいといいますか」


「ああ……そうね。確かに私も、心の準備が必要だわ」


 お互いに照れてしまい、しばらく沈黙が落ちる。

 やがて、バートが気を取り直すように咳払いをした。


「とにかく、これからよろしくお願いします。エメラインさま」


「こちらこそ……バート」


 改めて挨拶を交わし、エメラインは幸せを噛み締める。

 きっと、これからたくさんの困難があるだろう。けれど、バートと一緒に乗り越えていきたいと思う。

 そして、いつかは本当の夫婦になれたらと願わずにはいられなかった。


「さてと……そろそろ戻りましょうか。お嬢さまに風邪をひかせるわけにもいきませんし」


「……ええ」


 名残惜しく感じつつも、エメラインは素直に従う。そして、バートの手を握ると、ゆっくりと歩き出した。


「あの、バート……」


「はい?」


「また……こうやって手を繋いでもいい?」


「もちろんです」


 バートはしっかりと握り返してくれる。

 エメラインはその温もりを感じながら、バートのそばにいることを心の底から嬉しく思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆新連載◆
私の夫は妻を殺す悪役公爵──その未来、絶対に阻止します!

◆コミカライズ◆
『無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖女と呼ばれる~傲慢な婚約者を捨て、護衛騎士と幸せになります~』
1巻
2巻
無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる1   無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる2

◆電子書籍◆
『無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖女と呼ばれる~傲慢な婚約者を捨て、護衛騎士と幸せになります~』
1巻
2巻
無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる1   無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる2
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ