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4男子JKの初めての夜

規則に狂わされる男子高校生

 麻岡 志紀は至って普通の高校2年生だ。嘲笑癖のある性格ながらも、ユーモアセンスがあり、器用に地雷をかわすため周りからの評価は高い……はずだ。少なくとも麻岡はそう思っている。


 そんな麻岡には幼馴染がいる。何年もつるんできた悪友であり麻岡の丁度後ろの席に位置する、男子生徒……天笠宜喜だ。


 普段も時々おかしな行動をとる変人であったが、今日の天笠は変人を超えた……変態のようだった。


 髪を耳にかける仕草、姿勢の良い立ち振る舞い、丁寧な言葉遣い……どれも麻岡には見慣れないものであった。既にクラス中では宜喜の異常に気がついているようだ。


 殺意が漏れ出るキツい目で(こんな顔も出来るのか)恋愛小説を黙々と読んでいる宜喜は普段の素行の悪さも相まって珍しさを超え、何かの吉兆だとして崇めようとした人間もいた。


 クラスメイトの視線をモノともせず威風堂々としている宜喜に麻岡は……触れてはいけない禁忌を感じたので、茶化さず普段通り接した。


 何となく、察しがついて麻岡はスマホで学園のネット掲示板を開く。


『――あの天笠に女ができたらしい。』


 馬鹿みたいに率直なスレッドが立ち上がっていた。噂が噂を呼び、女っ気が全くない男に神話が出来上がっているようだ。


『ちょっと今日の天笠、カッコいいかも。』


『目元キリッとしちゃってさ』


 女子生徒達の黄色い叫び声が画面上で飛び交っていた。


 けれど麻岡は優雅に茶でも嗜む様な姿勢でそれをスクロールするだけだった。


 何故なら麻岡は知っている。天笠宜喜という男がどれほど気紛れで適当な人間であるということを……。


 口調は宜喜のみたアニメに影響されるし、突然何かを始めようとして意気込んでいても、明日にはその存在すら忘れて机に突っ伏す……。


 今回はどうせモノクル陰険キャラに憧れただけだろう。

 

 付き合っていくにはある程度の受け入れる(スルー)力が必要になってくるわけだ。


 異常であることが正常……だと、麻岡は割り切っている。

 

 ただそんな麻岡でも今日の彼には度し難い点があった。


 今日の宜喜は女子トイレに異常なほど執着していた。暇さえあれば女子トイレの周りを彷徨き時々眉間に手をやって項垂れていた。


 他にも男子生徒からの接触を過度に嫌がっている節があった。逆に女子生徒にはたじろぎもせず自然体で話していた。奥手で、世間体を大いに気にする宜喜にはあり得ない行動だった。


 何より麻岡が恐れたのは女子と話していた宣喜の目である。明らかに獲物を狙う眼であった。そんな視線を見境なしに送るわけがない。ないはずなのだが……。


 もしかしたら、宜喜は新たな()()を見つけてしまったのかもしれない。麻岡は逡巡する。宜喜を止めるべきかと。クラスメイトとしては真っ先に止めるべきなのだろう。そして未来永劫、宣喜を女子トイレに、近づかせないようにする。これがベストだ。しかしだ、宣喜が()()()()()()()であったら……それは覚悟だ。決意だ。ドラマだ。友人として彼を後押しするのは当然だ。


 麻岡は後ろの席で荷物を整えている宜喜に一声かける。


「なんかあったら言えよ?」


「いいえ。大丈夫です。」突っぱねる様に低い声で応対する宜喜。


 もしかしたら、機嫌が悪いだけかもしれない。杞憂……そんな言葉が浮かび、麻岡は「ふぅ」と溜息をつき眼鏡をかけ直した。

 


 


 








 俺こと天笠宣喜(天笠風音)?は今、人生の大きな転換期に差し掛かっている……いや正確には差し掛かったの方が正しいか、とにかく性別が転換した。あとキャリアも。


 簡潔に言うと俺と風音の体は入れ替わった。俺はショックのあまりパラノッた。


 そして、いきなり俺の身に障害が降り注いだ。天笠風音(天笠宣喜)が俺の()()()()をすべて露呈させ、挙句の果てには「俺の学校に行った」などという爆弾発言をしてから、洋画みたく選別だと言わんばかりに俺の右ほほを引っぱたいた。


 そして、赤っ恥をかいたのは俺だけという……。


 自分に正当性がないのは認めよう、だが風音よ……やりすぎだとは思わんのかね。


 俺と正対して黙々と飯を食うモヤシ男子にそう、目で訴えても何も事態は変わらないというのに。俺は箸止め風音を穴が開くぐらい見ていた。


 現在、祖父、母、妹、俺で食卓を囲んでいる。


「ん~風音でエイヨーホキュー。」


 そんな俺に異常なほど近い母、綾香CEO……お勤めご苦労様。俺が病欠で休んだのを忘れるあたり、天然である。


「宣喜……ついに本気になりおったか。孫の顔が近いな。」


 変なことを呟いている耄碌祖父、智嗣会長……暖かくして寝よう。

 

 「お風呂いただきます。」


 気づけば食べ終えていた風音は『お台所』に直で繋がっている脱衣所へとそそくさと入ってしまった。


 あれ、風呂って…………まずい。


「……どうしたの?風音、凄い顔してるよ。なにか、口に合わないものがあったかしら?」


 心配そうに俺を覗き見る母さんには悪いが、構っている暇はなかった。だって……妹に裸を見られるんだぞ?


 いや、俺は良いとしても問題は風音の方だ。絶対に怒られる。しかし……風音は風呂場に入った。


 これは暗黙の了解というやつなのか?いやありえない。そう気安く肌を見せるわけがない。


 ――どっちなんだ……。俺は風呂に入って良いのか?それとも駄目なのか?


 ならば直接、聞けば良いではないかと思った。しかし考えてみてほしい。ついさっきブたれたばっかだというのに…………どんな顔して、「風呂入って良い?」なんて聞けばいいんだ。


 恐らく今の風音はだらしの無い俺に相当失望しているだろう。


 そんな中選択を風音に委ねてしまったら、もう俺は兄として認められないだろう。だからこそ、信用を取り戻す必要がある。


 つまり、俺のする事は……。


 俺は庭に干されていた洗濯物の中からタオルを取った。


 それを握りしめて俺は機を待った。


 ……風音が風呂を出た。


 俺は無言で風呂場に向かう。その瞬間、俺と風音の視線が交わる……俺はニヤリと笑い、握りしめていたタオルを頭に結ぶ……目隠しだ。


 俺は妹の信頼とプライバシー、その両方を勝ち取ったのだ。


「ふふふ……さて、」


 …………どう体を洗おうか?


 肌に触れるなんて言語道断。俺自身、殊勝な性格をしているわけでは無いが、最低限の常識はある……紳士のはずだ。その裏付けが今、この行動にかかっている。


 ――確か、もう一枚タオルがあった気が……。


俺は目隠しをしたまま脱衣所まで向かおうとして……。


「いってぇ……マジ痛え、」


 足を滑らし派手に転んだ。頭は打たなかっただろうか?頭に手をやる……良かった無事みたいだ。


 立とうと、尻餅をついた腰を上げようとしたすんでで俺は身の危険を感じやめた。腰から恐ろしい痛みが湧いてきそうな気がしたのだ。


 俺は風音の()()()()()()に触れないように全神経を集中させ、体を仰向けからうつ伏せにひっくり返した。


 痛みが和らぐまでじっとして、数分が経ち、俺は痛みに悶えながら芋虫みたいに脱衣所にタオルを取りに行った。


 艱難辛苦を経て体を洗い終えた俺は心配そうにこちらを見てくる母親に「はは」と豪快に笑ってやり、恥を忍び痛む腰を抑え逃げるように二階にある『天笠宜喜』の部屋へと向かった。


『お台所』には風音の姿は見えなかった。


 応接間にある仏壇には忘れずに線香を焚いておく。


 階段に手をつきながら犬みたいに2階を上りきりやっと寛げると思ったところ。


 ……部屋のドアにはピンク色のA4ノートが挟まっていた。


「なんだぁこのノートは!?」


 中身を開いて察した。たくさんの箇条書きにされたルールの群がノートに余白余さず書かれていた。


 俺は風音からこの体の取り扱い説明書をポンっと渡されたのだ。


 呆気に取られ俺はノートを落としてしまいそうになった。


 今思えばこのノートが俺と風音の関係を面倒くさくさせた発端なのだろう。


 何せ、俺はこのノートを受け取ってから2ヶ月に渡り、風音と一切会話しなかったのだから。

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― 新着の感想 ―
キャラクターが立っており魅力的で、先の展開が気になる。好きな作品なだけに更新が止まってしまったことが残念です。待ってます。
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