0日目
あっという間に全国大会の前日になった。放送部の一行は受付のために、前日の朝早くから東京に来ていた。
「俺、実は初めての飛行機乗った……」
「わ、私も」
碧と桃は放心したように飛行機から降りた。その様子を3年生たちが楽しそうに眺めている。
「これから毎年乗るようになりますよ……まずは荷物を置きに、ホテルに向かいますか」
笑いながら顧問の佐々木が言う。それはまさしく、強者の言葉であった。
× × ×
「東京の電車って本当に人多いですねーーっと」
「おっと大丈夫か? 碧」
「俺、初めて壁ドンされました……」
「これが、ハチ公」
「人多すぎでしょう」
「碧君! 紫月ちゃん! あそこに、テレビクルーもいるよ!」
「ホテル……綺麗」
「こんな繁華街の通りを一本それたところに、あるんですね」
「ここのお店、テレビで見たことあります……」
「テレビで特集されるだけあっておいしいね」
× × ×
会場は長い階段の上にある、現代アート的な建物だった。その周りは、私服や制服の生徒で溢れている。
「本当に私服でよかったんですか?」
「うん。今日は受付だけだし、大丈夫だよ。私服の学校もあるし」
心配そうに尋ねた紫月は白いパンツに薄紫の半そでブラウスを綺麗に着こなしていた。普段の凛とした雰囲気がさらに洗練されている。
質問に答える蜜柑は、半そで短パンのオレンジのセットアップで、足が惜しげもなく出されていた。厳ついリュックとスニーカーもあり、スポーティーな印象だ。
「まあ、制服は移動の時大変だからな」
翠川は、カーキの半そでシャツとジーパンをはいており、長い脚が強調されている。
「でも、制服の人が多いと悪いことをしているみたいですよね」
桃は、薄いピンクのパンツにグレーのノースリーブシャツで、いつもの快活そうな雰囲気とは一転、大人びた雰囲気だった。
「視線が気になるの、すごい分かる……」
多くの人によってキョドリ癖が発現していた朱音は、黒い気キャップで顔を隠し、うつむきながら言う。
朱音は白いTシャツにベージュのパンツという地味めな恰好で、赤いスニーカーが際立っていた。
華やかな部員の私服を見渡した碧は、自身の黒一色の格好を見て、少し落ち込んだ。
「ではまず初めに、我々に割り当てられた控室に行きますか」
そう言って歩き始めた佐々木の“休日のお父さんスタイル”と“オフィスカジュアル”の中間のような格好に、碧は人知れず安心していた。
× × ×
受付は滞りなく終了した。まだ昼過ぎの早い時間であった。
「それでは、葉山部長たち4人は観光楽しんでください」
「「「え?」」」
突然の佐々木の指示に、碧たち1年生は戸惑う。
「あれ、言っていませんでしたっけ?」
「……観光の時間があるとは聞いていましたが、その、朱音先輩たちは」
「番組は提出して終わりだけど、俺たちは明日の本番のために練習しなくちゃだからな。……気にしなくていいぞ」
遠慮がちな紫月の言葉に、翠川は笑って返す。そう言われても気にしてしまうのが後輩だ。
「暇だと思うし、初めての伊咲君と桃ちゃんは初めての東京なんでしょ? 蜜柑さんに連れてってもらって、遊んできなよ」
そう言いながら朱音は、カバンから何かメモのようなものを取り出す。そしてそれを蜜柑に渡そうとし、何かを考え、1年生の方に向けた。
「これ、家族から頼まれているんだけど、……おつかい頼んでもいい?」
「はい……」
気まずそうな顔で、碧は朱音のメモを受け取った。
佐々木は生徒たちを見渡し、頷く。
「では、18時に渋谷駅で待ち合せましょう。夕飯に食べたいものを考えておいてください」
その後、蜜柑に連れられ東京観光したが、碧には練習しているはずの朱音の顔が妙に頭から離れなかった。




