祝! 全国!
「放送部全国大会なんだって⁉ おめでとう!」
「ありがとう」
教室に入ると、明るく紘人が碧に声をかける。その声を聞き、事情を知らないクラスメイトもおめでとーと声をかけてくれる。
碧は紫月の姿を探したが、まだ登校していないようであった。
「全国ってどこでやんの? ってか、伊咲は行くの? 先輩だけ?」
「東京。全員で行くよ。……まぁ、勝ち上がったのは先輩なんだけど、おまけで?」
「東京⁉ いいなぁ」
なぜか全国に行く碧よりも、関係のないはずの紘人の方がテンションが上がっており、結局朝礼が始まるまで碧は紘人の質問攻めにあった。
× × ×
全国大会出場が決まっても、部活内容は何も変わらない。いつも通り発声練習をする。
碧達1年生は、シャドーイングという練習方法を新たに始めていた。昨年までの全国大会CDを聞きながら同じ文を復唱する。そうすることでイントネーションやテンポの感覚を体に叩き込む。
同じ性別や声の高さが近い人を選ぶと良いと言われた碧は、翠川の朗読を選ぼうとしたが、何となく気恥ずかしくなり、まったく知らない北海道の男子生徒のモノをお手本に選んだ。
「――カン、カンと何かが鳴る」
「伊咲君。そろそろ」
碧の肩を紫月が優しくたたく。碧がシャドーイングに熱中しているとあっという間に下校時間になっていた。
「あぁ、ごめん。ありがとう」
「うん」
「あれ? 桃ちゃんは?」
「家の用事があるから先に帰ったよ。……ホント凄く熱中してたんだね」
碧は何となく照れ臭くなり、急いで帰り支度をはじめた。
ふと、紫月がシャドーイングに使用していたCDが目に入る。それは朗読のCDであった。
「……朗読?」
「うん。秋の大会は朗読で出てみようかなって思っていて。こだわりないなら1年の内にどっちも試したら? って蜜柑さんにアドバイスされて」
「そ、そうなだ。俺何にも考えてなかったな」
「でも、別に心変わりしたら変えてもいいって。シャドーイング自体が力になるからって言われた」
紫月はいつだってちゃんとしている。先々を考えて、質問し、行動する。まっすぐ伸びた彼女自身の姿勢のような生き方だと、碧は感じていた。
「紫月ちゃんって言葉にする力がすごいよね」
「え?」
「しっかり考えて言葉にする力? 俺は何か疑問に感じても、まぁいっか、って思って口に出さないことが多いから、なんか、自分の考えや疑問をまとめて、先輩に聞くところまでしっかりできてて、うん、すごいよ」
「そ、そうかな」
「3年生も全国大会で卒業だし、ちゃんと聞きたいことは聞かないとな……」
紫月は照れながらうつむく。その紫月の様子に、気障すぎだったかと碧も照れてしまった。
「2人とも、そろそろ帰るぞ」
「あ、はい!」
「すいません!」
鍵を持った翠川が2人に声をかけるまで、2人には何とも言えない湯だった空気が流れていたのであった。




