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祝! 入部!

 三波高校新1年生、伊咲碧が放送部への入部を衝動的に決めてから1週間後。放送室には新入部員を含めた全部員が集まっていた。


「私は3年7組、部長の葉山蜜柑です♪ よろしくね」

 蜜柑は、ふわっとしたくせ毛の髪をおさげにした、眼鏡の女子だった。背が低く、隣の男子生徒との身長差がものすごいことになっていた。


「俺は3年4組、副部長の翠川翔です。」

 翠川は、清潔感のある爽やかな眼鏡の青年だった。低く響く声で紡がれた自己紹介は、まるで俳優の舞台挨拶のようだった。

 翠川は少し後ろにいた女子生徒――遊井朱音に前に出るよう促す。


「遊井朱音です。2年4組です」

 朱音は人見知りらしく、視線がきょろきょろと定まらなかった。ストレートで赤茶色の前髪が目にかかっており、暗い印象を受ける。全体的に頼りない感じで、凛としていた朗読時とは人が違うようだった。


「じゃあ次は一年生! 右の伊咲君から」

「はい! 伊咲碧です! 1年3組です! よろしくお願いいたします!」

 挨拶を噛むことはなかったが、声が上ずってしまう。その緊張した碧の様子に3年生はニコニコと表情を崩す。それに気づいた碧は、顔がカっと赤くなるのがわかった。


「1年3組中村紫月です。よろしくお願いします。」

 碧の隣にいた女子生徒がスッと礼をし、自己紹介をする。彼女は美しい黒髪を一つにまとめた、たたずまいが美しい女子だった。


「あ、1年7組朝倉桃です! よろしくお願いします!」

 最後に挨拶した桃は、ショートボブの明るそうな女子であった。女子にしては背が高く、碧と変わらないぐらいであった。

(かわいい声だな)

 桃の声は朱音とはまた違った甘さを持つ独特な声だった。


「顧問の佐々木先生は本日会議なので、後でそれぞれ挨拶しておいてください。ってか、まあ、入部届出した時あいさつしたか」

「まあ、各自適当にだな」

(そんな適当な感じでいいのか?)

 初対面から何回か部活に顔を出したが、この部活はどことなく緩い。


「えーと、放送部では主に夏のJコンと秋の総合文化祭に向けて活動しています。みんなにもそこに向けて発声練習とか番組制作をしてもらいます」

「まぁ、放送部って意外と色々な活動があるから、その都度説明するし、先に聞きたいことがあればいつでも聞いてくれ、今何かあるか?」


 一年生3人は互いに顔を見合うが、誰も何も言わない。そもそも、ちゃんと顔を合わせたのは今日が初めてであり、同じ新入部員とはいえ距離感をつかめずにいた。

 碧にある放送部の知識は、朱音がしていたような朗読をする部活ということしかない。今日までに部活の説明を何回かしてもらったが、いまいちイメージが付かずいた。


(まぁ、どうにかなるだろ)


 そんな新入部員の様子を見た蜜柑は、明るい声で話を進める。

「とりあえずいつもやる発声練習から始めようか」


 「はい」と1年生たちは返事をし、3年生について隣の部屋に行く。

 1年の中で1番前にいた紫月が、蜜柑に話しかける。

「隣の部屋も使うんですね」

「普段使っている合唱部が使わないときはねー ここ視聴覚室なんだけど、広いし、練習場所としてめちゃくちゃいいんだよ」

「マイクは使わないんですか?」

「大会前は使うけど、今は発声練習だから」

「あぁ! そうですよね」


 視聴覚室に入ると、先輩達に促され、それぞれ距離を開けて立たされる。それぞれが位置に着いたことを確かめた蜜柑が、パンと手を叩く。


「発声練習は毎日やるメニューです! おなかから声を出すように復唱してください!

色々注意するところや、技術的なこともあるんだけど、今日は初日なのでとりあえず復唱してください!」


 それじゃあいきまーす、と蜜柑が発声練習を始める。緩かった空気がいきなり張り詰める。


「まずは呼吸から。4秒吸って8秒吐きます」

「声出しまーす。伸ばせるだけ伸ばします。ロングトーンってやつね」

「じゃ、ザ発声練習ぽいやついきます! あ、え、いーー」

「早口言葉いきます。 赤巻紙黄巻――」


 次々と進んでいく発声練習に必死についていきながら、碧は朱音を盗み見た。

(やっぱ、雰囲気変わるな)


 視線の先の朱音はさっきと打って変わって、堂々としていた。声も大きくまっすぐ飛んでおり、正しく“先輩”といった感じだった。


×   ×   ×

 

 発声練習が終わるころには仮入部期間の下校時刻が迫っていた。窓の外に新入生らしき生徒が帰宅する様子が見える。


「仮入部の期間は、発声練習ぐらいしかできないねー。また明日頑張りましょう!」

「お疲れ様、またなー」


 初めての発声練習で全く声は出ていなかったが、先輩たちは何も言わなかった。

 1年生の3人は、先輩たちに見送られ、そろって帰ることとなった。


「「……」」

「……そういえば」


 伺い合う気まずい時間が流れるかと思ったが、その前に桃が話し始めた。


「先輩たち凄く上手だよね。私たちもあんな風にうまくなれるのかな?」

「! ホント凄いよな。ただ声出すだけでなんか違うの分かるし……。俺は遊井先輩の朗読しか聞いたことないけど3年生さんはどんな風なんだろうな」

「そうだね! ……大会ではどれぐらいの成績なんだろう? 聞いてみればよかったかな」


 ワイワイと話し始めた碧と桃だったが、その桃の疑問に対し、紫月は不思議そうな顔であった。


「……中村さん?」

「あ、いや。……遊井先輩も翠川先輩も朗読で全国大会出ているはず……部長の蜜柑先輩は番組制作の方で全国大会出てるって話聞いたけど。あと、部活動紹介の時に7年連続全国大会出場って言ってたようなーー」


 碧と桃は、顔を見合わせる。2人ともその説明を聞き逃していたようだ。

「マジ?」「ホント⁉」

 誰もいない放課後の廊下に、2人の絶叫が響く。


 ゆるそうな部活は全国大会常連の強豪らしかった。


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