県大会②あるいは常勝のオンナ達
「『私は女の体で男の心を持っていますーー』」
(何で都合よく、トランスジェンダーの生徒がいるんだよ……そして何で都合よく取材させてくれるんだよ)
蜜柑は乾いた気持ちでアナウンスの内容を聞いていた。
アナウンス技術はもちろんのこと、アナウンスには原稿の面白さが問われる。しかし、題材の取材は簡単ではない。センセーショナルな話題ならなおさらだ。
例え、自分にトランスジェンダーの友達がいても、それに踏み込むことためらうだろう蜜柑は、その手の題材の原稿を聞くと苦々しく感じるのであった。
ふと、手元の原稿に目を落とす。
(多分これで最後……)
蜜柑は自身の実力と他の生徒の実力をよくわかっていた。番組制作では全国大会に行けるだろうが“読み”の方には大きな、大きな壁があった。
首を振って、注意をステージに戻す。
(次は、野津山さんか……)
野津山綾子はアナウンス部門で優勝筆頭の生徒だった。番組制作でもいい成績を残しており、言ってみれば蜜柑の上位互換である。
「11番、米原高校、野津山綾子――」
低くも明るい声は、まるで本職のアナウンサーのようだった。
「校庭の端にある謎の石碑は――」
(いい声だな、題材も面白い)
蜜柑は静かに瞼を閉じ、野津山の声に身を任せた。
しかし、すぐにその時間は終わり、次の生徒になる。その生徒は野津山からの落差で、ものすごく下手に聞こえた。
聞いていたアナウンスに仮想点数をつけているうちに、紫月の順番がやってくる。
「17番、三波高校、中村紫月、……重ねられた辞書の上にレモンのビタミン飲料――」
(紫月ちゃん上手いなぁ。……声もいいし)
いいアナウンスを聞くたびに、蜜柑の気持ちは暗くなる。ゆったりと海に沈むように。
紫月のアナウンスが終わり、蜜柑は自分の出番のために、重い腰を上げる。
5つ並んだ待機席は前の生徒の温かさで生ぬるかった。
× × ×
「23番、三波高校、葉山蜜柑。……三波高校近くの和菓子屋“うぐいす亭”はーー」
(葉山さん、今年は和菓子屋さんのはなしかぁ)
出番の終わった野津山綾子は、プログラムを眺めながら蜜柑のアナウンスを聞いていた。
アナウンスの内容と番組制作の題材や内容が同じ生徒は少なからずいる。番組制作の責任者は特にそうだ。かくいう野津山もその一人だった。
(ほんとにかわいい声だな葉山さん)
野津山は蜜柑の隠れファンだった。
蜜柑の声は軽やかな甘い声で、かといってアニメ声と言われる声とは少し違っていた。
(活舌もあんまりよくなさそうだけど、頑張れって感じなんだよなー。でも本人はまじめなだけで、本当に力を入れてるのは番組だろうし 番組の打率凄いもんなー)
野津山はアナウンスに絶対的な自信があった。県内に敵はいない。たとえ、岩見女子や芸田工業の強豪校の生徒が相手でも関係ない。口に出したことこそなかったが、それは揺るがない事実だった。
しかし、番組制作となるそうはならない。例え、アナウンスの原稿の面白さで勝っていても、番組の面白さで負けることは多い。逆もしかり。
目線の先にいる蜜柑も、番組制作で野津山が勝てない一人だった。
三波高校の葉山蜜柑は、昨年度少ない部員数で、全部門提出、全作品全国大会出場を決めた鬼才だ。責任者の名前はそれぞれ違ったが、全ての監督は彼女がしたらしいと一時噂になっていた。たとえこの県が田舎で、放送部の数が他県より少なく、その上番組制作をできる環境が整っている学校が少なくても、それはまさしく偉業であった。
個人競技のアナウンスとは違い、番組制作は団体作業だ。自分だけが頑張るだけではどうにもならないことを野津山は知っていた。だからこそ、彼女は蜜柑を尊敬していた。
(葉山さんの朗読聞いてみたいなー。1年の最初の大会は朗読だったと思うけどな。まあ、裏進行だから聞けないんだけど)
出番が終わり、ステージから去っていく蜜柑を目線だけで追って、野津山はため息をついた。




