県大会前あるいは高校生の日常
県大会1週間前、とある男子生徒の自宅。
「蜜柑さん、ここまでありがとうございました」
『別にいいよ、別部門だし』
「うちの学校も番組制作に力入れてくれればいいんですけどね」
『ま、ちゃんとした機材は高いし、顧問の先生も読みはわかっても、編集はわからない人も多いし』
スマホから軽やかな女の子の声がする。
シックな部屋から、男子生徒――清水潔は月を眺めながら、通話をしていた。
清水の所属する喜田高校は読みしかしない高校だった。しかし清水は番組制作も始めたいと思い、独学でテレビドラマを完成させていた。それには同中の先輩の協力もあった。
「県大会ではこのテレビドラマで、先輩の弟子として、全国大会に勝ち上がります」
『ちょっと待って、いつの間にきよちゃん、私の弟子になったの?』
× × ×
県大会数日前、とある放送部の部室。
「番組ではうちの学校と岩巳女子、米原高校と三波高校が機材もそろってて強いかな」
「へー」
二人の男子生徒――天童万里生と祖祇江琉生は、部室のベランダで話をしていた。
「特に三波高校は去年、7人、いや実質3人で全部門提出とかいう意味わかんないことをして、結果、全部全国大会に出場したんだよね」
「え!」
「うちとか岩巳女子も全部門出しているけど、部員数がいるからだし、……まじ意味わかんないよね」
万里生は天を仰ぐ。
「今年は三波高校の中心である葉山さんの最後の大会になるし、いったいどうなるんだか」
万里生は琉生と目線を合わせ、ニヤっとする。
「まぁ、負けないけどね」
「ちょっとそこ! サボらない!」
部長である女子生徒に声をかけられ、二人は部室の中にしぶしぶ戻っていった。
× × ×
県大会前日、とある放送室
「結局そのアニメ演技を止めるつもりはないのね」
「うん、これが私だから」
県大会前日、最後のミーティングだというのに、部内の空気は険悪だった。
にらみ合う三年生の二人――飯島菫と工藤三葉の様子を、後輩たちは苦々しくみていた。
「少し演技を抑えるだけでアンタはーー」
「手に負えない私のことより、自分のことを心配した方がいいんじゃない?」
唇をかみしめる三葉に対し、菫は何も感じていないようだった。
(早く終わんないかな)
そんな中一人、ボルバーラ加藤は椅子の上で足をプラプラさせていた。
(……そういえば、あの声のいい子にも会えるかな?)
× × ×
県大会数時間前、とあるバスの中。
「東部地区はどんな人がうまいんですか?」
バスの中で髪をピンクゴールドに染めた女子――市井真夢が、ハーフツインの女子――青大凛々子に語りかける。
「貴方が出るアナウンス部門なら、野津山さんですかね」
凛々子は悠々と、まるで王宮の椅子のようにバスの椅子に腰かける。
「朗読部門なら、私たちの方が優秀ですけれど……、去年2年ながら県大会を1位通過した翠川翔君はお上手ですわね。今年の私たちの方が優秀ですけれど」
憎々し気に凛々子は告げる。
「? 嫌いなんですかその人?」
「嫌いというほどお話したことはありません。……ですが気に食わないですかね」
凛々子の脳内に2年前の記憶が浮かび上がる。
「勝つのは私、私たちです。……ふふっ、おーほっほっほっほ」
凛々子の高笑いがバスの中にあふれる。部員たちはまたかという風に、ため息をつくのだった。




