第五話
魔法少女のボスになって一週間、私が鏡面世界に呼ばれることはなかった。きっと私が知らない間にも彼女たちは魔法少女として戦っているのだろうと思うと駆けつけたくなる。だがそれは叶わない。魔法使いなのに叶えられない願いを、私は持っているようだ。
「彼女たちは相方の魔法精霊に鏡面世界に連れて行ってもらってると聞いたが、何故それが私には出来ないのか。魔法精霊は特別なのか?」
朝食のパンを齧りながら考える。そもそも魔法精霊とはなんだ?彼女たち魔法精霊がいるから魔法少女は誕生したのか?ならばやはり魔性少女となった彼女たちには戦う理由があるのだろう。それは一体どんな理由なのか。世界を守るとか?その場合の世界とは地球の現世のことでいいのだろうか。
考えてもわからないけど気になるから考えてしまう。
「……仕事いこ」
結局のところ鏡面世界さんが私を呼ばない限り私に役目などない。今はたたの会社員として働こう。
◇翌日◇
「また来た……鏡面世界さんも私と魔法少女を会わせたいのか?あれ、でも、何処だここ?」
これで三日連続で呼ばれたなと思ってすぐ、ここが何処だが思案するはめになる。何故なら目の前に広がっていた光景は……。
「日本の街並みじゃない、な。鏡面世界なら国外もあるのだろうとは思っていたが、いきなり飛ばされるとは……」
目の前に広がる光景はイギリスのロンドン辺りだろうか?あの時計塔には見覚えがある。しかし鏡面世界さんにも困ったものだ。いつもいつも説明がない。
「私を魔法使いにしてくれたのが鏡面世界さんという可能性もなきにしもあらずだから強くは責めないが……ひとまず探索するかね。折角の国外だ」
世界も現世ではないというのには目を瞑っておく。時計塔を見て思うが景色だけでも満足できるものだ。自分以外に誰もいないというのが解放感があるというか独占欲が刺激されるというか。一言で言うなら悪くない。
「呼ばれたからには荒魂もいるのだろうけどね。倒すのに苦労はしないし特に問題がないようなら観光が終わるまで放置するのだけれど、私にはその判断は残念ながらできない」
つまり見つけ次第倒すということだ。探すのを手抜きして観光に明け暮れるつもりもない。探して倒す。別に観光に興味がないわけじゃない。ただ魔法使いになったからには、その与えられた責務を果たそうというだけだ。日本で出会った魔法少女たちのように。
「見つけた見つけた。いっぱいいるね?百くらいいるんじゃないか?いや困ったね、魔法を加減する気がなくなった。一つ大きな魔法をやってみようか」
各個撃破もできるだろう。時間もそうかからない。けれど百を一で倒すのと、一で百を倒すのとでは楽しさが違う。魔法は楽しいものなんだ。私の心は今、楽しいを求めてる。
「いくよ……裁きの時!」
百を超える黄金の十字架が立つ。ただ荒魂の気配に向けて巨大な十字架を天から落としただけだ。だけどそれでこんなに綺麗になる。
「ロンドンに咲く十字架の花々……絶景かな」
『荒魂の消滅を確認。鏡面世界の崩壊まで10、9、8、7……』
観光はできなかったがまぁいいだろう。悪くないものが見れた。
『……2、1、崩壊。お疲れさまでした』
お疲れさま。
◇
『緊急速報です。先程イギリスのロンドンで大規模な昏倒事件が発生しました。疫病の可能性があるとしてイギリス政府はロンドンの封鎖を―――』
……なにこれ?
魔法使いの仕事が終わってさぁ現世の仕事だと家を出ようとしたらこんな事件が流れた。タイミング的に私が倒した荒魂が関係してる……よな?
「……私の…せいなのだろうか……」
確証はない。私が荒魂を倒すのは今日が初めてじゃない。今までだって何十何百と倒し、そしてなにもなかった。魔法少女だって荒魂を倒してる。けど……。
「私がこの事件の責任を考えるには、私はあまりにも無知すぎる。……一度……彼女たちと話した方がいいかもしれない。この現世で」
鏡面世界では時間を十分にとれない。この現世で探して会う必要がある。
魔法使いになって私は成長したかもしれない。しかし立派になったと言えるだろうか?夢が叶ったと、魔法に憧れた男がはしゃいで、現実を直視していなかった。ただ私は魔法をいう力を楽しんでいただけだった。それは無責任に。
責任なんてもしかしたらないのかもしれない。それでも―――。
「魔法なんて便利なものは、私には早かったのだろう」
憧れるだけでよかったのかもしれないと、今になって思う。
「行こう。魔法少女に会いに」
◇
「まぁ会いに行くのは休日なんだけどね。私は仕事あるし彼女たちは多分学生だろうし」
平日の予定など今の時代、事前の連絡なしに変えられるものではない。私はまだ仕事を休めたかもしれないが、彼女たちはきっと今頃学校だ。流石に私が学校に乗り込んでいくわけにはいかないだろう。
「おはよう日目自くん」
「おはようございます熊田先輩」
日課の挨拶。熊田先輩には日頃お世話になっているから礼儀は忘れてはいけない。
「日目自くん今朝のニュース見た?ロンドンで集団昏倒事件ですって。怖いわよねぇ。日本は大丈夫かしら?」
「イギリスとは距離がありますし、まだ焦るような時間じゃないですよ」
もちろん私は焦っている。あの集団昏倒が荒魂が原因なのだとしたら日本も十分危ない。魔法少女が倒してくれているとはいえ、荒魂が出現している事実に変わりはないのだから。
しかしそれを事情を知らない一般人に言っても仕方ないので、安心できる言葉を言っておくのが無難だ。
「そうかしら?本当は焦ってない?日目自くん?」
な、なんだ?熊田先輩の雰囲気がいつもと……。
「本当は焦ってるんでしょ?焦る理由があなたにはあるもの。今のあなたには」
何を言って……まさか私が魔法使いになったと知って……?い、いや現世で魔法は使わないようにしている。気のせいだろう。
「わ、私はいつも通りのつもりですけど―――」
「―――魔法使い」
……たまたま、か?私が魔法使いに憧れていると熊田先輩は知っているし、いやでもなんで今―――。
「―――魔法が使えて楽しい?夢が叶って嬉しい?ねぇ、憧れの魔法使いになって今どんな気持ち?」
「……どこまで、知って…いや、どこまでが熊田先輩の仕業なんですか……?」
私の質問に熊田先輩は、魔法で答えた。