第二十話
私の理想―――。
誰もが誕生の仕方なんて選べない。誰もが恵まれた生なんて掴めない。だけど、それで苦しい道を歩むことになった者を、ただ運が悪かったね、で済ます事ほど、私が嫌いなものはない。
恵まれてるのが悪いんじゃない。恵みを他者と分かち合えないのが私は嫌いだ。
でもこれは理想。奇跡なんて無縁の世界で生きる者のありふれた偽善の理想。叶うことのない夢。
だけど。
力がある。憧れがある。夢がある。
私は恵まれている。こんなにも幸福に満ちている。
私は魔法使いだ。
恵まれなかったから悪に堕ちる。確かに肯定はできない。
恵まれたから正義を貫く。こちらは肯定できる。でも、何故?と思う時もある。
そういう風に生まれたからその道を進んだだけなのに、誰も好んでそんな道を進んだわけじゃないのに。
正義は善いもの。悪は悪いもの。いつだって見られるのは最後の善悪だ。誰も最初の不運幸運なんて考えない。
私は見極めたい。救われるべき者。救うべき者。
私が奇跡を起こす魔法使いなら、私はこの理想を叶えたい。
「メガ☆キラちゃん。悪行は善行で塗りつぶせると思うかい?私はね、塗りつぶすのは無理だと思う。悪行で苦しめられた者を全て救済なんてできないからね。塗りつぶすなんて思うのはそれ自体が傲慢だ。悪行は悪行、善行は善行。住み分けが大事だと思うんだ」
《……何が言いたいのかしら?説法を説く仏にでもなったつもり?全然響かない。でもそうね。悪は悪、善は善。住み分けって大事。この二つは相いれないんだから、ちゃんと悪が善を滅ぼさなきゃね!アハハハハ!!》
「私が言いたいのはねメガ☆キラちゃん。私は私の理想に基づき、君を救うということさ。君の悪行は、私も共に背負うから安心して救われてほしい。いいかな?」
《死ね》
『『『ギャアアアオオオオ!!!』』』
ドドドドドドドッ!!
私の理想に基づくなら君たち荒魂も救われるべきだが、そもそもがただ暴れることを存在意義としている魔法的生命体だ。愛の魔法をぶつけるより魔法的書き換えで済ましたほうが早い。悪いが今私はメガ☆キラちゃんが最優先なんだ。
パチンッ!
『『『ギャアアオォォォ……』』』
あっれぇ?なんか成仏してったぞ……?
《荒魂は私たち荒神によって生きる許可を貰っているのよ。相応しい行動をとれないならいらないわ》
なるほど。
「荒魂は苦しみなく成仏。これを救いということにしておこうか」
《傲慢ね、あなた。悪い人》
「私は私で叶えられない理想は抱かないことにしたんだ。どうやら魔法使いも万能ではないらしいからね」
荒魂は問題にならない。それより気になるのはメガ☆キラちゃんだ。リリネットと倒した異形の老人荒神のように世界丸ごとに魔法をかけなければならないのか、もしそうなら少々手間だが、メガ☆キラちゃんの為ならいくらでも頑張れる。
「手始めにその確認も含めて。楽園郷!!」
世界を私の愛という奇跡で満たす。君にこんな荒れ果てた世界は似合わないんだよメガ☆キラちゃん!!
世界が色づく。木々の緑、青い空、新鮮な風。その光景はまさに精霊界を思わせるほど美しく。
《小癪な真似をっ!!こんなもの、いくらでも滅ぼしてやるっ!!悪意魔法【自然崩壊】!!》
「さすがはメガ☆キラちゃん。魔法を使うなんて、正しく魔法少女。荒神にはできないことだ」
《ほざけっ!……くっ、崩壊が追いつかない……っ!!この化け物め!そんなに力で蹂躙するのが楽しいか!?それほどの圧倒的な力があればさぞ気持ちいいだろうなぁ!!》
ふふ。楽園郷の形成にも会話の一言一言にも私の愛をこめている。メガ☆キラちゃんを攻撃するなんてことはできないから、確かに力はあって困るものじゃないと今を以って実感しているとも。
「でも、そろそろ愛情パンチくらいかますべきかな?メガ☆キラちゃんに一刻でも早く笑顔になって欲しいからね」
《……笑顔など……もう私にはいらないわ》
ん?
《私もそろそろ全力を出す。お前の余裕もここまでだ。――変身――》
今のメガ☆キラちゃんの諦めたような表情、非常に気になるが、それよりも、変身だとぉ!?
《非道に非常に悪であれ。希望を裏切り裏返れ。絶望と共に侵略開始。荒神魔法少女メガ★デスちゃん参上―――!!》
あ……あぁ……あぁぁああっ!!
《こうなった私に敵はいない。地獄へ落とす。泣きわめけ。アハハハハ!!》
「うおおおおおお!!頑張れぇぇぇ!!メガ★デスちゃーーーん!!」
《……は?》
「魔法使いなんてぶっ飛ばせーーー!!世界を滅ぼしてくれぇぇぇぇ!!」
《ちょ、な、なに言ってるのよ!?なんであなたが私を応援してるのよ!?倒さなきゃでしょ!?私を、荒・神・を!!》
「もう戦えない……っ!!メガ★デスちゃんを倒すなんてできっこない……!!私は、無力だ!!」
《えぇぇ??》
我が生涯に、一片の悔いなし!!さぁ、私にトドメを刺してくれ。できれば荒神魔法少女メガ★デス流必殺技で!!
《こ……こ……こらーーーーー!!》
「あいたっ!?こ、これがメガ★デスちゃんの拳……つおい!負けたぁぁぁ!!ぐあ」
幸せ……。
《ぐあ。じゃない!!軽く小突いただけでしょ!それよりダメじゃない!荒神っていう強大な悪の敵が目の前にいて、どうして戦うのをやめちゃうの!?あなたは正義なんだから私を倒してみんなの笑顔を守らなきゃでしょ!?》
怒ったメガ★デスちゃんもいいな……。こう、ぐっとくるものがある。その目は最高です。あ、でもそろそろ切り替えないと本気で怒られそう。
「こほん。メガ★デスちゃん、やっぱり既に浄化完了されてたんだね」
あの諦めの表情を見た時にもしやと思ってたけど流石はメガ★デスちゃんだ。
《あ、あなたの愛が大きすぎるからでしょ……!!もう、もうもう!!浄化なんてしないでその圧倒的な力で滅ぼしてくれればよかったのに!!私は……荒神なんだから……悪い奴なんだから……うぅぅ》
メガ★デスちゃんが泣いてる!?誰だ泣かせた奴は!!出てこい滅ぼしてやる!!
「まぁ、冗談はさておき。メガ★デスちゃん、私が最初に言ったこと覚えてるかい?悪行は善行で塗りつぶせないってやつ。これは私の持論だけどね、善行も悪行で塗りつぶすなんてできないと思ってる。メガ☆キラちゃんはたくさんの善行を為してきた。君を救えないんじゃ私は、一体誰を救えばいいのかわからないよ。私は私の理想を叶えるって決めたんだ。だから私は君を救うよ、メガ★デスちゃん」
《うぅわぁぁぁん!!バカバカバカぁぁぁ!!あなたまで悪者扱いされたらどうするのよーーー!!》
「戦うさ。私の理想が気に食わぬというのなら、戦うまでだ」
《ばぁぁぁかぁぁぁぁ!!うえーーーーん!!》
メガ★デスちゃん、これからも私は君を見捨てない。それが私の理想だからね。
私は泣くメガ★デスちゃんに胸を貸しながら思う。まだこの世界でやるべきことは残ってる。メガ☆キラちゃんを苦しめた荒神がまだこの世界にいる。力を蓄えてる。勿論戦うとも。
私だって人、感情はある。私の理想に期待するな。この怒り、お前を滅ぼして晴らしてやる。
私は遠く空に覚悟の目を向けた。




