第十四話
◇現実世界のとある喫茶店◇
「日目自くんが荒神の世界に連れ込まれたのは、恐らく日目自くんが発した、侵食する赤に対する『滅べ』とか『消えろ』っていう意識がトリガーになったのかもしれないわ。荒神は悪意でできてるから、その悪意に関する道に対してだけは優れているのかもね」
「はぁ、なるほど。厄介ですねー」
熊田先輩からの説明を受けて私は納得ると同時に辟易する。熊田先輩の説明はあくまでこういう解釈もできるという一つの可能性にすぎないのだが、もしこれが本当だったとしたら、今後あの侵食する赤が出てきた際にどう対処すればいいのかわからない。
「消せるのは私だけだとして、私が一人で戦うのはいいんですが、その間みんなを守れないというのがなんとも……。困りました」
「そう難しく考えなくてもいいかもしれないわよ?要は微かな悪意に反応したんだから、悪意を抱かなければいいのよ。普通の人には無理でも、あなたにはそれができると私は思ってる」
また簡単に言ってくれますね。私はただ曖昧に笑うしかない。でもそれができれば荒神の世界に引き込まれることなくあの侵食する赤を消せる。今のところそれしか対処法はないのだからやるしかないだろう。
「それにしても、きき緊張しますね。こっちで彼女たちと会えるなんて、私捕まらないかな?どう思いますか熊田先輩」
「そうならないために私がいるんでしょ。大人の男一人と女子高生七人じゃまずいけど、そこに大人の女性である私が加われば問題にはならないわ。だからオドオドするのやめなさい、逆に怪しまれるわ」
「頑張ります……」
今日この喫茶店で熊田先輩と話していたのはこの後ここで日本の魔法少女たちと会議を開くからだ。つまり現実世界で魔法少女と会えるのである。一大イベントだ。
話す内容については主に先日現れた知性のある荒神について。ああいう存在がいると確認できた以上、今まで通りの活動ではまた罠なりなんなり仕掛けられた時に危ない。なにか対策が必要だ。
カランカラン♪
「ボスはどこかなー?」
「……あそこ」
「おっすボス」
「こんにちわ」
「来たわね」
「待ってたよ」
魔法少女たちがやってきた。これからは幸せの時間……じゃなくて会議の時間だ。仕事を忘れてこの時間を充実したものにしなければ。……それにしても今の彼女たちは学校の制服だし、髪はみんな黒いし、大分印象が変わるな。これ私ホントに捕まらない?なんだかヒヤヒヤしてきた……。
「ボスは何処で見てもボスだな。相変わらず漢らしくねぇ」
「ちょっと巴。ボスだってやる時はやる人じゃない。そんな言い方は失礼よ」
「雪音も何気に普段は頼りないって言ってる?」
ぐぅ……どうせ私は頼りない汚い大人ですよ……。いや、シャキッとしなければ!こんな調子では折角持ってきた七枚の色紙が無駄になる。こんなチャンスは滅多にないのだから必ず成果を持ち帰らなければ!
「ほらほら、みんな座って。飲み物頼んだら早速会議を始めましょう」
「「「はーい」」」
席順
熊田先輩 雪音 飛鳥 愛子
私 雫 巴 真木 秋
し、失敗した……。目の前には熊田先輩。これでは魔法少女との距離がががが。隣の雫ちゃんが女神に見える……。しかし何が悲しくて年齢不詳の魔女っ娘の前なんか……。
「あ゛?」
うう嬉しいなー。魔女っ娘の前に座れるなんてなんて素晴らしいんだろーー!!……はぁ。
「そういえば私たちって熊田さんのことあまり知らないんですよね。ボスの協力者の魔女っ娘だってことは知ってるんですけど、一体何者なんです?」
そういえば改めて紹介とかしたことなかったっけ。ていうか熊田先輩と魔法少女たちが会ったのって数えるくらいしかないんじゃ……?
「ああ、熊田先輩は―――」
「野生の魔女っ娘よ。日目自くんと比べるとかなり見劣りする力しかないけれど」
私の言葉に被せてきた……自己紹介は自分でということか。しかしその説明、魔法精霊であるということは秘密なのか?パン太郎も人型だったが熊田先輩は完全に人として生きている。この人も謎の多い人だ。
「私のことは日目自くんの運び屋だと思ってくれればいいわ。それより、件の荒神の話をしましょ。あなた達も、ここままじゃまずいってわかってるでしょ?」
空気が変わる。ここからは冗談抜きで真剣に話し合う時間だ。
「ボスの話では件の荒神は神格を強く持った個体、ということですよね?そしてそれはボスが連れ込まれた世界、そこを自分のものにしたから。はっきり言って、私たちじゃ勝ち目は薄いと思う」
雪音の発言。これにみんな否定の言葉はないようだ。彼女たちは世界を守るため本気で戦う。しかし意思の強さは戦いの強さに必ずしも直結しない。私が戦った例で言えば、世界を滅ぼす力が必要になるのだ。今の彼女たちにそれを求めるのは些か無理がある。
「あの神格を強く持った荒神があと何体いるのか。日目自くんとリリネットちゃんで倒した個体で一体。これはもう考えなくてもいい。でも少なくともリリネットちゃんを襲った異形の若者がいる。私は詳しくないのだけれど、今まで荒神に滅ぼされた世界はいくつあるのかしら?」
この熊田先輩の質問は魔法少女に向けられたものというより、彼女たちが抱っこしてる人形……にゃん吉たちに向けられたものだろう。滅ぼされた世界の数とあの件の荒神の総数が同じなのであれば参考になる。少なくとも滅ぼされた世界より多いということはない……と信じたい。
『あんまり大声はだせにゃいから簡潔に言うと、十と聞いて居るにゃ。これは精霊女王様から聞いたから間違いないにゃ』
「……チッ」
重たい空気だ。世界を守ると誓った彼女たちからすれば、よその世界のことでも心地よくはないんだろう。
『希望はある。この世界には彼がいる。これ以上の犠牲など出させない。ガウ』
と、ここで、それまで沈黙を保っていたガウガウがそんなことを言った。彼とは多分私の事だろう。ガウガウには勝利のビジョンが見えているようだった。
「ガウガウ、なにかいい案でもあるのか?」
『魔法少女数人の力では対抗できなくても、百人、二百人となれば、その力は神に届きうる。仲間を集めろ。ガウ。そして荒神に逆侵攻を仕掛けるのだ。ガウ!』
「「「逆侵攻!!」」」
襲われる前にこちらから叩け、ということか。悪くない案だ。しかし
「集めるたって何処からだ?この世界にもまだ探せばいる国はあるかもしれねぇが、百人は流石に、じゃねぇか?」
この問題がある。これを解決するにはもう他の世界に乗り込むしかない。そしてそれができるのは、いやできる可能性があるのは。
「熊田先輩、私、仕事辞めます」
「「「えっ!?」」」
私しかいないだろう。仕事なんてしてる暇はない。世界の命運がかかってる。
「行くのね、日目自くん。止めないわ、仕事の後始末は私に任せない」
ありがとうございます、熊田先輩。いつも世話になってばかりだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!そりゃ確かにボスならできるかもしれないけどさ、そんな全部ボスがやるなんて!」
「ふふ、ありがとう真木ちゃん。だが私はこれでも辛くはないんだ。魔法使いになってしばらく、私はただの会社員だった。でも、これからは違う。私は魔法使いになれるんだよ」
奇跡を必要とされる場所へ、私は魔法使いとして現れる。もう日常には戻らない。
「……ボス、いつでも戻ってきて。私は……待ってる」
「ありがとう雫ちゃん。ああ、そうだ。お守りにみんなのサインをください」
「「「サイン??」」」
今しかない。頼むならこのタイミングだ。このタイミングならきっと!!
「……ん、貸して。……はい」
「ありがとう雫ちゃん!」
「もう……貸して」
「私たちにも」
「ったく」
魔法少女七人のサイン色紙が揃った。夢のようだ。これでいくらでも頑張れる。
「それじゃあ、君たちのボスがやる時はやる人だってところを見せてあげよう」
私は決意新たに異世界に飛ぶ。




