第十二話
「仕事行ってくるなールル―」
『いってらっしゃい』
私が仕事で家を空ける間、ルルの身になにか起きないように結界を張っておく。これでルルが何かしても、また何かされても、大丈夫だ。
しかしルルは頭いいな?いってらっしゃいって言ったぞ?ふふふ。
「いってきます」
これはなかなか悪くない気分だ。
◇
「おはようございます熊田先輩」
「おはよう日目自くん」
日課の挨拶。
「熊田先輩、彼女たちは大丈夫ですか?怪我とかは、ないですよね……?」
彼女たちとはもちろん魔法少女のことである。リリネットの無事は確認したが、日本の魔法少女についてはまだ未確認だ。魔法でちゃちゃっと確認してもいいかなとは思ったんだが、なんか覗きしてるみたいで気が乗らなかったというか……ごにょごにょ……。
「日目自くんって変なところでシャイよね。彼女たちの連絡先教えましょうか?あなたは知る資格があると思うのだけれど」
……ふぅ。わかってないな、先輩。魔法少女とはいえ彼女たちはまだ成人していない高校生くらいでそれに対して私は今年二十五歳にもなる大人でそんな私が今時の女子高校生の連絡先を七つも登録してたらそれは怪しまれるというかいや誰にというわけではないのだけれどそれはそのもし警察とかそういうやんごとなきお方達に知られでもしたら私は社会的地位を失うどころか彼女たち魔法少女のボスという世界を守る務めを果たせなくなるわけでそれはこの世の終わりを意味しているというかいや私のじゃなくてこの世界のという意味でええそれは大変なことであると同時に……ごにょごにょごにょごにょ……。
「せめて口にだして言い訳しなさいっての。今の日目自くん百面相でもじもじしてて気持ち悪いわ」
「熊田先輩!私のことはどうでもいいんです!いいから早く連悪先を、じゃなくて彼女たちの安否をですね!」
「はいはい彼女たちは無事よ。全員目立った怪我もないわ。飛鳥ちゃんもいるし今は普段通りの生活に戻っているでしょうね」
ほっ。それはよかった。これで私も安心して今日一日頑張れる。といっても荒魂は私たちが普段通りの日常を過ごしていようが関係なく鏡面世界に現れるのだから、いつ呼ばれてもおかしくないのだけれど。
「しばらくは大人しくしていてほしいものだ……」
これも叶わない願いだな。
◇お昼◇
「はい。こんにちわ鏡面世界さん。今回は私一人なのかな?せっかくなら魔法少女を拝みたいところなのだけれど」
熊田先輩と昼食を摂ろうと屋上に行ったら来ました。鏡面世界です。
ここにきたからには魔法少女を見て仕事の疲れを癒したいところだ。これで私一人荒魂と戦って仕事に戻るのはなんだか虚しすぎる。
「でも、ま、あれ見たら彼女たちはいる気がするね」
私の眼前には鏡面世界。だがいつも通りの、ではない。
「浸食されてるのか……?大地が赤い。荒魂の姿は見えないのに、いつもよりやばいと肌でわかる」
鏡面世界の一部が円形に赤く染まっていた。ビルや家々がその赤に溶かされているように見える。その溶けた赤がまた広がり円は大きくなっている。
「なにが始まろうというんだか。私がこれを終わらせられるとして、一体なにを終わらせるのかさえわからないよ」
だがやることは変わらない。私は魔法使い。ただ願うのみ。
「「「ボス!!」」」
ふふふ、鏡面世界に来た甲斐があったというもの。後ろから魔法少女の声。これで仕事の疲れがとれるぜ……。
「こんにちわ魔法少女諸君。早速だがあれが何かわかるかい?私が今までに見たこともないものなんだ」
魔法少女を拝みながら訪ねる。聞いているのはもちろん侵食する赤のことだ。私は鏡面世界歴はそこまで長くないが、彼女たち魔法少女ならなにか知っているかもしれない。
「いいえボス、私たちも初めて見るわ。でも愉快なものじゃないのは確か。にゃん吉たちはなにか知らない?」
『う~ん、あれが荒神の仕業ということは確かにゃ。でもあれが何を引き起こすのかまではわからないにゃ。ただ荒魂と同じ結果にはならない気がするにゃ。嫌な予感がするんだにゃ』
荒神……か。ここには魔法少女がいる。ルルのように救ってはやれないかもしれないな。それに、今は現在進行形で良からぬことをしている。救う、救わないは私に余裕ができないと話にならん。これが現世に及ぼす影響を考えれば、すぐにでも行動に移さなければならない。
「倒すべき明確な存在が目に見えない以上、あの現象を止めるのが先だ。私の魔法で試してみる。君たちは万が一に備えて辺りの警戒を―――」
「日目自くん、大変よ!」
ん?熊田先輩?現実世界にいた熊田先輩が慌てて鏡面世界に駆け込んできたとうことは……まさかもう影響が!?
「現実世界で暴動が起きているわ!」
「「「暴動!?」」」
これがあの侵食する赤のせいだとするのなら、尚更はやくあれをどうにかしなければならない。
「落ち着け魔法少女諸君。冷静さを失うな、物事をより正確に理解するんだ。私が魔法であれをどうにかする。君たちは入るであろう邪魔をどうにかしてほしい。今回の一件、敵の荒神は前回とは趣が違う。決して侮るな」
「「「はい!!」」」
よし、では龍気を補充して戦う準備を整えよう。今回の敵の荒神からは、ルル以上の知性を感じる。それはまるで私たち人のように。そんなことがあり得るのかわからないが、想定するべきは最悪の事態。願いの力は惜しまない。私には守るべきものがある。
「ボス……これほどの龍気、本気なのね。なら、私たちはそれに応えてみせる!やるよみんな!!」
「「「うん!!」」」
「では始めるぞ」
願え……あの赤を、侵食するあの赤を滅ぼせ……
《かかったな、古の龍王!!》
「っ!?ここは……!?」
頭に響くどす黒い声。それが聞こえた時には私の視界は変化していた。
《ようこそ、我らの世界へ。その身が亡ぶまで、ここで苦しんでいけ》
見渡す限りがあの侵食する赤。溶けた赤が不気味な構造物を建てている。やはり知性がある。それも人と変わらないような……。
目の前には異形の存在。皮膚は黒く、外殻は赤く、角、尻尾、翼がある人の形をとったなにか。それは年老いた老人の雰囲気を醸し出している。
この戦いは面倒の一言では終わらないと、理解した瞬間だった。




