第十一話
昏倒していた人たちが続々と目覚める。その様子を見ながら私は見事戦い抜いた彼女たちに心の中で賛辞を贈る。本当によくやってくれたと思う。彼女たちは間違いなくヒーローだ。他の誰もそれも知らないとしても。
「……強いわね。流石だわ」
「熊田先輩、やっぱりなにか隠してましたね?予想外の強敵でも出ましたか?でも、信じて正解でしたね。やっぱり彼女たちは本物だ」
信じていても心配にはなったけれどね……。今も無事かどうか本当に心配だ。日本の魔法少女はこのまま鏡面世界に入る時にいた場所で現実世界に戻るから次会えるのはいつになるやら。せめて安否だけでも確認しておくか。
そしてリリネットは―――
「ヘイ!白!やってやったわ!アナタや日本の彼女たちのおかげよ!ありがとう、本当に、ありがとう!」
ふふ。元気に戻ってきたね。よかったよかった。見たところ怪我もないようだ。まぁ回復能力のある飛鳥ちゃんがいたから致命傷でも負わない限りは大丈夫だろう。
『リリネット、よかった……っ!死んじゃわなくて……本当にっ』
ん?パン太郎、それはどういう……?い、今までで一番過酷な戦いだったから何事も無くて良かったねという涙だよな?そうだよな!?
勢いよくリリネットの方を見ると。
「てへ☆ちょっとへまやっちゃった☆でも気づいたら治ってたし龍にもなれたし言うことなしよ!」
『あるよ!本当に心配したんだからっ!リリネットが死んだら僕も死ぬしかないって……』
「ちょっ重い重いっ。そんなことされたらアタシも死ぬに死ねないわ!!」
私は彼女たちの会話を聞きながら放心していた。内容が頭に入ってこないがもしリリネットが死ぬなんてことになったら私も死ぬしかない……。
「ああっもうっ!みんな助かったんだからいいでしょ!帰ってパーティーしましょっ!」
帰る……帰る?ここでリリネットと別れるというのか!?嫌だ!もっと魔法少女リリネットの大活躍を生で見るんだぁぁぁぁ!!
「ほら帰るわよ日目自くん。早くして、今私たち不法入国してるんだから」
うぅぅぅぅ……仕方ない。
「リリネット、また会おう。次は私も一緒にに戦うから」
「なんだ帰っちゃうのかぁ。ま、確かにまた会えるわよね。次も一緒に戦いましょっ、ボス!」
私をボスと呼ぶか。それもいいだろう。魔法少女だって誰かに守られる存在であっていいはずだ。リリネットのことも、私が守ろう。
そして私たちは日本に帰った。またいつも通りの生活に戻ろう。
◇
その日の夜。
「私はこれから寝るところだってのに、鏡面世界さんは実にブラックだね」
私は鏡面世界に呼ばれていた。
「またロンドンか……。魔法少女の人知れぬ活躍で一件落着とさせてはくれないのかね?なぁ?荒神」
《憎い、痛い、恨めしい。力が、欲しいぃ……》
荒神は龍を降ろしたリリネットによって倒されたと聞いたが、正しい倒し方とかじゃないと爆散させても無駄とかそういうことかね?だが、復活に力を使ったのか、明らかに弱体化している。これから倒し方さえわかれば今後の荒神戦で私の出番はないかもしれない。彼女たちは強いからね。
「リリネットは優しいからな。荒神相手だって無駄に痛めつけるのは嫌だったんだろう。だから汚い大人の私が、荒神の正しい滅ぼし方というのを見つけてやらなければな」
せっかく買ったパンダパジャマが汚れるが、仕方ない。こういうのはまだ彼女たちには早いのだ。魔法少女とて子供は子供。それは当然に守られるべき権利であり、守るのは大人の役目だ。
「実験開始」
私に慈悲を期待するな。すべてに平等に慈悲を与えるなど、たとえ魔法使いだってできはしないのだから。私もお前も、本物の神じゃない。
その夜、荒神は消滅した。
◇
「ふあぁ~あぁ……よく寝た……」
昨夜ロンドンにて復活した荒神は無事倒した。倒し方がはっきりするまでそんなに時間もかからなかったので楽に済んだ。
「なんか食べよ……」
『食べよ~』
荒神は倒した。その結果がこれである。要するに荒神を無害な存在に変えたのだ。やり方はとっても簡単、愛を込めた魔法をぶつける。これだけである。
『きっと荒神を荒神たらしめる悪意の根源を愛の魔法で上書きしたのね。もともと悪意が集まって神になった、なんて魔法的存在だから、愛の魔法はよく効いたのね』
とは熊田先輩の言である。熊田先輩も荒神を浄化するなど予想外だったみたいだが、私はただそういう風に生まれてしまった彼らを救いたかったのだ。
「罪が消えたわけじゃない。だから魔法少女にはこの倒し方は秘密だ。この先お前のように荒神が魔法少女と戦うことになっても、私は救ってやれないかもしれない。私に慈悲は期待するな」
『~~~?』
というわけで魔法少女にもできる荒神の倒し方というのは見つかっていない。この先また荒神が現れたら戦いは苛烈を極めるだろう。その時に私はどういう選択をとるのか、今はまだわからない。きっと魔法少女を優先するだろうとは思うが、荒神だって一言で悪と断言することは私にはできないのだ。
「パンでも食うか、ルル」
『ルル~』
荒神にはルルという名をつけた。見た目黄色いスライムのようで、形がリズムよく変わるのでそう名付けた。ルルル~って鼻歌で歌うし。
因みにルルにはもう神格はない。悪意で神となった荒神から悪意を消したのだから当然、神格も失われる。それをルルは気にもとめていないようだが。
「なんだか最近、守るものが増えたなぁ……」
そう愚痴を溢す私の口は、笑っていた。
◇???◇
「荒神を浄化するか……その力は認めよう。だが、神から神格を奪うその行為、断じて許しはせん」
人の姿のないその世界に、佇む数人の影。その先頭に立つ異形の女。
「王よ、あの魔法使いに罰を与える役目、是非わたくしにお任せください。必ずや地獄を見せてやりましょう」
同じく異形の、しかし若いとわかる者が声をあげる。
「でしゃばるな小童。貴様のような若輩者では古の龍王には勝てぬ。あれは忌々しいことに最強の神の末裔だ。行くならば儂が行く」
「いいだろう。三番と八番、お前たちで協力して奴を狩れ」
「「はっ!」」
先頭の女が若い男と年老いた男にそう告げる。それは淡々と。しかし突然その口角を釣り上げ
「ああ、ついでに目障りな魔法少女も排除しておけ。特に……あの白黒の魔法少女を」
世界が破滅に動き出す




