第一話
魔法使いに憧れる者はたくさんいるだろう。個人的な意見だがその比率は女性に多い気がする。やっぱり魔法少女や魔女の印象が強いからだろうか。でも男にも魔法使いに憧れる者はいる、はずである。かく言う私もその一人だった。魔法使いに憧れる二十四歳、日目自 白。それが私である。
そんな私が魔法使いになれたなら、私はまず何をするのだろう。その答えを今、私は求めている。
私は魔法使いになった。
もちろん魔法とは御伽噺のものであり、魔法使いはアニメや漫画の中だけの存在だ。夢で終わるのが魔法使いなのだ。そんな存在になれたと豪語する理由は、これから話そう。
私は仕事を終え家で料理をしていた。男としては珍しいかもしれないが飯は自炊するタイプなのである。今日の夕飯は唐揚げを作って明日弁当に持っていこうと思いいつも通り作業を進めていたその時、それは起きた。急に目の前にあった食材が消えたのである。いや消えたのは目の前の食材だけでなく、冷蔵庫の中身も飼い猫の姿もなかった。急に世界から生命という反応が消えたのである。
窓の外に明かりは見える。だが人の気配がない。取り敢えず外に出てみようと思った瞬間には、私は外にいた。ここまできたら魔法使いに憧れる身として期待せずにはいられなかった。
まず靴を履かなければと思い、今度は玄関に行きたいと思うと玄関にいた。上がる心拍数を自覚しながら靴を履き、もう一度外にでたいと願い外に出る。所謂、転移というやつを繰り返しやってみた。
空を飛びたいと願えば自由に飛べた。
物を浮かしたいと願えば家だって無理やり浮かせられた。
火を創り出したり水を創り出したりといろいろ創ってもみた。
これが全部できた時、魔法使いになれたのだと確信した。夢ではないのかと頬を抓ってみて確認し、夢ではなさそうだと思い至る。そしてあれこれ魔法で遊んでいるのが今だ。
「はははっ!楽しーーー!!」
ずっと夢だった魔法使いになれたのだから当然だ。誰もいない世界で目一杯魔法を楽しんだ。
「はあ楽しかった。明日も仕事だしそろそろ寝なくちゃな……それにしてもここ何処だ?アニメ知識で良ければ鏡面世界と言えるが、何故私はここにいる?どうやって帰ろう?」
ひとしきり魔法を堪能して満足したら見えてくる問題。ここは何処?私どうやって帰るの?である。
「何処かに出口とかないかな……こういうのも魔法で探してみるか」
問題解決のため魔法を行使すると何かを捉えた。それはまるで黒い影のような何かで。
「そいつを倒さなきゃここから出られない系か?参ったね、そういうのは魔法少女に頼んで欲しい」
でもやらねば出られないというのならやるしかない。意を決して影の元へ向かうと、そこには黒い外殻を持った巨大生物がいた。めちゃくちゃ暴れて破壊の限りを尽くしてる。あれを倒すのかぁ……。
「これも唐揚げを食べるため。私はお腹が減ったのだ。覚悟せよ!!」
手加減なしで化け物に挑む。出せる全力で魔法を叩きこむ。そしたらあっけなく倒せた。
「案外弱い……いや私が強くなったのか?魔法使いだもんな。んふふ」
勝利の余韻に浸っていると。
『荒魂の消滅を確認。鏡面世界の崩壊まで10、9、8、7……』
どうやら帰れるみたいだ。あの化け物……荒魂?を倒すのでよかったようだ。
『……2、1、崩壊。次回もよろしくお願いします』
ん?次回も?なんて考えた時には自宅のキッチンに立っていた。唐揚げを揚げていたが焦げてないし、時間は経っていないようだ。鏡面世界には体感四時間はいたと思うのだが。
「でも夢じゃない。魔法が使える。戦うのは嫌だったけど、今日はいい日だ」
こっちの世界でも魔法は使えた。その事に喜びながら唐揚げを食べてその日は寝た。
◇後日◇
『荒魂の消滅を確認。鏡面世界の崩壊まで10、9、8、7……』
◇また後日◇
『荒魂の消滅を確認。鏡面世界の崩壊まで10、9、8、7……』
◇またまた…………後日◇
『荒魂の消滅を確認。鏡面世界の崩壊まで10、9、8、7……』
「めんどくさい……」
魔法使いになったあの日から毎日だ。一日に十回以上呼ばれることもある。呼ばれるっていうか強制的に鏡面世界に飛ばされるんだけど。
「これでちゃんとお腹は減るんだもんなぁ」
最近は弁当の他におにぎりを持って仕事にいく。職場ではよく食べるようになったと言われる。太ってないからいいけどさ。
『……2、1、崩壊。彼女たちをよろしくお願いします』
ん?なんかいつもと違ったな。彼女たちって誰よ……。
「……仕事仕事。もぐもぐ」
よくわからないが仲間が増えるのかもな。だとしたら次からは楽になるかな。
◇休日◇
あれから一月、鏡面世界に呼ばれることはなかった。魔法の力が失われたわけじゃないからいいけど。
「今日は休日、久しぶりに魔法少女モノのアニメ見るか。とか思ってたらこれよ。こんにちわ鏡面世界」
また呼ばれたか。なんか懐かしい気分になってる私は大分毒されたな。
「ん?あっちで誰か戦ってる?この前言ってた仲間かな。行くか」
戦闘音からするに複数いるな?私ハブられないといいけど……。
◇
「秋!シールド張って!私が攻める!」
「雪音!落ち着いて!五人揃えて行かないと勝てない!」
『敵の荒魂は強大にゃ!みんなで力を合わせてマジカルビームを放つにゃ!』
……うわぁ、私ここに混ざる勇気ないよ?
ビルの上から戦闘を覗いてみたらいつもの荒魂といかにも魔法少女が戦っていた。魔法少女は五人、あとなんか服着た喋る猫がいる。アニメでよく見る展開があったのだろうか?なにそれ生で見たかった。
「にしても押されてる……危なくなったら助けるか?いやでもピンチこそ覚醒のチャンスってのが魔法少女だしな……ちょっと様子見で」
死者蘇生も多分できるけど死なないにこしたことはない。限界まで観戦させてもらおう。アニメ見ようと思ったらもっといいもの見れた。やったね。
『ギャァァァァァァオォォォ!!』
「強い……私たち五人だけじゃ……」
『諦めないで!絶対に勝てるにゃ!にゃんがついてるにゃ!!』
「にゃん吉……うん!絶対に負けない!いくよみんな!!」
「「「「うん!!」」」」
『その意気にゃーー!!』
なにこれ素晴らしい。カメラないかな……。