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▷アグリーメント  作者: px-h
第5章 祝福と天呪
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水色の宝石箱(4)

遅くなりました!



「――凛さん、今日、兄様と会いましたか?」


彼は少しの間沈黙こそしたものの、悪びれもせずこう言いました。


「……俺、あいつと会ったって言ったか?」


「いえ?けれど、この部屋から出てくる兄様を見かけまして」


そう、そうなのです。

何故ここまで気付かなかったの6子が謎でしかありませんが、鈴様は『妖精に会いに』此処へ来たといいました。

けれど妖精は凛さんを挟んで麗華さんの反対側に置かれています。

きっと此処は『欠片』である麗華さんのために用意された部屋なのでしょう。

流石に扱いが雑です。

そして――


「ひょっとして、兄様じゃない兄様とお会いしませんでした?」


「……やっぱすげえな、お前ら」


人格を入れ替える時。

譲渡(アサイン)】と言うどの属性にも属さない下位魔法を使います。

だからこそ、入れ替えてから10分以上はどんなに頑張っても魔力が体内に残ります。


麗華さん(とおまけに凛さん)と、『天主』として会っていたのなら。

魔力を纏っているなんて、おかしいんです。

なんの違和感もなく素通りしてしまいましたが、麗華さんも薄く魔力を纏っています。

何があったのかは知りませんが、それでも。

彼の体にじわじわと広がっていっている紋を見て、僕は言いました。


「もしかして麗華さんって、瀕死だったりしますか?」


「分かんのか?」


「分かるというか、僕らにもあるんですよ、その痣」


「……は?」


凛さんは呆気に取られたような顔をしました。

何を驚いているんでしょう。

人でないことなど、今更でしょうに。


「8~10歳にの頃からじわじわと現れ始め、18歳に近づいてから呪核というのが生まれます。呪核の位置は人それぞれで、心臓にあったり足にあったり……色々ですけど、そこから痣は広がります。その痣は絶対に消せなくて、呪核が初めて生まれた頃は50を超えられた人はいないくらい大変だったらしいですけど、今じゃ普通に80くらい大丈夫ですかね」


ちなみに僕の呪核はここですね、と僕が袖で隠れていた右手首を晒すと、

凛さんは目を見張りました。


「それにしても、麗華さんってまだ18歳にすらなっていませんよね?ここまで早いってことは、呪核は心臓ですかね……?」


「心臓にあるとまずいのか?」


「当然でしょう。癌がどこにあるかとか、どこを打ったとかで症状が変わるようなものですよ」


「そう、か」


「一般的な進行を遅くする例としては、魔力呪核をいち早く見つけて保護するってことなんですけど……ここまで進んでるなら、もう無理ですね」


「――っ、どうにかならないのか!?」


「わ」


急に立ち上がってきた凛さんに、つい仰け反ってしまいました。


「……すまん」


「いえ――どうにかならないのか、ですか?そうですね、僕からはなんとも言えません。こういうの一番得意なのって高菜なんですよ。高菜は圧倒的な魔力で押し切るタイプといいますか……高菜だけに任せたら、後遺症がヤバそうですけど」 


ここまで話して、けれども凛さんは俯いてしまいました。


「――なんで麗華が……」


「……そういう運命だったんじゃありません?」


その姿があまりにも滑稽で、自分のことじゃないから放っておけばいいのにみたいに考えてしまう自分がいて、自分だったら絶対言われたくないことを口走り、しまったと思ったときにはあまりにも遅すぎたのです。


「――ふざけんな。それは、流石に」


「……すみません、そんなつもりじゃ――」


「――もういい。出てってくれ。麗華も静かな方が良いだろうし」


「――はい、失礼しました」





「――麗華、もう大丈夫だぞ」


そう声をかけると、無駄に良い顔が目を開ける。


「……うん、僕はまた寝るから気にしないで」


「分かった」


『――ごめんなさい、私があの日のあの時、あの場所に居なければこんなことにはならなかったのに』


思い起こされるのは、先程知っている彼女とは打って変わった、けれど同一人物であるという鈴というか存在。

全く同じ顔で、全く違う表情で、全く違う言葉を、全く違う雰囲気をかもし出して紡ぐ二人。


「そんな事言わないで、鈴。君と遊んだあの日は、確かに楽しかった」


「いえ――そうでは、ないんです。私の、せいで……!」


怯えた様子で、全てに絶望し諦めたかのような態度で泣いている彼女は、凛には責めて欲しいようにも見えた。


「これ、魔力を絶ったら僕はどうなるのかな?」


「……確実に死にます。私が死んだ場合も、同様に」


「――そっか。体が弱いとは思っていたけど、まさかこんなことになるとは……」


「――っ、ごめ――」


「――ああ違うよ?責めてる訳じゃないんだ。ただ……そうだな、他人に頼らないと生きていけないっていうのは辛いかもなって」


「……【譲渡(アサイン)】」


「ごめん、何か言っ――?」


「別に何とかなるぞ、その辺は」


「え、光棄?」


麗華が聞くと、意地の悪い笑顔で彼女はニッと笑った。


「驚いたろ、結構簡単に変えられるんだな、これが」


「そうなんだ……それで、なんとかなるっていうのは?」


「魔石っていう色々種類がある魔力を溜め込む性質のある石があってな?今お前に持たしてるやつだ」


「ああ、これ?」


そう言って麗華は首元にかかっている半透明な水色の石を見た。

そう。

この石こそが光棄が出てこれた理由。

鈴の魔力を吸い取らんとする『欠片』の魔力を安定させるものであった。


「つまるところ、お前にその魔石を定期的に作って渡せるやつがいて、でもってお前が俺たちとの糸を切れさえすれば、俺は出てこれるし、俺らが死んだとしてもお前が死ぬことがなくなる」


「その糸ってのは何なんだ?」


凛が不思議に思い問うと、光棄はあっけらかんとこう言い放った。


「天使の生命線だな。天使が寿命と天呪以外で死なない理由だ」


「それって、不死ってことじゃねーか!?」


「じゃあ、天呪っていうのは何?僕は天使なの?」


「うんとな、お前は『欠片』だ。天使(Angel)でも、(fairy)(protect)でも、妖精(スプライト)でも、人間(ヒト)でも、まして獣人(アニマル)でもない」


「『欠片』?」


「てか知らない種族名がポンポン出てるんだが?獣人(アニマル)ってなんだよ」


「まず『欠片』ってのは精霊の王の血が流れてるやつらの中に100年おきくらいで現れる精霊の上位互換みてーなもんだ。要するに今代の精霊側の王はお前ってわけだ、麗華」


「僕が、王……?」


戸惑っているのはしかし麗華だけでなく凛も同じこと。

精霊の王は滅びたのではなかったのか、と。

疑問は膨らみ続けるばかりであった。


「仮初の、って前置詞が付くがな。まあつまり精霊側は今超を超えるピンチなんだよ」


「ん、なんでだ?」


「なんでって、そりゃあ王がいないのに王国が成り立つかよって話だ」


「――じゃあお義母さんはそれを知ってて僕らに近づくためにお父さんに近づいたの?」


そして、麗華にとってまず大事なのは父の幸せまで仮初だったのかというものであった。

しかし光棄からしたらその質問は見当違いもいいところであり。


「は?……いやそうか、そうなるのか。ああいや、花が遥と会ったのは思いっ切り偶然だぞ。花は『欠片』を見分ける能力なんて持ってないから、それは間違いない。加えてお前と繋がりのある俺らがお前のもとへ行ったのも偶然だ。花に未来を見通す力とかがあるんなら話は別だがな」


「そう……なら良かった」


「――お前、命の危険が迫ってる割に大分落ち着いてんな」


「そう?」


「他人の心配なんてしてられる内は安泰だろ、なあ?」


問いかけられた凛は少し呆れた風に言った。


「そういう奴なんだよ、生まれた瞬間からな」


「……そうか


「あ、そうだ光棄、ダンス良かったよって高菜ちゃんたちに伝えといてくれる?」


「菜っ葉に?何でまた……」


「「……菜っ葉?」」


「あ、悪い間違えた。ていうか俺今高菜たちと喧嘩してるから伝えるのは無理だな」


「喧嘩?それまたなんで……」


「海より深い事情があんだよ」


「絶対適当に言ってるだろ」


「勿論」


はあ、と凛は呆れたように溜息を付いた。


「ってか、思ったんだが俺らって帰れんのか?」


「無理だな。帰ったら速攻精霊サイドに捕まる」


「僕以外でも?」


「お前を天使側から引き出すための材料になるだろうな」


「まじかよ」


「ここから連れ出してあげましょうとか言われたら本気で抵抗しろよ、連行されるだけだから」


「うん、分かった」


「それじゃあ俺はそろそろ帰るが、何かあったら全力で叫べよ」


「うん……うん?分かった」


「……【譲渡(アサイン)】。それではこれで私達は失礼します」


「じゃ、またね」


「はい」


そう言って彼女らは扉を閉めた。

目覚めた麗華は布団を被り、再度横になる。


「なあ、麗華。お前、母さんの顔覚えてるか?」


「いや?母さんがいなくなってすぐに忘れちゃった」


「そんなもんかよ」


「そんなもんだよ」


「まあ……そうだな」




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