エレメンタル・コア(7)
え、待って?
普通に忘れてた……。
――違う。
「ああああああああああああ!!」
私の大好きなお母さんは、こんな大きな声を出さない。
こんなに耳をつんざくような高い声を出さない。
「――違う」
だから、この人はお母さんじゃない。
その時。
どさ、という何かが倒れるような、落ちるような音がした。
「す、ず……?」
違う。
お母さんは陽気な人ではなかったけれど、こんな弱弱しい声は出さなかった。
「しあ、わせに……な、って……ね――」
残ったのは、赤く染まった布の塊とその周りに散った赤黒い血、倒れた椅子と机と、零れた紅茶のティー・カップ。
それと、
「ごめんなさい」
その場にしゃがみ込んで泣き喚く少女と、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
その少女がこれから抱え続けなければならない、膨大な罪悪感だけ。
▷
最悪だ、と、そう思った。
結局、何も意味を成さなかった。
「夏宮、鈴」
けれども、目の前の少女が自害しようとしているのだけは、止めたかった。
「……止めておいたほうがいい」
なのに、なんで、こういう時に限って、私の口は上手く動かないんだろう。
「亡霊、かなあ?遂に私も末期か……」
雨が降り始めていた。
少女はそんな空をしゃがんだまま見つめて、笑っていた。
「違う……わたしは莉月。天使の始祖だ」
「始祖。そう、始祖ね……。だったらもうちょっと早く助けてくれても良かったのにさ」
正論だった。
そして、その通りだった。
私は間に合わなかった。
救いえる者を救えなかった。
転生に思っていたよりも時間がかかってしまったのは本当である。
しかし、そんなものは言い訳に過ぎないのだ。
時間は戻らない。
失った者は帰ってこない。
今まで万が一を考慮してこなかった自分に嫌気がさした唯一の日だった。
ばーい!




