隠していること
私はシャワーの準備に慌ただしく動き始めるメイドにお礼を言いつつ自分の部屋に入り、ソファに座って一息ついてから、シェカール様から届いた小包を開けてみた。
「わあ、きれい」
小包の中に入っていたものは扇子だった。
ただの扇子ではなく、扇面が紙ではなくシルクでできていて、光に透かすと表面がきらきらと輝く。
中骨にも細やかな美しい透かし彫りが施されていて、しばらく眺めても飽きなそうだ。
私はシェカール様からの贈り物をありがたく机の上に置いて、着替えるために鏡の前に立った。
鏡の中の私は黒い髪をおさげにして、縁が黒い眼鏡をかけ私を見つめ返している。
大きな眼鏡からはみ出るほどの太い眉毛も印象的だ。
私はしばらく鏡を見ていたが、おもむろに髪をつかんで引っ張った。
すると、黒いおさげ髪の下から豊かなピンク色のウェーブヘアーが現れる。
さらに眼鏡を取って眉毛をこすると、太い眉毛は柳眉に変わり、そこに隠れていた大きなアメジストの瞳がとたんに存在を主張し始めた。
私は、私が世間一般から見て美人だといわれる容姿を持っていることを知っている。
アメジスト色の大きな瞳に、こぶりの鼻、桜色に色づく唇。そしてその顔の周りを、ボリュームのあるピンク色の髪がふわふわと柔らかく覆っている。
小さいときから周囲に妖精のようだとまで言われて育ってきた。
きっとこの姿で学園に通えば、もっと親しくなれる男子も増えるんだろう。
だけど私は、わがままかもしれないけれど、私の容姿で私を選ぶような人を好きになりたくないのだ。
私の伯母は優しくて美しい人だった。
母の姉である彼女は、暇さえあれば我が家を訪れて私たち兄弟と遊んでくれた。お菓子や手作りの服を持ってきてくれたこともある。
私たちが悪さをすれば、母のように厳しく叱ったが、私たちが反省するとぎゅっと抱きしめてくれた。
私たちはそんな伯母が大好きだった。
だが、彼女の夫はろくでもない人だった。
仕事もろくに行わず、借金を繰り返し浮気三昧。我がハーシェ家はそんな彼を嫌い、そうそうに彼を出入り禁止にしたくらいだ。
それでも容姿が整っていたから女が途切れることはなかったし、伯母もなぜか彼を愛し続けていた。「私には優しいから」が彼女の口癖だったように思う。
しかし、そんな彼女も最終的には捨てられた。
「外見だけのつまらない女」という捨て台詞を残されて。
伯母は心労から病に倒れ、結局立ち直れないまま亡くなってしまった。
もちろん、こんな男の方が稀であることはわかっている。
だけど、怖いのだ。
いつもニコニコ笑っていた伯母が、伯父に言われた一言で笑顔を失ってしまった。
私の外見が目立つことは知っている。それが男の人の目を眩ませることも。
でも、それだけで選ばれたら、いつか眩んでいた目が元に戻って私の中身に目がいったとき、その中身に幻滅して捨てられるかもしれない。
だから学園で結婚相手を捜すからには、この変装だけはどうしてもやめるわけにはいかなかった。