認める
お弁当を分け合って食べる時間は、和やかに過ぎた。
お腹が満たされた私は、のんびりとベンチの背もたれに背中を預ける。
たまにお弁当を作ってもらうと、いつも『量が多すぎる!』『お嬢様を飢えさせるわけには参りません!』というシェフとの攻防があるのだが、今日ばかりは多めに作ってもらったことに感謝だ。
セフィードもまた、私の横で足を組んで満足そうな表情をしていた。
「ねえ、セフィードはどんな食べ物が好きなの?」
私はふと気になってセフィードに尋ねる。彼は一瞬考える表情をしたあと、足を組み直して私に答えた。
「苦いもの以外ならなんでも。甘いものもわりと好き」
「えっ、そうなの?」
意外だった。なんとなく甘いものを嫌っていると勝手に思い込んでいたけれど、そういえば嫌っているところを見たわけではない。
それに、苦いものが嫌いということは……
「ねえ、もしかしてコーヒー飲めない?」
「……うるさいな」
すねたように顔をそむけて言うセフィードに、私はなんだか嬉しくなった。
「私もコーヒーはあんまり好きじゃないの。仲間だね」
私の周りはコーヒー好きな人ばかりだから、なんだか同志ができたような気持ちになる。
セフィードは私の言葉を肯定も否定もせず黙っていた。
「あ、そうだ、甘いものといえば――」
「お前さ、――」
楽しくなってさらに掘り下げようとした私の声と、何かを言いかけたセフィードの声が被る。
二人で顔を見合わせたところで、私たちのいるところに鈴を転がすようなかわいらしい声が聞こえてきた。
「セフィード、どこにいるの?」
声のする方向をセフィードと同時に見る。
広場の入り口のあたりで、シャーリーがきょろきょろとセフィードを捜していた。
シャーリーはこちらに全く気付いていない。
このままこちらから声をかけなければ、そのまま行ってしまうだろう。
ここはセフィードの隠れ場所だ。だけど――――だけど、私に許されていることが、シャーリーに許されないわけがない。
だってセフィードはシャーリーが好きなんだから。
きっとセフィードはここにシャーリーを呼ぶ。
私はそれを見るのを耐えられる気がしなかった。私だけが知っていたセフィードの秘密を、シャーリーが知ってしまうのが――――
だから、私はセフィードが動く前に動いた。
セフィードが動くところを見ているより、自分からシャーリーにばらしてしまった方がましだと思ったのだ。
協力する約束もしてしまったし。
「おい」
急に動いた私を、セフィードが訝し気な表情で呼び止める。
私は無理やり笑顔を浮かべてセフィードを振り返り、言った。
「私が呼んでくるよ。そのまま私は教室に帰るね。セフィードはシャーリーが好きでしょ?応援するよ」
ちゃんと笑えているだろうか。
なんだか祈るような気持ちでセフィードの反応を待つ。
セフィードは私を感情の読み取れない瞳で見つめたあと、ため息をついて言った。
「わかったよ。勝手にしろ」
その返事を待っていたはずなのに、私の心は鉛をつけたかのように一気に重くなる。
これ以上セフィードの顔を見られなかった私は、セフィードに背を向けて黙ってシャーリーの方へ向かった。
私が近付いて行ったことで、シャーリーがこちらを見る。私の後方のベンチにセフィードがいることにも気付いたようだった。
私は笑ってシャーリーに話しかけた。
「セフィードはあそこにいるよ」
「あ、ほんとだわ、こんなところに広場があったのね。知らなかったわ。……もしかして、マフルはここでよくセフィードと会ってるの?」
「ううん、そんなことないよ。セフィードはよくここにいるみたいだけど」
「わあ、いいこと聞いちゃった。教えてくれてありがとう」
嬉しそうににこにこ笑うシャーリーとは裏腹に、私の気持ちはどんどん澱んでいく。
「じゃあ、私はそろそろ教室に戻るから。シャーリーはセフィードとごゆっくり」
「マフル、本当にありがとね」
シャーリーは誰もが見惚れるような笑顔で私に手を振って、セフィードの方へと駆けていった。
それを見送ったところで私の胸に急速に後悔が沸き上がる。
わかっていた。
ずっと、気付いていた。
気付いていたけど、認めたくなくて、気付かないふりをしていた。
私はセフィードのことが好き。
――――だけど、後悔しても、たぶんもう遅いのだ。
やっとタイトル回収です。
思ったより時間がかかったよ、マフル……。




