クラスメイト
ライシーと並んで、同じ教室に入る。
すると、私はあっという間に同じクラスの女子たちに取り囲まれた。
「ねえマフル、さっきセフィード様と話してなかった!?」
「まさか友達だったの?!」
「紹介してよ~!」
彼女たちの剣幕に私はたじろぐ。
せっかくライシーが落ち着いたのに、今度はどういうことなのか。
「いや、そんなんじゃないから。たまたまぶつかって謝っただけ」
私はできるだけ冷静にそう返したが、彼女たちの興奮は収まらない。
「嘘だー! 見つめあってたじゃん」
「そうそう、見たんだから」
たしかにみつめてしまったのは事実だが、見つめあってたというのはとんでもない誤解だ。
彼だって不名誉だろう。
私は大げさなくらい首をぶんぶん振って否定した。
「違う違う! ちょっとぼーっとしちゃっただけだし、なんなら謝っても無視だったから」
私の言葉に、彼女たちは顔を見合わせて笑い合う。
「そりゃ、あんなイケメン近くで見たらぼーっとしちゃうよね」
「わかるー! 1時間でも眺めていられそう」
それもちょっと違うけど、もうそういうことでいいだろう。
私が黙っていると、話がどんどん進んでいく。
「今も彼女いないってほんとなのかな?」
「いたらすぐ噂になるでしょ!」
「てか私が彼女なら自分から自慢するわー」
「わかるっ! 自慢しながら学園内を練り歩くわ」
さっきまで彼女たちの勢いに引いていたライシーも、会話に加わってとても楽しそうだ。
しかしそのなかで一人が言った言葉に、私は再び慌てる。
「でも、ぶつかって話ができるなら私もぶつかってこようかな」
「いや、それはやめてね!?」
私が原因で、彼が当たり屋にあいまくってしまったら申し訳がなさすぎる。
必死な私を見て彼女たちは声をあげて笑った。
******
……少し話しただけでこの騒ぎなのか。
朝のひと騒動が終わったあと、私は自分の席に座ってから椅子の背もたれにぐったりと背中を預けた。
あんな一瞬がこの騒ぎになるなら、彼は女の子の友達を作ることすら難しいのかもしれない。
せっかくわざわざこの学園にきたのにそれはかわいそうだな、なんて考えていると、後ろからつんつんとペンで背中をつつかれた。
しばらく無視していたが、いい加減しつこいので振り返る。
「なに?」
「いや、振り向くの遅いって」
私の背中をつついていたのは、後ろの席の男子、タージェルだ。
釣り目で少し上を向いた鼻はイケメンとは言いづらいが、さらさらとした綺麗な銀髪を持っていて後ろ姿はなかなか絵になる男である。
「だって大した用事じゃないでしょ」
「その決めつけひど!」
「じゃあなに?」
「や、さっきのはなんの騒ぎだったん?」
やっと落ち着いたのに、蒸し返す気か。
やっぱり大した用事じゃなかったな、と思った私は黙って前に向き直った。
「おい、無視すんな!」
タージェルはそんな私の背中をつんつんつんつん!と高速でつついてくる。痛くはないが地味に不快で、私は顔をしかめた。
「もう、うるさいな! セフィード・オスカーの話だったの!」
「えっ! お前みたいな堅物でもやっぱああいうのが好きなん!?」
「違う」
タージェルの失礼な物言いにイライラして、私は今度こそ後ろを向くのをやめた。
「ちょっと、詳しく聞かせろよ~!」
しばらく私の背中をつつき続けていたタージェルだったが、頑なに無視していたところ、やがて諦めて他の席の友達のところへ行ってくれた。