【第1章 アラン】 第5話
「ま、そうくるよな。」
小さく息を吐いてあたりを見回し、手ごろな木の棒を2本拾う。
「かかってこい。」
拾った木の棒の1本をアランに投げ渡して、ぶらりと力を抜いた態勢をとる。
「サクと闘うの?」
「どんなもんか見るだけだ。技術など未熟なのは言うまでもないだろうが、素質を見極めないことには、な。」
「…分かった。行くよ。」
アランは、大きく深呼吸をして全力で集中を始める。
5歳児にしか見えないサック・ラック・ソルムントに対し、底知れない脅威を感じたのだ。
「ふむ。勘は悪くない。ならば…。」
アランが呼吸を整え、間合いに入るべく一歩を踏み出したその瞬間、目の前に、あるはずのない木の棒が迫りくる。
「くぅ!?」
無理やり体をねじり、躱すことに成功する。
「ほう。これを躱すか。では、これはどうだ?」
ようやく躱したと安堵するのも束の間、身をよじったその先では次の一撃が待ち構えている。
「なんっ!?ふっ!んんんッ!」
20ほども続く追撃をなんとか躱していく。
「やるな!恰好は悪いがまだ一撃も食らっていないぞ!体幹もなかなか鍛えているな!では、最後にこれだ!」
明らかな大振りで競り合いを誘われている。
体制を整え体に遠心力を加え、全身全霊で迎え撃つ。
「おおぉぉぉぉぉッ!」
数秒間鍔迫り合いの状態が続いたが、ついにアランの木の棒が弾かれてしまう。
「はぁ、はぁ。」
膝をつき、荒くなった呼吸を整えたアランは目を輝かせた。
「すごいね、サク!」
「俺も少しびっくりしている。11歳を過ぎただけのガキが、ここまでやるとはな。ところで、さっきから気になっていたんだが、サクとはもしや俺のことか?」
「うん。だってサクの名前長いんだもん。」
そう言われたサック・ラック・ソルムントは、額に青筋を浮かべ、怒鳴り散らすのだった。
―。
サクの呼び方についてひと騒ぎした後、二人は今後について話を始めた。
「まあ、悪気がないというか、悪気しかないような気もするが、サクと呼んでもいいことにしてやる。代わりにパンをよこせ。」
どうやら、実はまんざらでもないようだ。
「あ~、まあ干し肉があるからいいけどね。」
少しだけ、ほんの少しだけ名残惜しそうに、持っていた最後のパンの渡す。
渡されたパンをほおばりながら、サクは話を続ける。
「お前が望むなら、洗礼の間に連れて行ってやるが、どうだ?おい、水もよこせ。」
横目で小さくなっていくパンを見ながら干し肉をかじっていたアランは首を傾げた。
「はい、水。洗礼の間って?」
「言うなれば祝福名を授かるための試練場のことだ。」
アランはかじっていた干し肉を一気に飲み込んで言う。
「サク!洗礼の間に連れてって!」
宥めるようにサクは言う。
「落ち着け、まったく。お前食料ないだろう。ここから3日はかかるぞ。一度、クマラに戻ってパンを買ってこい。足りない。もっと食いたい。」
「サクが食べたいだけじゃないか!」
「お前の分も必要だろうがっ!。」
「…クマラに行ってきます。」
「おう。早く戻って来いよ。」
試練に挑むべく、二人は一旦別れるのだった。
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