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その祝福は世界を変えるか  作者: クラノ恩樹
第1章 アラン
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【第1章 アラン】 第4話

見た目5歳の子供から心底の憐みを受けるアラン。


「まあ、やり直せば済む話だ。がんばれって。カンノビ迷宮には加護を強化に行くんだろ?

1日かそこら遅れたって大したことじゃあないさ。」


「ん?加護を強化?僕はスキルをもらいに行くんだけど。」


またもや、サック・ラック・ソルムントの表情が曇る。

これは聞き捨てならないぞという顔だ。


「スキル?加護を知らないのか?…なあ、ちなみになんだがお前の名はなんていうんだ?」


「名前はアランだよ?」


「違う。祝福名だ。『アラン・なんちゃら』みたいな感じだ。」


「そんなの貴族しか持ってないよ。常識じゃないか。」


今度はサック・ラック・ソルムントが崩れ落ちた。


「お、お前!『名無し』のくせにスキルを取りに行く気だったのか!?

そのまま迷宮に行ったら、単品野郎になっちまうぞ!」


「ど、どういうこと?」


「いいか。お前にはパンの恩があるから教えてやるが、祝福名を持たない者がスキルを授かれば、魂がそのスキルで固定されてしまい、複数のスキルを所持できなくなるんだ。」


「い、意味がわからないよ。」


「例えばだ。お前の名はアランだったな。アランという名はいうなればお盆だ。祝福名はお盆の上に乗せる器とする。お盆の上にいくつも器があれば、複数の料理を並べることができるが、お盆に直接スープを注げば、そのスープ1品だけでお盆は埋まってしまい他の料理を乗せることができなくなる。そういうことだ。」


アランという少年は、大事なところでの回転は人より数段速い。

少しだけ無言で考えた後、目を輝かせて言った。


「つまり、先に加護をもらえたら、俺はもっともっと強くなる可能性があるってことだよね?」


「…お前、落ち込まないんだな。」


意外な反応に、サック・ラック・ソルムントは戸惑う。


「だって、僕の想像したよりずっと強くなる可能性があるって分かったんだ!

そうすれば魔王軍をやっつけて、家族だって取り戻せるようになるさ!」


(なるほどな、自分のこれまでの知識や常識に固執せず、新しい可能性に素直に目を向けられるやつか。なかなかにおもしろい奴だな。)


そう思いながら、同時に浮かんだ疑問をアランにぶつける。


「魔王軍を倒すだと?家族?」


アランはサック・ラック・ソルムントにこれまでのことを話した。

村が魔物に襲われたこと。

その魔物の群れを魔族が率いていたこと。

父の行方が分からないこと。

目の前で母と妹が目の前で連れ去られ、兄が魔物に殺されてしまったこと。


「…魔族を見たのか?」


「ううん。群れの中にオークが4体ほどいたんだ。」


「オークか。それは…確かに魔族の仕業かもしれん。」


オークは食欲・性欲が著しく旺盛な魔物である。

あらゆる動物や魔物と交配ができるため、雄であれ雌であれ、1頭でも野放しにしておくと数の増加に手が付けられなくなってしまう。


オークの繁殖は深刻であり、あらゆる生物は食料や交配の相手とみなされ、浸食されるように世界は破滅へと向かう。

ゆえに、魔王軍でさえオークは必要以上に数を増やさないよう徹底管理し、野良オークに関しては魔王軍自ら殺処分するほどだったのだ。


ちなみにゴブリンも似たようなもので、多種族との交配で個体数を増やすのだが、ゴブリンは雄個体のみで、食欲に関してもオークほどではないため脅威度としてはかなり下がる。


最後まで聞くと、サック・ラック・ソルムントは大きく息を吐きアランを見据えた。


「おそらく、お前の母と妹は古代種・ハイエルフの先祖返りだ。親子でってのは珍しいな。普通の人間と姿かたちは変わらんが、老いが周りの人間より遅く、見目も美しいのではないか?」


確かに、母はいつまでも若く30半ばに差し掛かるが10代のように若々しい。


「ハイエルフの子孫は、血の濃さにもよるが内包する魔力が常人とは桁が違う。魔族はその魔力を利用して魔窟を開放しようとしているのかもしれないな…。」


「魔窟?」


サック・ラック・ソルムントは目を閉じ、眉間に皺を寄せながら語る。


「もとはパンデモニウムという天高くそびえる塔だったのだ。」


パンデモニウムはもとは地中にあった小さな球体だったといわれる。

突然現れたそれは成長を続け、あっという間に天を突くような高さとなり、

無数の魔族と魔物を生み出し始めた。


出現した魔族や魔物は、豊かな自然を住処にし、人々の暮らしも瞬く間に侵略していった。

世界は疲弊しきっていた。


そんな中、力を持った英雄が集い、多くの犠牲のもとにパンデモニウムをなんとか封印することに成功する。

塔は姿を消し、地中に埋まっていた部分も底が見えない大穴となった。それがグゼの魔窟である。


封印こそできたが、存在そのものの消滅には至らず、『見えないがそこに在る』という状態になった。

どこまでも続く大穴に見えるが、実際は穴に落ちることはなく、それに気づかぬ飛ぶ鳥は見えない塔の中腹に衝突してしまうという。

そしてパンデモニウムに近づいたものは、その生気を奪われ、取り込まれるように消滅してしまう。


「重要なことは、だな。封印された魔窟の内部には今も強力な魔族が存在しているということ。そしておそらくだが、何者かがその封印を解いて魔族を開放しようと目論んでいるということだ。」


「…そんな、ことのために、母さんとファラは…ッ!」


一瞬、髪の毛が逆立つほどに怒りをあらわにしたアランだったが、

すぐに深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。


「…なぁ、お前の年はいくつだ?」


「11歳だよ。突然どうしたの?」


(たった11歳のガキが、ここまで精神をコントロールできるもんなのか?おそらく、家族におきた悲劇のせいだろうが、あまりに出来すぎじゃねえのか?)


「ねえ、サク。俺、加護がほしい。どうすればいい?」


射貫くようにサック・ラック・ソルムントを見つめ、アランは静かに、そして力強く言うのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今後の励みになりますので、感想やアドバイスなどお待ちしております。

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