【第1章 アラン】 第3話
アランは、カンノビ迷宮を目指して歩いていた。
(確か、北に向かって歩けば昼前には着くだろうって言ってたけど…。あ、森が見えてきたぞ。)
草原を小1時間ほど歩いたところで、木々が見え始めた。
(あの森を抜ければいよいよだな。)
あまり深い森ではないため、
魔物も多くはないが、少し緊張しながら暗い森の中を進んでいく。
「た・・・け・・・・―。」
(ん?)
「た、たす・・・て・・・―。」
(助けを呼んでるっ?)
声のする方に耳を傾け、探していく。
「おーい!助けに来たよ!どこにいるんだ!」
「こ、ここだ・・・た、すけて・・くれ・。」
声が近くなってきた。
草をかき分けながら声に近づくと、
5,6歳くらいの男の子が倒れているのを見つけることができた。
「だ、大丈夫!?どうしたの?」
「おおっ。天の恵みとはこのことだ・・・。はやく・・・。」
「どこか痛いの?お父さんかお母さんは…。」
「は、早く・・・を・・・。」
「すぐクマラの町に連れて行くよ!」
そう言ってその子を担ごうとしたとき、
「早く、食いもんよこせって言ってんだ!なんか出せーッ!」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
アランも子供も数秒時が止まる。
「く、くいもん?」
「腹減って死にそうだ!早くなんかよこせバカガキ!」
「あ、あぁ。黒パンと干し肉があるけど。」
「この俺に肉なんか食えってのか!?パンだ、パンをよこせ!」
「わ、わかったよ。怒るなよ・・・。」
―。
「あー、とりあえず助かったわ。余計なもんが入ってねえし、歯ごたえ抜群だし、旨いパンだったぜ。
たまに贅沢ぶってバター入れたりして動物臭くて食えたもんじゃねえのもあるが、
こいつは久々にイイもんだったぜ。」
行き倒れの子供にパンを分けてやると、
ものすごい勢いでかぶりつきあっという間になくなった。
持ってきていた黒パンは、
小麦を水で練って固めて焼いただけのものでパンと呼ぶのも恥ずかしい代物だった。
本来は味気なくて不味いという感想が出るはずなのだが。
「とりあえず良かったよ。君は、クマラの町の子じゃないの?」
「あ、俺か?聞いて驚け。俺はサック・ラック・ソルムントだ。」
「……サック、ら?」
よくわからないという顔をしていると、子供は顔を真っ赤にして怒り始めた。
「て、てめえ俺を知らねえのか!?なんでこんな無礼な奴が生きているんだ!?」
「えぇ…?だって知らないものは知らないし。」
「こ、こんな…。世も末とはこのことだ。」
サック・ラック・ソルムントによれば、彼はこの地方を守る精霊なのだという。
以前は、周辺の町や村をあげて信仰したり、祭りを催して崇めていたりしたが、
数十年ほど前からめっきり無くなってしまった。
さらには近頃活発化してきた魔物のおかげでエネルギーとなる空気中の魔素が汚され、
自然からできた食べ物を直接摂取する必要ができてしまったらしい。
「それで食い物を探して森に来てみたが、
ここには俺が食えるものがなくて行き倒れ、チャンチャンってな。
そこにお前がきたんだ。まあ、食い物出してくれたし、無礼は帳消しにしてやるぜ。」
「あはは。それは良かったよ。助けたのに罰を受けたらちょっと悲しいよ。」
ようやく場が和んだところで、サック・ラック・ソルムントはアランに尋ねる。
「ところでお前、こんなところで何してんだ?」
「俺はクマラからカンノビ迷宮に行くところだったんだ。まだ間に合うと思うから、
ここで別れていいかな?精霊なら大丈夫でしょ?」
「カンノビ迷宮だと?こっちはクマラから反対方向だぞ。」
「え?だ、だって、町を出て左に向かって進めば着くって教えてもらったんだよッ?」
「左にむかっ……。どんな道案内だそりゃ。」
「北とか南とか言われてもよく分かんないから、違う教え方を聞いたんだけど…。」
「間違ってねえが合ってもいねえ!大体、町出て左に向かったのに何でこっちに来てんだよ!」
サック・ラック・ソルムントが怒鳴る。
「ちゃんと門番さんに挨拶して、そこから左向けして向かったんだ!間違ってないよ!」
アランも返すように怒鳴る。
「…門番に向かってあいさつした後に、左向けしたんだな?」
「そうだって言ってるじゃん!」
ため息をつきながら、サック・ラック・ソルムントは地面に図を描いていく。
「そうそう、そこで門番さんに挨拶して・・・・左む・・・け、左・・・・あぁっ!」
アランの体が膝から崩れ落ちていくのだった。
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