【第1章 アラン】 第2話
水に麦が浮かんでいるだけの薄い粥を口に運びながら、
アランの目は力強く、決意に満ちていた。
(あれから一年半。ようやく銀貨10枚を貯められたぞ。これで迷宮に挑戦できる!)
クマラのはずれには迷宮がある。
迷宮は踏破すればスキルが得られるので
それを取得し冒険者になれば、今よりもずっと良い稼ぎになる。
ある程度の力と生活基盤を身に着ければ、カイルの手助けができると考えていた。
(それにしても、こんな食べ物でよく一年以上も生きていられたなぁ…。兄さんが時々仕送りしてくれたりしたけど、それでもねえ…。まあ、何度も空腹に耐えかねて野ウサギを狩ったりしたけど。)
町の外は魔物がいて危険なため、
冒険者や本職の狩人でない限りはラグドアでは狩りはほとんどしない。
だが、アランの村では日常的に狩猟は行われており、
アランも経験済みだ。
「おい、アラン。ほんとにカンノビ迷宮に入るのか?挑んだやつの半分は戻ってこない。お前にはそんなことにはなってほしくないぞ。お前がいなくなったら肉が食えなくなるだろ。」
迷宮への挑戦を心配したのは同僚のスタンだ。
13歳と年も2つしか変わらないこともあり、すぐに仲良くなった。
捕獲したウサギの肉で作ったスープを分けてあげたのも、
皆に受け入れられた理由だった。
「大丈夫だよ。面白そうだし。」
「だ、大丈夫の理由になってねえ…。」
アランは頭のネジが緩いところがあるらしい。
「絶対に大丈夫っ。やってやる!」
つぶやくように決意を口にするアランを見て、スタンは違和感を感じていた。
(冒険者になることか?いや、違う。もっと別の…。)
「…なあ。お前のやりたいことって、なんだ?」
不意に飛んできた質問に少しだけ考えたアランは、
「…とりあえず、強くなりたいんだよ。」
自分はまだスタート地点に立つことすらできていない。
目的を話すとしても、それはまだ先の話だと思い、当たり障りのない言葉で返した。
「とりあえず…か。そっか、いつか話してくれよ。」
「…うん。ありがとう、スタン。」
少し寂しく、もどかしさを感じながらも、
スタンはそれ以上を聞かなかった。
「おい!アラン!」
突如、頭の上部が禿げてきている親方のディゴが大声でアランを呼ぶ。
「なんです?ディゴの親方?」
「…駄目だったら、戻ってこい。また粥くらいは食わせてやる…。」
「親方ぁ。こんな粥じゃ戻ってきたくねえって!ぎゃははははは!」
「ホントだぜ!アランが取ってきたウサギの肉に目ぇキラキラさせてたしな!」
「まったく締まらねえ親方だぜ!うっはっはっはっはッ!」
「お、お前らなぁ…今笑ったやつら全員泥すくいさせてやるから覚えておけよ!」
「ちょっ!それは汚いぜ!」
「横暴だ!」
「ブーブー!!」
アランは笑っていた。
目に涙を溜めながら大声で笑っていた。
(みんなのおかげだよ。俺がここでやってこれたのは…。)
今日の粥は、クマラに来てから今までで一番おいしかった。
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