第四話【人魔の集い】
魔王城、謁見の間。
玉座に座る魔王と、その傍らに立つメイドのクイール。
魔王の眼前に佇む二人の人間。
勇者と聖女マリーゴ。
……いよいよ、魔族の頂点と人族の頂点が一堂に介する会合がはじまる。
この世界の頂点達の荘厳なる姿に、
並みの魔族や平民なら、委縮し声を出すことすらできないであろう。
魔王は全員が揃った事を確認し、重々しく口を開いた。
「それでは、これより我ら魔族と人族との親交の証、
……"人魔の集い"を開催する」
魔王は一呼吸置いて更に話を続ける。
「今回も色々な議題が山積みのようだが。
……その前に、何か伝えておくことはあるか」
辺りを見回す魔王。
その問いに、勇者は意を決したように口を開く。
「……魔王よ、これだけは言っておかねばならぬ事がある」
「……ほぅ」
勇者から感じる鋭い視線。
それに負けじと、魔王からも鋭い視線が交わされる。
「……」
「……」
二人の視線から今にも火花が散りそうになったその時。
ガンッ!!
謁見の間に、突然硬質な音が響いた。
音の先は、魔王の頭。
冷た目で拳を握り魔王を見つめるメイドのクイール。
「……クイールさん?」
「……何でしょうか魔王様」
「な、何故いきなり拳骨を……?」
「御二人の茶番に付き合っていると時間がいくらあっても足りないので、
茶番の部分をリスケさせて頂きました……何か問題でも?」
「……いや、何もありません」
ニコリ、と拳を握りながら微笑むメイドに、
何も言い返せない魔王であった。
「その、魔王すまん。俺も悪かった。
だから、な、マリーゴもその、杖の切っ先を俺のお尻に向けるのやめような」
自分のせいで傷ついた友を想い。
そして何より、自分の最大限の保身の為に。
マリーゴを横目で見つつ、
勇者は震える声で反省の意を示した。
「……で、勇者よ。言っておかねばならぬ事とは何じゃ?」
やっと話が進む。
けど、どうせ碌な話じゃない。
……そう思ったマリーゴは来る時に備える事にした。
そんなマリーゴの想いを知ってか知らずか、
勇者は待ってましたと言わんばかりの勢いで話始めた。
「そうそう、前から言いたかったんだけど、魔王城のトイレってシングルペーパーだよな?
流石に魔族の王がシングルペーパーを使うのはどうかと思うんだ。
だから、俺の尻のためにもダブルペーパーにぐぎゃぁああああああ?!」
マリーゴの杖が、目標をセンターに入れてスイッチした。
備えあれば憂いなしである。
今日も平和で騒がしい。
これこそが、二種族の頂点の会合"人魔の集い"であった。