第三話【メイドと聖女】
……相変わらず勇者と魔王は仲が良い。
二人のやりとりを、
マリーゴは冷めた目で見ていた。
やがて、そんな彼女の横を、
人間よりもかなり大きな影と、
彼女より少しだけ大きい影が横切って行く。
「……はぁ」
恐らくこれから行われる会合でも、
バカコンビの茶番が繰り広げられるのだろう。
そして、それに自分は振り回される……。
(面倒くさい)
思わず頭を抱えそうになる彼女だが、
玉座の後ろから現れた新しい影に気づいた瞬間、
滅入る気持ちが少しだけ持ち直すのを感じた。
玉座の後ろから現れたのは、
メイド服を着た美しい女性だった。
その女性は、迷う事なくマリーゴの前に立ち、
深々と頭を下げた。
「この度は遠路はるばる、
我らが魔王城に御足労頂きありがとうございます」
「気にしないで。久しぶり、クイール」
「お久しぶりです、マリーゴ様」
前回の会合に参加しなかったマリーゴにとって、
クイールとの再会は約二年ぶりとなる。
それに魔族の中で最も気が合うクイールとの再会。
(今年は、参加できて良かった)
クイールを前にしたマリーゴの頬は、
自然と緩まった。
少しだけ気力が回復した彼女の目に、
辺りを見渡して首を傾げているクイールが映った。
「……ところで、マリーゴ様。
魔王様と勇者様はいかがされたのでしょうか?」
先程来たばかりのクイールには当然の疑問。
何故なら、人族の代表と魔族の長が、
この場にいないのだから。
マリーゴは両肩を上げて、
やれやれと言った感じて答えた。
「勇者、寒さでお腹を壊した。
そして"ツレション"なる男同士の友情の儀式をしてくる、と言って消えた」
マリーゴの返答に「……なるほど」と、
クイールは一瞬で状況を理解した。
しかし……あの二人はそれぞれの種族の代表としての自覚はあるのか。
頭を抱えたくなったクイールであったが、
(お腹を壊したのなら、"ツレウン"では)
と、どうでもいい事を考え現実逃避をすることにした。
馬鹿二人の行いは言ってしまえば平常運転。
考えるだけ無駄である。
そして、何よりそんな馬鹿ができるのは……
"平和の証"であるのだから。