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第一話【魔王】

_________________________________________________

「古来より人族(ひとぞく)魔族(まぞく)は争っていた。


 人は北に冷たさを求め。

 魔は南に暖かさを求め。


 長年に渡る争いは

 身を、心を、家族をすり減らしていく。


 いつしか、人も、魔も、求める物が変わっていた。


 ――平和が欲しい。


 だが、流れた血が多すぎた。


 人か魔、どちらかが滅びるまで

 決して平和はこない。

 

 ……誰もがそう思っていた。


 しかし、争いは唐突に終わりを迎える。

 ――勇者と魔王の手によって」

_________________________________________________


重く、そして死を連想させるような声が響く。


氷のような冷たさを感じさせながらも、

誰もが見惚れる美しい容姿を持った、

メイド服を着た女は、表情を一切変えず。


炎のような苛烈さを感じさせながらも、

誰もが羨むような可憐な容姿を持った、

二本の角を持つ少女は、苦虫を噛み潰したように。


……自分達の目の前に立つ、"声の主"に顔を向けた。


頭部に禍々しい山羊のような角を生やし、

圧倒的な存在感を放つ"声の主"は、

目の前にいる二魔(にま)に目を向けると、

鋭利な牙を覗かせ、口を大きく開けた……


「ガハハハハ!この話をする度に感じいるのぅ。

 ワシが……ちょーすごいってことに!! 

 そうは思わんか?なぁ、クイール」


クイールと呼ばれたメイド服を着た女は、

拍手をしながら、抑揚のない声で応える。


「わー、魔王様すごーい」


クイールのあからさまな棒読みに、

魔王は気にすることなく満面の笑みを浮かべた。


「じゃろ?じゃろう!?

 オーラちゃんも、そう思うじゃろ?」


魔王の呼びかけに、オーラと呼ばれた、

角の生えた少女は、ため息混じりに返答する。


「……魔王様。

 その話は、もう何十回何百回も聞いたから」


まるで興味を持たないオーラの反応に、

魔王は年甲斐もなく地団太を踏む。


「だーかーらー!

 なんでパピーって呼んでくれないの?

 魔王、寂しさの五里霧中状態じゃよ!」


しかし、そんな魔王の様子を意に介する事無く、

オーラは部屋の出口へと歩を進める。


「話はこれで終わりか魔王様?

 なら、俺は自分の部屋に戻るぜ。失礼します」


オーラはそう告げると、振り返ることもなく、

扉を開きそのまま書斎を出て行った。


「……なぁ、クイールよ。

 ワシの話の何が悪かったんじゃろう……。

 オーラちゃんも昔は、パピーすごい!って、

 抱きついてくれたのに……。

 何故じゃ、何故ああも冷たいんじゃ!?」


「魔王様、それが思春期です」


「……そういうものなのか?」


「そういうものです」


「……そうか」


「そうです」


「……」


「……」


娘が出て行った扉を見つめる魔王の背中は、

どこか小さかった。


魔王は小さくため息をつき、

扉から目を離すとクイールを見る。


娘のオーラと違い、

このメイドは昔から全く変わらない。

常に表情は崩さず、言動も淡々としている。


故にクイールと話した者は、

感情がないのでは、と勘繰り噂をする。


しかし、彼女が誰よりも熱い想いを

持っている事を魔王は知っていた。


確か、あの時も……

昔の事に思い耽そうになった時に、

不意にクイールと目が合った。


「魔王様」


「ん、どうかしたのか?」


「はい、そろそろ……

 "勇者様"との約束の時間ではありませんか?」


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