エンドレス・インスタント・コーヒー
洗い物をする私の横で
ケトルが白い蒸気を上げる
「飲むの? 飲まないの?」
不機嫌そうな声はケトルのものだ
君だったら訊いたりしない
庭にいたらホーローのマグ
コンピュータなら大きいの
風呂上りならデミタスで
ウヂューケアフォーアドリンク?
そんな粋な問いかけを
憶えたのはごく最近だ
私たちには不要だったもの
プシュプシュと言えば炭酸で
プシュゥウウと言えばスプレーの
勢いついたホイップクリーム
今日は苺にかけて食べるの
体重落ちた私には
カロリーケアよりビタミンC
君が心配するからさ
自分は40キロまで細ったくせに
エンドレスにインスタントの
コーヒーを飲みながら
君が揃えたたくさんの
私用のマグを洗っては充たす
心はいつまでも空っぽのまま
君が命であがなった家で
充ちるのは涙
なぜかふと流れ出す涙