幸運艦雪風の哀しみと謙虚になるティーラー
駆逐艦雪風は訓練中だったが俺の指示を受け一旦ルーム国に帰ってきた、
面影はあるが最新鋭の艦に改装された雪風は驚くべき進化を遂げていた、
その装備は最新のイージス艦にも・・いやそれ以上の強さを秘めていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
その雪風はゆっくり港に入り・・
艦長のライアンは一旦艦を降りる、すると湾岸にティーラー達が待っていた、
ティーラー達は急ぎ艦長のもとに走り挨拶を交わす、それを見た艦長、
先に自分から手を出して握手、そして笑顔で語りだす。
「ティーラー様ですね、コウ様からお話は聞いております」
「は・・はじめましてティーラーです、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ようこそ雪風へ!歓迎したします」
艦長はティーラー達を雪風の艦橋室に案内、そこにはテーブルが用意されていた、
まず船首を背に艦長が座りその横にルア達、対面にティーラーが座った、
副長らしきラミア2人がお茶とケーキを用意しルア達は喜んで食べていた。
皆が一息ついたあと・・
早速艦長がティーラーに向けて質問をしてきた!
「ティーラー様、大体の事はコウ様から聞いております、それとですね、
貴方が戦艦大和の軍師になりたいとの希望もお聞きしております、
そこでお尋ねしたいのですが・・なぜ貴方は軍師になりたいのですか?」
「は・・はい、私は卿魔族の星で生まれ育ったのですが見ての通り人間です、
非力な私は魔法や武術等はとても卿魔族達に及ばないので格下扱いでした、
そんな私が同じ扱いを受けるためには頭脳以外に無いと思ったのです」
つづけて・・
「私は幸いにも卿魔族達の王・・ケイオウ様の傍で生き延びる事が出来ました、
そのご恩に報いたいと常に考え非力な自分でも活躍できる場を求めていました、
そしてたどり着いたのが軍師という役職だったのです」
「なるほど、そのお気持ちはよくわかります、これで理由が分かりました」
「えっ?理由がですか?」
「はいそうです、私達の感覚から見て貴方のような素敵な方が・・
極度の緊張感と重大な責任を背負う軍師を要望するとは普通思いません、
仮に貴方のような境遇だとしても軍師になる発想は恐らく無いでしょう」
「そ・・それは私が異端だと言いたいのですか?」
「これは失礼しました、別にその考えは無いのです」
「なら教えてください、貴方方の世界の女性はどの道を選ぶのですか?」
「私は女性ではありませんので想像の範囲ですがそれでもよろしいですか?」
「ええ構いません、ぜひ教えてください」
「分かりました、私が仮に貴方の立場ならば絶対に軍師にはなりません、
その最大の理由は・・愛する者達に死ねというようなものです、なので・・
私なら看護師か薬剤師など生命を救う道を選ぶと断言できます」
「ど・・どういうことですか?なぜ死ねという言葉が出るのですか?」
「貴方は若いこともあり下積みが限られています、単独ならそれでいいのです、
ですが多人数が集まると統制を取るため階級を設けます、軍隊ならなおさらです、
単刀直入には言いませんが・・上の者は下の者に死ねと言えるのですよ」
「わ・・私にはその必要はありません」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「わ・・私なら皆が死なずに済む道を選び命令するからです」
「それは・・失礼ですがとてもそうは見えません、たぶん結果は逆でしょう、
貴方は先般コウ様が出した問題はどちらも外してます、もし実戦であれば・・
間違いなく万を超える兵が死んでいたでしょう、それはお気づきですか?」
「そ・・それは大袈裟過ぎます」
「いえ・・むしろ過小評価ですよ、実際あの戦いではその数が死んでいます」
「そ・・それは歴史の事でしょう?現実は異なります」
「いえ事実です・・コウ様があなたに私を合わせた理由がよく分かりました」
「えっ?どういうことですか?」
「一つは確かに歴史の中の出来事です、それに関しては貴方の言うとおりです、
ですがもう一つは・・私はその悲惨な現場にいたのですよ!」
こう言って艦長は何やら唱えだした、どうやら幻術魔法らしい、だが・・
この魔法で出てきたのは魔物では無く・・・
・・・
ボゥ・・・・・・・・
「よう○○!今度比叡の中で将棋でも打とうぜ!」
「おはよう○○!、俺は加賀に乗り込む、援護は頼むぜ!」
「やあ○○!武蔵のラムネはめちゃ美味いぜ!」
「おい○○!信濃をしっかり援護しろよ!」
「おーい○○!、大和と一緒に沖縄に行くんだろ?お土産待ってるぞ」
・・・
ティーラーは椅子から落ち膝をつき・・猛烈に涙を流し出した。
彼女が見た光景、それは・・
・・・
駆逐艦雪風が共にした僚艦に乗っていた無数の兵士の・・亡霊だった、
既に魂が消滅して憑依は無理だったが・・艦長はその仲間を背負っていた、
自分の意思がある間は絶対に忘れまいと自分の幻術魔法に収めていたのだ。
「この駆逐艦雪風は奇跡の幸運艦として終戦まで生き延びました、ですが・・
反面さっきまで隣にいた無数の艦と仲間達が次々とその姿を消していき・・
残った我々は・・今日生き延びたことが嬉しく・・」
・・・
「なぜ今日仲間と共に散れなかったのかと寂しく思い・・生き延びてきました、
中には・・無謀としか言えない作戦も下されましたが従うしかありません、
その命を下した上司のほとんどは沈む艦の艦長室に入りそれ以降は・・」
・・・
「ウッ・・・ウウウウウ・・」
ティーラーの涙は止まらない、彼女はこの幻術魔法の兵は事実だと悟っていた、
この悲惨な光景は実際に目の前で散っていく姿を見ていないと表現出来ない、
この魔法の効果は彼女も知っていた、それがどれだけ辛く悲しいことかも・・
「私達は愚かな戦いで無数の仲間を失いました、そしてこの異世界に来ました、
今私達が出来る事はあの愚かな戦いを繰り返さないようにするだけです、
そして悲惨な経験をティーラー様始め次世代に伝えるのが我々の使命です」
「あ・・アァァァァァ・・」
ティーラーは悶え苦しんでいる、その姿を見た艦長は寄り添い肩に手を置く、
その手から感じる温かさ・・ティーラーは自分の未熟さを悟り涙を拭いた、
そして襟を正し・・艦長に向かってお辞儀、そして感謝の言葉を語り出す。
「この度は貴重な体験を伝授いただき誠にありがとうございました、
そこでお願いがあります、私が軍師・・いえ仲間を導けるべき存在、
将来そうなるために今後ともご指導をお願いしたいのです!」
「勿論です!共に前に進みましょう!」
「あ・・ありがとうございます!!!!」
ティーラーは艦長に抱きつき・・艦長は凄く照れていた。
その後・・・
ティーラーはまるで別人のように謙虚になり暇見ては図書館に籠もっていた、
あの亡霊の数々を肌身で感じた彼女は今迄の考えを改め必死に知識を吸収する、
自分が未熟のままだとあの兵達の犠牲が報われないと悟り日々頑張っていた。
その姿を・・
密かに隠れて見ていた卿魔族達、何だかんだとティーラーが気になるらしい、
今迄は正直うっとうしかったが驚くほど謙虚になった彼女を見て刺激を受ける、
これは負けてられないと感じた卿魔族達も・・密かに猛勉強をしていた。
ちなみに俺は・・
トレーニングの続き、ルア達も帰ったので気合い入れて身体を鍛えている、
ティーラーに関しては他の艦長・兵士ライアンやジェニー達に丸投げしている、
これで俺はのんびりトレーニング・・威凜族のレオナルドから電話が来た!
「コウさん急ぎこちらに来てください!!!」
「まあ落ち着け!一体何があったんだ?」
「俺の鮪の事で話したいことがたくさんあるんです!!!!!」
猛烈に怒るレオナルド!詳細を尋ねたが彼は来てくれの一点張り!
だが大和は動かせない・・迎えに行くから用意しておいてと電話を切る、
一体何があったのだろう?頭を傾げながら俺は荷物をまとめ港に向かう。
しばらく待っていたら・・・
・・・
以前俺が改装した・・
・・・
軽巡神摩がこちらに向かってきた。