やるせない悲しみから見えた希望
俺達は一度母艦に帰り対策を練ろうとしたが・・
ソニアたちは笑ってはいるが俺達を帰らせる雰囲気はない、
まあ当然だろう、彼女たちの過酷さは容易に想像がつくからな、
だが何かしらの対価品が無いとこちらも困る。
「ソニア、聞きたいことがある」
「ええどうぞ」
「この北の大陸には何か特産品はあるのか?」
「氷だらけで何もないわよ」
そういうと思っていたが・・ここで連れの木人形が言葉を出す。
「ソニアさん質問があります、冷気はある程度調節できますか?、
例えば一部の場所を我らが動ける位の温度帯にしてもらうとか・・」
「それなら出来るわよ、孫たちの結界で常温(20度位)ならね、
私は自分の周りの冷気を保つ必要はあるけど」
「ソニアさんの周りの冷気はどの位まで抑えられますか?」
「最大で半径5m位ね、でもかなり魔力を使うから3時間が限度よ、
この城位の広さなら3日は大丈夫だと思うけど試したことはないわ」
ここで木人形が俺コウにある提案をする。
「氷の中の土を調査しましょう、未知の資源があるかもしれません、
それとこの冷気なら魚等を瞬間冷却出来るので食品の鮮度が保てます、
もう一つ・・ソニアさんの冷気は我々の救いになるかもしれません」
「どういうことだ?」
「ドラゴンのブレスを氷の壁で防ぐのですよ!」
それは盲点だった。
「他のドラゴンが彼女から離れる位ですから相当の冷気でしょう、
例えば事前に彼女に氷の壁を造ってもらい収納魔法で納めるのです、
危機の時氷の壁を展開すればブレスも防げる可能性は大です」
それは魅力的だ。
「もう一つ、ソニアさんたちに頼み各地に出向してもらうのです、
特に西の大陸は開拓が進み余った食糧の保存も考えないといけません、
彼女達の冷気で山を凍らせると食糧保存に加え水確保にも繋がります」
冬に山に溜まる雪みたいな感じかな。
正直冷たすぎて怖いだけかと思っていたが・・
目線を変えるとこれだけ活用できるんだな。
俺としてはこの案を採用したいのでソニア達にありのままを話した、
そしてそれが実現可能かを彼女たちに深く尋ねた。
「出来ると思うわよ、でも一つ問題があるわ」
「それは?具体的に説明をお願いしたい」
「さっきも言ったけど私の冷気を抑えるには膨大な魔力が要るわ、
一日抑える場合は天然石100kg分の魔力蓄積が必要なのよ、
でも私たちは天然石ほとんど持ってないから無理なのよ」
えっ?
天然石?
確か魔力を貯める石だったな・・
「天然石ならルーム島に山ほどあります!」
・・・
「仮にその天然石があった時、冷気をさらに抑えられるのか?」
「それなら十分可能よ、私だけの魔力じゃ限度があるからね、
でも天然石から魔力が補充できるのなら体内に封じ込められるわ」
「それって?普通の人間のように活動できるのか?」
「そういう事よ!」
・・・
問題解決なんじゃないか?
ソニアの孫たちもこの展開に驚きを隠せなかった。
「試してみましょう!」
俺達はソニアを含む全部のスノードラゴンと急ぎ艦に戻った。
まずは航空母艦蒼龍の艦載機を全部艦内に収納し甲板を空にする、
そこにスノードラゴン達に降りてもらい人間姿になってもらう、
念のため孫たちにはソニアの冷気を防ぐ結界を張ってもらった。
続いて艦載機用のエレベータにありったけの天然石を乗せる、
大体300kgの天然石があったのでそれらに魔力を充電する、
魔力が満たされた天然石をソニアのいる甲板に送った。
天然石を見たソニアは・・目を輝かせる!
「これならいけるかも」
彼女はその天然石を収納魔法で自分に取り込んだ。
すると・・
彼女の冷気はどんどん小さくなり身体の中に吸い込まれた、
それを見た孫たちは驚きどんどんソニアに触って確かめる。
「全然冷たくないわ」
「おばあちゃんあったかい・・」
「これなら大丈夫でしょう」
「ホントだね!すごくやわらかいよ」
・・・
「触るのはいいけど・・どこ触ってるのよ!」
ショウがソニアの胸を思いっきり揉んでいた。
次の瞬間彼はタライの山に埋もれていたが・・皆無視した。
「やった~~~~~~!これで自由に動けるわ!!」
ソニアがちと遅れて喜びを爆発させた。
「では早速・・!」
スノードラゴン達は蒼龍の甲板を降り食堂へと走っていく、
教えたわけでもないのに迷うことなく彼女達は食堂に着いた、
ちなみにショウはタライの山から一目散に出て追いかけた。
「ありったけの食事の提供お願いしま~す」
木人形たちは急ぎ食事を作り並べたがどんどん消えていく、
餓死寸前だったドラゴンたちの食欲はすざましいの一言だった、
蒼龍の食材は底を突きアリゾナや酒匂等からも緊急補給した。
1時間後・・・
「美味しかったわ~~、次はデザートをどんどん持ってきて~」
至福の笑顔で今度はデザートを食べまくる、勢いは全然落ちない。
どこまで食べる気なんだ?
と見ていたら5人同時にその場で眠り込んだ。
周りのお皿や飲み物は全部空だった。
クリスティーナやジセル、ルミナが彼女たちを抱えベットに運ぶ、
ショウとタケシは木人形たちが抱えベットに彼らを寝かせた、
やっと落ち着いた俺も食事にしようと食堂に戻る。
その途中案を出してくれた木人形を見つけ食堂に連れて行く、
俺はその木人形に感謝の意を伝え頭を下げる。
それと・・
何らかの思いがあっての案だと感じその辺を尋ねた、
すると木人形は静かに語りはじめ質問に答えてくれた。
「私は昔戦艦武蔵に乗っていました、その時は何とか助かりました、
武蔵が沈んだ事を民衆に伏せたい上層部は私達を他の戦場に送りました、
敗走を重ね何とか港まで戻り日本に帰る船に乗り込もうとしました」
「ですが・・」
「その船は既に私たちを置いて出港、その後敵に襲われました、
仲間が次々と倒れ私も銃弾を浴びそれ以降は覚えていません、
あのドラゴン達を見ていたら私と同じ気持ちを感じたので・・」
仲間に見捨てられた悲しさだな・・
俺はその木人形・・いや偉大な先輩と一緒に酒を飲んだ。
蒼龍の甲板で眠るソニアの本体は・・
母親を見つけた子供の様な顔をしていた。