第30話 解錠
第一回編集(2022/3/24)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
「こっち」
項垂れる俺に少女は手招きをしてどこかに案内してくれる。
なにかあるのだろうかと、親切にしてくれる少女に素直に従い、本片手についていくと人気の少ない場所にある丸いテーブルとソファータイプの長椅子がある。
どうやら、本を読むのに立ったままではという事なのだろう。
しかも、人の目を気にする俺に対して考慮されており、少し薄暗い場所を選んでくれたようだ。
俺は本をテーブルに置き、ソファーに腰掛ける。
すると、
「んしょ」
俺の目が見開いた。
なんと、少女までもが腰掛け、衣服が触れ合うほどの距離に座った。
「なに?」
それはこっちのセリフだ!
俺の人生でこれほど無防備な女子が接近したことがあっただろうか。
否、例外はある。
そう幼稚園の時と買い物の時のアイミだ!
………………。
「…………ないも当然かよ」
経験の少なさにドキドキが止まらない。
久しくない経験。
最近の緊張は、人見知りが爆発した時か命の危機にあった時くらい。
こんな新鮮な緊張はとても久しぶりだ。
だから、頭の中が真っ白です。
「………………?」
緊張で硬直した小学生よろしく。
ひざに手を置き、背筋はピンと正した俺は、本来の目的を忘れてなりゆきに身を任せている。
そんな様子に、
「どれを読めばいい?」
本来の目的を思い出させてくれたのは、字が読めないという現実でした。
本気で読み書きの勉強をしようと誓い、静かに目的のページへと指をさした。
透き通るような声で始まった少女の音読を、心地よい気持ちで真剣に聞いていく。
本の説明は歴史から始まるようだ。
その昔『封源の輪』は囚人に使われていた。
牢屋などでは源素を使って破られてしまうことが多々あり、その為に作られた。
しかし、源素のコントロールを失わせるだけの『封源の輪』では、完全に源素を封印することもできず、時には腕を犠牲に逃亡するものが現れた。
「うげ」
想像してしまったグロい妄想に思わず声をだす。
それを気にした様子もなく音読は続いた。
中には、手首を切り離す以外にも源素そのものを暴走させ腕輪を破壊するなどの方法など、欠点と思われる事柄から、『封源の輪』はその役割を失っていった。
特に致命的になったのは、何の犠牲もなく内側から解錠する者が現れたことが大きかった。
ヒントとなる情報につけられた腕輪を見る俺だったが具体的な解錠までは、説明文からでは判断ができない。
その後も歴史の話が続き、『封源の輪』の誕生秘話や、製作者の話などが続いた。
そして、数ページ進んだのち、いよいよ使用方法の説明が載ったページに移る。
腕輪を装着後、外側から源素を流し込むことで施錠がされ、その効力が発揮されると簡単な使用方法が載っているだけのようで、必要な情報までは辿り着かない。
と、ここで、少女の音読が終わりを遂げた。
「お、終わりですか?」
コクンと少女が頷く。
「解錠方法とか載っているものってないですか?」
「ない」
少女の言葉を疑う理由がない。
だって、使用頻度が少なったとはいえ、元は囚人などに使われる道具だ。
その解錠方法を記述として残しておくとは考えにくい。
存在していたとしても、誰もが閲覧できるようにはなっていないだろう。
見当違いだったかと、アルの元へ帰ることも考え始める。
「……はぁ、怒られそう」
怒鳴り散らしそうなアルの姿にため息が漏れる。
ふと、一応無傷で解錠した者の話を思い出し、ダメ元で試してみることにする。
具体的な方法などわからない。分かったのは内部という単語から想像できることのみ。
徐に瞼を閉じて源素の在り方を探ってみる。
目視で見るのとは違い、源素そのものの発生源などを見る感じだった。
完璧にその流れを把握することはできないけど、血管を流れる血液のイメージは変わらない。
意志とは別に源素は勝手に全身を駆け巡っているのを追いかけていくと、やはりというべきか、両腕の腕輪辺りだけ源素の色が複雑に入れ替わっている。
これが、源素のコントロールを乱している原因なのだろう。
もう少し集中して、源素の一部分を強く感じ追っていき、腕輪の中まで入る。
そういえば、俺の源素の色は白なんだなと今更ながら自分の源素の色を認識し、腕輪の中で追っていた源素の色が変えられた。
なんとなく、本当になんとなく源素の色を変えられるのに反抗したくなり、変えられた源素の色を戻してやる。
源素の色に関しては、ジオラルとカルバンの回復の時、そしてアルの時にもやっているから難なくできた。
そこから、腕輪との対決になった。
シューティングゲームをするように源素の色変えられては元に戻すのやりとり。
これがまた面白くなって、次から次へと変換していくと、だんだん腕輪の変換を超えていく。
「(おらおら、追い越しちゃうぞ~)」
子供の姿とは言え、突然目を瞑って、むふふと笑みを浮かべている姿がどう映っているかも考えず続けていたら、
「え?」
文学少女のその声に俺は正気に戻った。
しまった、これ俺気持ち悪い奴にしか見えん!
「あ、いや、その」
自分でも解かる気持ち悪い言動に言い訳をしようと必死に言葉を探そうとしていると。
「へ?」
カチリという音と共に腕輪が床へと落ちた。
「…………すごい」
少女の感想の意味は分からない。
分からないが事実として腕輪は外れた。
「と、とれちゃった……」
予想外の結末に逆にうろたえる始末だったけど、この瞬間試験の内容をクリアしたことになった。
「……えー、どうしよう」
二月最後のUPになってしまいました。
明日から三月です。早いものですね。
忙しいのは本当に困ったものです。
見捨てないで、お付き合いくださいw
よろしくお願いします!!!




