第29話 絞り込み検索
薄れる記憶をそのままに、俺の人見知りには一つ特性がある。
それは、相手から話しかけてきた場合(こちらの待機状態によるが)、会話ができるという事だ。
さらに今回は明確な目的があるので返答は簡単だった。
「ああああの、変な輪の、せ、せっつ明書というか、なんというか」
残念な俺の脳みその処理速度に、感情よりも言葉が追い付かない。
もはや恥などない、あるのは絶望のみだった。
俺は相手が引くであろうことを予想し、感情を無になっていくのを感じる。
この星の数ほどある本の中から一人頑張って目的の本を探そうと謝罪とお断りを入れようと、今度こそ言葉を選ぶ。
そんな処理の遅さが、目の前の少女のターンへと誘っていた。
「輪? あ、それ、『封源の輪』?」
――神はいた。
拝借している制服の袖から見える腕輪に少女の視線が留まっていたのだ。
「はいっ!」
救いに勢いよく俺は食い付いた。
「説明書はないと思う。資料みたいなものでいい?」
次々と進んでいく流れに、もう言葉はないコクコクと頷く。
表情一つ変えない少女は、どうやら俺に全く興味がないのだろう。
負の感情は一切見せず、ついて来いと言わんばかりに歩き出した。
冷たい対応でもないのだろうけど、少しだけもやもやが残る。
俺の性格上、人間観察は相手の表情や、行動、言動で経験からくるもので推測していく。
だから、この手の相手は読みづらい。女の子なら猶更だ。
でも、学園長よりはマシだろうとも思う。
あれは、こちらに見せてくる動きが全て読み間違えられるように真実も織り交ぜながら行動している。
そういうタイプは基本関わらないのが一番だ。
だからだろう、少し相手の事に興味を持った。
それは些細なことだ。
「あの図書委員の方ですか?」
ピタっと少女が止まる。
「としょいいん?」
思わず、通じないんかい! と心の中で突っ込んだ。
「あ、えーと? 司書さん……みたいな?」
思わずギャルになってしまう。
始めて少女の視線に戸惑いか、疑心が混ざる。
だが、それもすぐになくなり、
「そう。ここの管理を任されてる」
見上げ本棚の数々を見渡した。
純粋にすごいなと思いつつ、どうやって探すんだろうと思っていると、
「ここでいい」
なにがと思うよりも早く。
少女が何もない空間で手を動かした。
それはまるで、スマートフォンを掌全体でスライドするような動作だ。
なんだ? と思うや、
「いっ⁉」
なかったはずの本棚が突然少女の目の前を高速でスライドし始める。
ぶつかったら人身事故よろしく、書物館の壁をぶち破って外に放り出される。
というか、死ねる。
「ふふ、大丈夫ぶつかったりしない」
恐怖で驚いた俺の様子に少女が笑みを零した。
なんだろう、どんな形であれ笑ってもらえると嬉しくなってしまうのは現金なことだろうか。
恐怖がなくなり相手の事を信用できてしまう。
俺って意外に単純だなと思いながら、熱くなる頬を隠し、ただ少女のすることを見守り続けた。
しだいに、スライドされていく本棚が少なくなっていき、少女の前にいくつか本棚が立ち並んだ。
「知りたい内容ってある?」
「え、あ、じゃあ、使用方法とか解錠方法が載っているようなものを」
「わかった」
再びスライドしていく本棚もいよいよ一つになり、一つの棚だけが残る。
「まだ多い」
なんとなくだが、理解してきた。
これは絞り込み検索だ。
「じゃあ、絵冊子が挿入されているものがあれば」
俺の声を聴き、最後に少女が操作すると、本棚には二冊の本だけが残った。
少女はその中の一冊を手に取るとぺらぺらと捲っていく。
そして、
「はい」
完璧だった。
『封源の輪』の構造が描かれた絵冊子が入り、使用方法、解錠の仕組みが書かれたページが開かれ俺の目の前に出された。
「すごい」
書物館の性能にも驚いた、でもなによりもこの少女、俺が持ちえた少ない情報から目的の本を導き出した。
絞り込み検索しただけだって?
違う、この少女は二冊の中かから迷いなくこちらの本を選んだ。
それも、目次など見ずに必要なページまですぐに開いた。
つまり、この少女この本を読んだことがある。
それは偶然なのかもしれない。
でも覚えているものだろうか。
俺は驚嘆しながら差し出された本を手に取った。
解錠、源素………etc。
読める単語を声に出し、
「読めんっ」
最後の最後まで俺にはがっかりだ。
盛大なオチを付け、おそるおそる見た少女は目を丸くしているのだった。
二月最終日になってしまいました。
本日もう一話UPできればしたいとは思います。
活動報告はその時、書ければ書きます。
引き続きよろしくお願いいたします。




