第28話 記憶から薄くなる金髪カール
第一回編集(2022/3/24)
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「う~ん」
タダシはアルから渡された紙を見ながら、昨晩のことを思い出していた。
紙にはイェールの直筆だろうか、こう書かれている。
【再試験の内容。『封源の輪』の解錠を合格の基準とし、『勇者年代記』の本を手に入れれば、解錠は行なわれる】
加えてこの学園の二つの施設。
アルは、「訓練場が描かれているのがおかしい」と言っていたが、本当にそうなのだろうか。
俺は初めにこの紙を見た時、アルとは違う認識を始めは持っていた。
それは解錠方法が複数あるという認識だ。
合格基準が解錠ならば、解錠方法は何でもいいことになる。
紙に書かれていたのは、最低限の方法であって、それ以外は自分で調べろということなのではないだろか。
だから、紙には訓練場以外に書物館も描かれているのではないか。
「どうしようかなー」
アルには本を奪う方法を考えろと言われた。
だから考えた。
無理じゃん。
どう考えても俺では無理だという結論に至ったわけで、それなら別の方法を考えようとしたわけだな、これが。
源素の制限がかかっている時点で、俺は普通より森で生活する能力が高くできるだけであって、アルのように数階を飛び降りる基本スペックはない。
だとしたら、追いかけるだけで疲れる。
よって、
「本はアルに任せよう」
そうして、俺は書物館にいく覚悟を決めた。
書物館に行くのは簡単だって?
バカ言え、外に一歩出れば広大な敷地を誇る聖騎士団国家を舐めるなよ!
迷子になること数回、俺は決死の覚悟で優しそうな人に場所を尋ねたわっ。
「これだったら本を奪った方が簡単だったかもしれない」
人見知りとの攻防の末、勝利を手にした俺は、やっとの思いで書物館へと辿り着いたのだ。
外観は協会と見間違えるような造りで、それ自体にも驚いたが中に入るとそれ以上のものが待っていた。
まるで魔法の世界に紛れ込んでしまったかのような、本の数々が天井にも届きそうな本棚に並んでいる。
しかも、宙に浮き漂っている本棚まである。
どこを見ても本の数々はこの世界の全てを記しているようで、俺の口は開きっぱなしにしてしまうほど壮観だ。
「……すごいな…………異世界」
始めて異世界に感動を覚え浸っていると、俺の人見知りセンサーが反応する。
「(しまった、入り口で上を眺めて口を開きっぱなしに人の目が集まっている!)」
俺は慌てて、人のいなさそうな本棚の並びへと移動した。
一応、辺りを伺ってみる。
特に変化はなく、俺の存在は興味を抱くほどではなかったようだ。
一安心し、問題に向き合う。
俺は森での生活中、適当な本を買い読んでいた風を装っていたものの、基本はこの世界の語学の勉強をしていたつもりだ。
いくつかの単語を、雰囲気と絵が組み込まれている部分から推測で判断している程度。
長文や絵がないものは解読不可能ときている。
なので、買う本はこの世界での絵本のようなものがほとんどだった。
しかしだ、これからか調べようとしているのは、『封源の輪』に関して。
それも解除方法ときている。
調べることは使用方法などでいいだろうが、文字で説明されていたらそもそも理解できない。
「どうしたものか……」
さらに、読む読まない以前に、これだけの本棚の中から目的の本を見つけること自体無理なのではないだろうか。
「これは困ったぞ」
ここに来るまでにも時間を使っているのに、さらに時間がかかる案件に諦めムードが俺に襲い掛かってきていた。
「何か探してる?」
そんな時だった、人の視線から逃れるために、隠れるようにいた本棚の隅で声をかけられるとは思っていなかった俺は、ビクンと床から飛び跳ねる勢いで驚いた。
声を出さなかったのが奇跡だ。
「あ、ごめんなさい」
ドキドキが止まらず声を出せずに心のなかで、
「(いいいいえ、すいません、びっくりしただけです!)」
という思いを乗せて首をぶんぶんと振る。
「そう……、それで力になれる?」
声を掛けてきた少女は、特徴的な水色の髪を肩に届くくらいまで伸ばし、一冊の本を抱きかかえている。
今の俺よりは身長が高いが、元の俺の姿からすれば華奢な体つきから小柄な方だろう。
制服を着ていることから学園の生徒で間違いない。
そして、俺は思う。
間違いない、これこそが文学少女だ。
記憶に新しいがすでにうる覚えになりつつある、金髪カールの少女を思い出しながら、俺は確信めいたものを感じていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
修正させていただきました!




