第27話 聖騎士までの道のり
第一回編集(2022/3/24)
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――数年前。
「どういうことだ?」
「それが、護衛兵の選抜試験で被害が出たそうで」
その日、大帝国ネルギ=ヌートリションの最壁で護衛兵の募集が開始された。
兵の中でも末端の募集ではあったが、それでも国の一兵隊の職に就けると多くの人が集まった。
試験の内容はいくつかの項目があり、人格、品位、経歴など一定の水準によって合否がなされる。
その内容には、当然ある程度の強さの証明が必須。その為、実技試験として模擬戦闘が行われた。
そして、その試験中、町中に響き渡るほどの爆発音によって国中は騒然としていた。
「応募者の中に名のある者がいたのか?」
「いえ、名高い者はいなかったはずなのですが」
本来このような案件に聖騎士であるアレクが赴くことはないのだが、偶然その近くを歩いていたため、自身の部隊に連絡をとり対応する形になった。
その際、なぜ国王の傍から離れそこにいるという説教を受けたのだが、非常事態だと言い訳をしてすぐに連絡を遮断していた。
試験の担当者の一人に事情を聞きながら、会場となっている外壁の外にある広場に辿り着くと、悲惨な光景が広がっている。
ゆうに五〇〇名を超える応募者と試験官のほとんどが傷だらけになり転がっていた。
「こ、これはいったい……、まさか敵国が攻撃を仕掛けてきたのでは⁉」
担当者は慌てた様子で言うが。
「それはないでしょう。わざわざこんな目立つ行為をし、その後は何も仕掛けてきていない。それに……、死者は出ていない」
冷静に辺りを確認しながら、救護班の依頼を担当者に指示を出すと、担当者はどこかへと走り去っていく。
アレクは意識がある試験官の側まで来ると、腰を下げた。
「何があった?」
「うぅ……あ、アレク様……、実は…‥‥応募者同士で……いざこざが……あり……、気づいた時には……」
「いざこざ……?」
いざこざでこれほどの被害が起こるようなことがあるのかと疑問に思いながら、アレクは気がついた。
応募者が倒れている中心に立つ二つの影に。
「子供……? それに上位精霊」
上位精霊の実体化。
上位精霊と契約できる時点で源素の量、そして質共に只者ではないことはわかる。
「属性は風」
倒れこんでいる者の傷や辺りの様子から相手のそう分析をする。
アレクは腰から剣を抜き、語り掛ける。
「この騒ぎは?」
少年は何も答えない。
ただアレクの方をじっと眺め、その場に立っている。
少年の身なりはお世辞にも綺麗とは言えない。
「(孤児か……、それにしてもこれほどの能力を持って、今まで誰も気づかなかったのか?)」
「もうどうでもいい……」
「何がどうでもいいんだい?」
「やれ、シルフィ」
命令と共にアレクの周りに風が起き始め、その風は次第に渦を巻いていく。
アレクはこのままでは倒れている者まで被害が及ぶと感じ、その風に向かって剣を一振りして見せた。
途端、渦を巻いていた風がたちまち霧散し、消えていく。
始めて少年の表情に変化が起こる。
「てめぇ、なにした?」
「ふむ、まずはお互いに名を名乗ることにしないかい? 私は、アバレン・アレク。この国の聖騎士だ」
ぴくりと少年の目じりが動く。
「器か……」
「器?」
「名前だけは名乗ってやるよ、俺はアルフォナインだ。聖騎士様よっ!」
「うん、それでアルフォナインこの騒ぎの原因はなんだい?」
「器が違うんだとよ。所詮スラムの人間はどこまで行っても、聖騎士の器にはなれないんだとよ!」
「そう言われたのかい?」
コクンと頷くその姿はまだ幼さが残る。
「だから、見せてみろよ。聖騎士の器とやらをよ! シルフィぃいいいいい‼」
再び実態化された上位精霊が風を起こし始める。
「(精霊の目が生きていない。どうやら、意思疎通できるまでの源素のコントロールができていないようだな)」
アレクは徐に剣を鞘に戻す。
「てめぇっ」
「君にはまだ聖騎士として相手をするには、まだ早いようだ」
「あ――――???」
威勢とは裏腹に、アルフォナインの体は宙に浮き、天地が逆さまになった。
そして、次の瞬間にはアルフォナインの意識は暗転した。
――アルが目を覚ました時、目の前にアレクの顔があった。
「うわぁあっっ‼」
「あははっ、傷つくなぁ、人の顔を見てそんなに驚かれると」
「ふざけんなっ…………、あ、どこだここ⁇」
「ここは王宮の空き部屋だよ」
「……王宮」
ふふふ、と出会った時とは違う優しい笑みでアレクは微笑む。
「どうして……」
「みんなに叱られたよ、身元もわからないアルを王宮に入れるなって」
「そんなの当たり前……」
「叱られたついでアルを聖騎士に推薦しておいた」
「は、……聖騎士に推薦、……はぁあああああっ! な、なに考えてんだっ! だいたい俺は孤児で、立場もなければ器だって――」
「そんなものはいらない」
今までとは違うアレクの真剣な表情に、アルは一瞬たじろく。
だが、その負けん気な性格と意地がその圧に耐えるようアレクに立ち向かう。
「器とは王が持っていればいい。聖騎士はその器を守る為の剣であり盾だ。必要なのは、その器である王を、国を、民を守れる心と強さだ」
自身の憧れでもあり、心のどこかで否定してきた目標。
その存在であるアレクの言葉に感動すら覚える。
「ふざけんな……、じゃあ、孤児やスラムの人間は民じゃねぇってのかよ!」
アレクの言葉を否定したいわけではないが、しかし、決定的な現実にアルは牙を向けなければならない。
「俺たちが助けてほしい時、王が、聖騎士たちが守ってくれることなんてなかった!」
アルの言葉にアレクは静かに耳を傾け、静かに話し始める。
「国が大きくなるにつれ、全てをみることはできなくなっていく。聖騎士は王を中心に守り、助けられる者にも優劣をつける。それは紛れもない事実で、僕一人では全てに手を差し伸べることはできない」
そんなものは言い訳でしかない。
「それでも、不可能じゃない方法がある」
その可能性にすがるように顔を上げたのはアルの方だった。
「仲間が増えれば、差し伸べる手の範囲は広がられる。だから、アルフォナイン。君が僕には届かない先へ手を伸ばせ」
その瞬間、なりたかった者への道ができる。
ただ、話には矛盾がある。
「嘘吐くんじゃねぇよ……。聖騎士は王を一番に……」
「うん、だからとっさの時には勝手な行動をしちゃえばいいよ」
「は?」
「その時は僕が叱られよう、叱られるのは慣れているからね。それに大体は僕が王を守る。僕が守れないときは、僕の仲間が守る。それでも守れないときは君が守ってくれ」
「そんなのって」
聖騎士じゃない、その言葉を最後まで言葉にできなかった。
いや、する必要がない。
「俺がそれになればいい……」
まっすぐ向けられる眼差しから、アルは逃げない為に目を逸らしたりしない。
「聖騎士に器はいらない。いるのは全てを守れる強さだ。その為に強くなれ、アルフォナイン」
訓練場の舞台を覆うほどの煙が徐々に晴れていく。
アミラはその様子に勝ち誇った様子で、腕を組み眺めていた。
「懐かしいこと思い出したな……」
その中から、声が聞こえて来るまでは、
「な、まさかあれを受けて立っていられるはずが⁉」
「ここに連れてこられた意味が分かった気がするぜ。ちくしょう、まだ、俺は弱いな、まずそれを認めてやるよ」
戦闘に必ずと言っていいほどシルフィを頼る。
それ自体は悪いことではない。
だが、現状のように呼び出せない時の対処がまだまだ未熟という事。
「何を一人でぶつぶつと」
「強くなるためにやってやるよ、ようは源素の使い方だ」
会話のキャッチボールがなされないことにイラ立ちを隠さないアミラが叫ぶ。
「躾がなっていないですわ!」
冷静に尚且つ清らかに、川を流れる清流のように源素を今一度身体の中で流していく。
今、必要なのは源素の量ではない。
洗練された源素のコントロール、それがアルを一段階強くする。
「先ほどの失礼な少年のように、無様に逃げ恥をかかせてあげますわ!」
脳裏に浮かぶ緊張感のないおとぼけたタダシの顔。
想像の中でもタダシはニヘラと笑う。
整った源素に乱れが生じ、
「あんなのと一緒にすんなっ!」
アルの精錬された源素のコントロールまでの道のりは遠い。
まさかの二月中旬になっての初UP、予定外。
予定外に後れを取っていますが、最新話UPさせていただきました。
相変わらず、詳しくは興味あるひとだけ活動報告をご覧いただくということで。
今後も引き続きお付き合いいただけることを願いながら、頭をたれ下げまくります!
よろしくお願いします!!




