第26話 器
第一回編集(2022/3/24)
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戦闘は場所を移動し、訓練場で大体的に行われていた。
特段移動を促したわけでもなく、開始早々アルの実力を判断し被害を考えるならば、設備の整った場所へアミラが誘導した節がある。
それがけでアミラの優秀さがうかがえるが、アル自身それを見抜けなかったわけではない。
現状、アルは正体を隠しているのだが、当初の目的でも本を奪う為には、戦闘は必須。
それを誰にも気づかれずに行うのは現実的ではなかった。
だから、誰かに見られるならば、堂々と聖騎士団国家の生徒になりきり表立って戦った方がマシだと考えた末だった。
それもすでに、目的は変わっているのだが。
「くっそ、届かなねぇっ!」
アルの伸ばされた手から小さな旋風がそよ風になって消えていく。
これは試し打ちのつもりだった。
『封源の輪』がついている以上源素出力は制限がかかっている。
しかし、どこまでのことができるかまでは完全には理解しておらず、それをそのままにまだ聖騎士ではないとはいえ、聖騎士団国家の生徒と戦うほどアルは考えなしではない。
ただ、目論見よりも大幅な出力のなさに悪態をついたのだ。
そして、それをアラミは別の方向で捉えるのは当然。
「源素の量が極端に少ないですわね。なるほどですわ、だから、索敵を磨き、使って見せた。しかし、あの程度で自己表現をしようなんてまだまだ未熟な証拠ですわ」
あの程度という評価、その評価を向けている相手、挙句に駄目出し。
どれを持っても腹が立って仕方がない。
なら、あれだけの源素を薄く広げてみろ、誰に物言ってんだ、置かれている状況は別にしても正式な聖騎士、何一つとして正しい回答がないことに、アルの目じりがぴくぴくと痙攣する。
「あなた向いてませんわ」
呆れた物言いに、導火線は瞬間的に燃え散った。
「ぶっ殺す!」
誰に向けられたものなのか、アルは一直線に飛び出した。
ふん、と鼻で笑い優雅な立ち振る舞いの後、アミラの辺りに羽根が舞う。
「――⁉」
アルの反応も早い。
元々、直線に飛び出したからと言って相手が何もしてこないとは思ってもいない。
「(属性は炎かっ)」
元々の洞察眼に加え、経験が、実力が相手の行動を探る。
「【炎の羽根】」
複数の羽根がアルに襲い掛かる。
一気に叩き落そうと、アルは手に風を纏い、放つ仕草をした。
本来、風と炎の相性はいい。
サポートとして合わせれば風は炎の勢いを増し、火力を高める。
では、相対した場合はといえば、火力の勝負になる。
風が強ければ、たちまち炎は消え、炎が強ければ風を飲み込みその強さを増す。
だから、アルの本来の力を出せさえしたら、力の差を見せつけられただろう。
そよ~。
「は?」
そよ風が、炎を消すどころか飲み込まれることもなく、何も起きない。
「あ、しまっ――」
なんのために試し打ちをしたのか、力みすぎて試し打ちの時よりも風が起きなかった。
当然、炎の羽根はアルを捉える。
「あちっちちちちっちちちちちっっっ!」
羽根の先端が突き刺さりアルを燃やしていた。
訓練場の石畳の闘技場を転がりまわりながら火を消す姿に、興味で集まっていた生徒達から笑いが起こる。
「くそっ、くそっ、なんで俺がこんな目に⁉」
鎮火しながら、現状を嘆くが、嘆きたいのは相手をしているアラミも同じだった。
「どうしてあなたのような人間がこの学園に……。恥さらしですわっ!」
手加減しようなど微塵もない。
ここにいる者は聖騎士、ならびにその関連の職を志した者が集う場所。
個々の欲や野望を捨て、強さを真剣に目指さなければならない。
だから、現実を――
「早々に諦めさせてあげますわ」
――知る必要がある。
アラミの背に炎でできた大きな翼が広がる。
「あなたは、聖騎士の器ではないですわ」
両翼がばさりと広がりそこから火弾が放たれた。
呆然とアラミの言葉を聞きながらアルはただその場に立っていた。
誰かがまずい状況に避けろと叫ぶ。
「器……」
反芻し零れた言葉。
火弾がアルに直撃する。
辺り一面に煙幕のように煙が立ち込めアルの姿が見えなくなった。
懐かしき過去。
『聖騎士に器はいらない――』
その言葉をアルに教えてくれた聖騎士がいた。
ぎりぎり、一月ぎりぎりだぁ
来月は、来月はもうちょいUPできるはずでふ。




