第18話 罠
第一回編集(2022/3/24)
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客室という名目で与えられた部屋で、ハイ・アルフォナインは目を覚ました。
「目が覚めましたか?」
先輩であるアレクの声で、アルフォナインは全てを思い出し飛び起きた。
「なんなんだよ、あれは」
起きて早々思い出されるのは、理解できないほどの源素の量で打ち負かされたタダシの事だ。
「私にもわかりません。言えることはさすがレナンさんが推薦するだけの事があるということだけです」
「納得いかねぇ」
歯を食いしばり、力いっぱい握りこぶしを作る。
「こと戦闘に関して……いや、戦闘にすらなっていなかった。タダシ君がどういうつもりだったかはわからないが、最初から戦う意思はなかった」
「はっ、体よくあしらわれたってわけだ。相手の土俵に乗っかって負けてればせわねぇわ」
すでにアレクは騎士の恰好は脱ぎ捨て用意された寝間着に身を包んでいる。
アレクは自身に用意されたベッドに腰掛け、落ち着いた様子だった。
「すでに私の目的は果たしたよ。君はどうしたい?」
アルフォナインは元々アレクの我儘と身勝手な行動を見張る為についてきた。
「私は明日にでも大帝国ネルギ=ヌートリションに帰還してもいい」
アルフォナインは、口は悪いが根は真面目な方だ。
だから、自国最強の座を有しているアレクが勝手な理由で、聖騎士団国家にいく事を知った時も真っ先に攻め立てた。
「ぐぐっ…………」
分かっているかのように訊いてくるアレクに、苦々しい顔を作りながらアレクを睨みつけた。
「睨みつけられても私は尋ねているだけだよ」
やさしく微笑むアレクに、こいつ分かって聞いているだろうと分かっていても言い返せない。
「共犯」
たった一言でアルフォナインに置かれていた立場が瓦解していく。
見張りとして付いてきたアルフォナインだったが、そもそも許可が下りているわけではない。
だから、アレクを連れ帰るという名目があることで自身に振りかかる罰を消すことができるつもりだったのだ。
「俺の責任だ……この国に強敵になる可能性を与えたのは」
「ほう、それはあの少女のことを言っているんだね」
「だからっ、せめてあのわけのわからないあいつの正体だけでも持ち帰るっ!」
この時点で立場は逆転した。
「では、もう少しここにいさせていただきましょう」
そういうと満足そうにアレクは布団に潜り込んだ。
「ちょっとまてっ! だからってレナンの帰還はまたねぇからなっ!」
「それは運次第でしょう、あ、そうだ! 言い忘れてましたが、タダシ君はこの学園の生徒ではまだないよ」
「は?」
合否に関して気を失ったアルフォナインはまだ知らなかった。
「イェール様の判断で結果は保留となったんだよ」
「どんな結果であれ俺を倒した奴だぞ!」
「そう言っても、それは我々が決める事ではないからね」
「まさか――次の相手は」
目の前にいる自国最強の男が相手になるのかと勘違いしたところで、カチリとアルフォナインの両手首に枷が嵌められた。
「君は早とちりすることがままあるよ」
さっきまで布団にいたアレクが、いつのまにやら目の前にいる。
「は……? なんだこれ」
その手枷の正体をアルフォナインは知っている。
「なんでこんなもの…………」
「タダシ君の正体を探るなら、共に同じ条件でいたほうがいいだろ?」
アルフォナインは冷静にこれまでの流れを考える。
「まさか……」
にこり、とアレクが微笑んだ。
「てめぇぅ、最初から残り気だったな!」
その手枷をアレクが持っていなかったはずだ。
そうなるとそれを与えたのは聖騎士団国家側だということだ。
「協力という交換条件でね」
「ざけんなっぁあああああああああああああああ!」
「あはははははははははっ! 折角の機会だ、タダシ君以外もしっかり学んできなよ、ハイ・アルフォナイン」
それは負けた事への罰、そう言っているようだった。
それを理解したアルフォナインはそれ以上の文句は言わない。
やるべきことは一つ。
「上等じゃねぇか! 今度は負けねぇ!」
「また早とちりだよ」
最後にアルフォナインの頭にハテナが浮かんだところで、一枚の紙が手渡されたのだった。




