第8話 バランスが大事
第一回編集(2022/3/23)
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連れられていく事、特殊訓練場。
ドーム状でできた訓練場は、シンプルな作りをしている。
特別舞台のような土台はなく、部屋に囲まれただけの空間。
地面は土で整備されているものの、囲っている壁の材質は俺には分からないもので、天井もガラスのように透き通っているが、高すぎて調べようがない。
歩きながら秘書であるミツナさんの説明によると一部の生徒、許可を得た者が一定期間、もしくは一時借りられる観覧者なしの専用訓練場らしい。
とりあえず、状況に逆らえないまま移動し終わると、駄々を捏ねたのはアルフォ君だった。
「なんで俺が一般生徒の相手をしなきゃいけなんだよ! しかも、原種持ちならまだしも、わけのわからんガキ相手なんて!」
酷い言われようである。
まぁ、事実を言われただけなので、俺は常に傍に歩くアイミに気になる点を小声で尋ねる。
「アイミの原種の話って公にしている感じ?」
アイミは首を振る。
耳がよろしいようで、久々に口を開いたカミラさんは、
「気づかれただけでしょう」
そう一言だけ口にし、再び沈黙した。
ただ、そうなると、原種とやらは分かる人には分かるらしく、カミラさんはアイミの原種に関してすでに承知している。
まぁ、カミラさんが知っているということは学園長であるイェール学園長も知っていることなんだろう。
冒険者であるあの三人よりもその原種の存在を明確に感じ取れる何かがあるのかもしれない。
そんな感想を抱きながら、自分よりも子供の行動をするアルフォ君のおかげで俺は落ち着いていた。
「アル、口が悪いぞ! でも、そこまでいうなら、イェール殿、二人の相手はこのアルがお相手させてもらってもよろしいですか?」
状況からして、実力はそれなりにあるということか。
「ええ、かまいません」
う~ん、この世界の人って本人の同意を無視すること多い気がする。
「それでは、先にどちらがお相手させていただきますか?」
そういう部分は尋ねてくるんだもんなぁ。
そんなことを腹に含みながら、実の所俺は別の事を考えていた。
だって、入園にはテストで合格しなければならない。逆に言えば、合法的に不合格になれる。
そうはいっても、俺だけの問題ではないのでアイミの様子を伺ってみると、
「………………」
想像に反してガチガチに緊張していた。
「ふぅ~」
溜まった息を吐き捨てながら、しょうがないと俺は諦めた。
緊張しているということは、それなりの意味を持っているということだ。
ならば、大人として対応しよう。
「不合格なら不合格で俺は喜んで、住処を探すぜ!」
本心から出る緊張解しのつもりだった。
ひさびさにアイミは俺の方を見ると、緊張していた表情が徐々に崩れていく。
「ふふ、それは知ってるよ」
見抜かれていることに、ショックを受ける。
俺ってそんなキャラで定着しているのね。
「でも、緊張しているのは別の事」
一応、自覚できるくらいの余裕はあったようだ。
「見ていてほしい」
何を? と口にする前に、
「この数か月で私がどう変わったか」
それがアイミにとってどんな意味を持っているのかはわからない。
それでも、さすがの俺もこれを拒否や否定していいわけがないことだけは伝わる。
「ちゃんと、強くなっていることを」
どうやら、化け物二人と行動を共にすることによって、見事戦闘狂への道が開かれてしまったようだ。
「あの、アイミさん、私、強さを求めていたわけでは……、むしろ家を建てられる技術が向上している方がうれしいくらいでありまして」
「私からやらしてください」
緊張が俺の言葉を無視させ、そして、誰にも届かない。
「では、二人は中心へ」
「二人同時でもいいけどな」
悲しいかな、俺の存在がちっぽけなものだと再認識できる。
元々、俺は人の手助けができると思っているわけでも、それだけの力あるとも思っていない。
ただ、俺の知らないところで人知れず、小さなことでも誰かの役に立っていればそれでいい。
それが元の世界でも変わらず、俺の生きる為の必要のない理由。
だから、この状況で取り残され、誰かに声を掛けられるわけでもない。
それが悔しくないわけでもない。
だから、気持ちを切り替えて届く相手に届く言葉を送る。
「適当にがんばりな」
真面目な奴は少し不真面目に、不真面目な奴には少し真面目に、ようはバランスが大事という意味を持った言葉を送る。
それをアイミがどう受け取ったかはわからない。
「うん!」
アイミは前を向いた。
それから、俺たち観覧者は、この訓練場唯一の監視室へと案内される。
「対戦に使われる場合、監視する為の部屋です」
何か事が起きてはいけないために、それを止められる者が使う部屋。
まるで競馬場のVIP席のような場所だ。
訓練場の中心で相対している二人が小さく見える。
壮観だなぁ、と思っていると、合図の前に、隣にきたミツナさんが尋ねてきた。
「解説は必要ですか?」
これから始まるであろう、戦いに関してなのだろうが、それを理解したところで意味がない。
「いえ、結構です」
そうですか、と一言残し、ミツナさんはイェール学園長の隣へと移動する。
『それでは――』
拡張器もないのにドーム内に副学園長のアスコル・フェノールの声が響き渡る。
『始めッ――』
そして、アイミの試験が始まった。




