第5話 新たな道
第一回編集(2022/3/23)
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聖騎士団国家親日国家、『十字国家団』の通称ベルの塔に三人の冒険者がいた。
六角形で出来た塔には六つの窓がある。
「まぁ、仕切り直すならここからだよな」
「僕たちにとっての始まりの街」
「振りだしに戻るなら、都合がいいね」
ジオラル、カルバン、テトラ、各々思うところはある。
聖騎士団国家という世界屈指の騎士育成機関に入園し、三年という優秀な卒業記録をもち、それでも騎士にはならず、ならず者と呼ばれる冒険者の道を選んだ。
「実際の所、俺は自信があった。上がいるのは分かってたし、それでもそいつらにもいずれは辿り着くと疑いもしなかった」
塔から見える、二度と足を踏み入れる事が出来なくなった地。
「トントン拍子にBランクに上がって、ルーキーの中では頭一つ出た結果も出した」
街を眺望できる塔には強い風が吹き流れる。
カルバンはハットを外し、テトラの修道服の帽子が風によって波を打つ。
「だから、原種であるアイミさんと戦うことにもなった」
結果は、何もできないという現実を叩きつけられた。
「冒険者になったあの時、いや、聖騎士団国家に入った時点で命は賭けてきた」
おそらく、それは『新しい波』でなくとも、一つの道を志した者が賭けてきたものだ。
「思い知ったよ。それだけでは足りないどころか価値がない」
同じようにカルバンが続ける。
「賭けてきたものが、こんない小さく見えるなんてね」
塔に吹き荒れる風がカルバンの手のひらに集まってくる。
「僕は、立場上必要以上の努力をしてきたつもりだった。でも、その努力はあくまで準備でしかなかった」
高等技術、誰もが簡単に習得できるわけでもないもの物も、ちっぽけなものに変えられた。
「すぐには超えられない……。だけど、必要なものは見えた」
手のひらの風が握りつぶされ霧散する。
「過信は……うん、していなかった」
テトラの脳裏に思い出されるタダシとの追いかけっこ。
「受け入れるなら、多い方がいい。きっと、今の私たちが三人がかりでもタダシにすら、追いつけない」
目に見えていたのは、仲間の二人の補助。
「どこかで、神の奇跡がある限り大抵の困難は乗り越えられると思ってた」
その困難は想定内、予定通りであった場合。
「運がよかった」
テトラの最後の言葉に三人そろって笑みを零す。
「ああ、そんな俺たちが話に入れない経験なんてそうなかったからな」
全世界の英雄の一人、ジャンオル・レナン、そしてその相棒であるアン・クラナディア。
その気まぐれで出会い、戦い、敗北し、土俵から降ろされた。
その土俵に立っていたのは、珍妙な少年。
「五年だ」
「例え異世界人で、おとぎ話の存在でも、聖騎士団国家を卒業できたとしても、タダシが卒業できるまでその時間は掛かる」
タダシの卒業は疑わない。
「だったら、その時間で私たちができること」
同じ位置から見えていた景色を背中にし、それぞれの窓辺に背中合わせに立つ。
「お互いに補っているだけじゃ足りない」
「お互いの命を守りあっていても足りない」
「お互いを高め合っても足りない」
それほど、頂きは遥か先。
「上の世界に入るぞ」
一つの壁はもう超えた、目指すはもう一つの壁のさらに向こう。
「五年後、また会おう」
その先で、同じ土俵に立つ。
「会わない代わりに、名前だけは聞かせてよね」
その土俵に立った時、自然と名は世界へと広がる。
窓辺の石垣に同時に足を掛ける。
「三」
「二」
「一」
カウントダウンと共に三人の冒険者は、一人の冒険者となって塔の天辺から飛び出した。
彼らは常識を捨て、新たな道をゆく。




