第3話 成長した二人
第一回編集(2022/3/23)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
確かに裏門っていう表現がしっくりくるほど、セントクロスの正面は整備されていた。
門の前には聖騎士団国家というだけあって、鎧を装備した騎士が門兵を務めている。
怒りもどこへやら、俺はその鎧の騎士の所まで恐る恐る近づく。
その姿に騎士も気付いた様子だったが、へたに動かず視線だけを向けてくる。
一瞬恐怖で逃げようかと思ったが、ここで逃げる方が怪しいかと、出した足をビビりながら前へと進めていく。
「あの、すいませーん」
へへ、っと低姿勢で尋ねる。
「止まれ」
「はい、止まります!」
そう言われるような気がしてすぐに止まる準備をしていましたとも。
「名は?」
「へ? ん、名前?」
いきなり名前を尋ねられるとは思わなかった。
でも、すぐに名乗った方が身のためだとすぐに名乗る。
「えーと、中村正です」
名乗った瞬間、初めて騎士が驚いた様子で動きを見せる。
しかし、次の瞬間にはまた警備態勢に戻る。
「入れ」
そして、短く命令された。
「へ、」
手続きは? これは何かの罠かと戸惑っていると、
「は い れ !」
怒った口調で言われる。
「はいっ、失礼します!」
すぐさま騎士の横を通り過ぎた。
だが、またすぐに止まる。
だって、この後どこに行けばいいのかわからない。
俺は再び恐る恐る騎士へと振り返るが、騎士の背中が凛々しく見えるだけで、振り返ってはくれない。
手を上げて質問しようにも、声を掛けてはいけない雰囲気に、上げた手は出したり引っ込んだりを繰り返した。
そんな時だった。
「タダシっ!」
聞き覚えのある声に、振り返る。
そこには数か月前、鬼ごっこの勝敗後に別れた隣人の姿があった。
「アイミぃいい」
情けなくも孤独から解放された俺の声は歓喜に震えていた。
◆
それは、鬼ごっこが終わり今後について話し合いが行われた時だった。
「一つ提案いいかしら?」
俺は大半の事を知らないから、勝手に決めることは決めてほしいと思いながら、聞き耳だけを立てる。
「聖騎士団国家に行くのはいいとしても、問題があるわ」
まぁ、確かにこっちが勝手に推薦だとなんだのと言っているだけで、許可は得ていない。
行くだけ行って無駄足になる可能性は十分にあった。
だから、その件だと思ったのだが、話は少し違う。
「きっと、話は到着する頃にはついていると思うけど、そもそもあなた達今のままでは聖騎士団国家で過ごすには無理があると思うわ」
冒険者の三人もそれには同意するように、あー、と声を出す。
「常識的な意味で?」
俺は思い当たるアイミとの共通点を上げた。
しかし、アンは視線をレナへと向ける。
確かに、常識という意味では町中で空へとジャンプしてみたり、気持ちの悪い変装で町中をうろついて見せたりと、存外レナも常識がないと言っていい。
そうなると、常識という意味ではないということか。
すると、説明は変わってカルバンが話し始める。
「聖騎士団国家はその名の通り、騎士を育てる機関。そうなると当然戦闘訓練が主になってくる」
「げっ」
そこまで言われればさすがに分かる。
だから思わず俺は怪訝な声を出した。
「もちろん、全員が全員戦闘に従事するわけではないし、サポート面での育成も行ってはいるけど、タダシはもちろん、アイミさんも研究者方面での実績がない」
それだったら、戦闘での実績もないんだが。
「そもそも、実績以前に常識的な知識がない状態で、いくら二人の名前を出してもサポート方面での推薦なんてだせない」
「じゃあ、行く意味ないじゃん」
そう俺が言うと、
視線はアイミに集まった。
「暴走……」
そうアイミが呟いた。
「厳密にいうと、暴走をコントロール下における可能性があると、私からは推薦を出せるわ」
「あれ、でも暴走って討伐対象じゃなかったっけ?」
「それは冒険者での話だ」
「騎士とか別の組織では、どちらかというと研究対象って見方の方が強いの」
話がきな臭くなってきた。
「そこで、実際にそれを目の当たりにしている私がその信用を付け加えることが可能だわ。ただ、それだけだと研究対象として扱われる可能性はまだ残るわ。アイミさんは、学園にそういうことで行きたいわけじゃないのよね」
「……はい」
「だとしたら、最低限……いえ、最低でも学園内で証明するものが必要」
「強さ……」
「そう、だからアイミさん、あなたは聖騎士団国家に行く間私たちと共に行動しなさい」
ようは、アイミは修行編に入ると。
「ん? あれ、俺は?」
戦闘に関して修行などこれっぽっちもする気は無いが、話の流れで俺の存在が出てきていない。
それに引っ掛かり、思わず尋ねてしまった。
すると、なぜかアンさんは目を反らした。
「きな臭さが倍増した!」
俺が逃げ腰の発言をするとアンさんはため息を吐く。
「どのみち分かることだから言うわ。さっきカルバンが言った事に少しだけ間違いがあるわ」
カルバンは間違いの指摘に疑問を投げる。
「……なんですか?」
「『サポート方面での推薦は二人では出せない』って部分。確かに、私はそんな保障もできない二人を聖騎士団国家に推薦できないし、許可が下りない可能性もあるわ。ただ、そんな保障もできない人物でも、レナの推薦だったら聖騎士団国家最高責任者学園長クライブ・イェール様なら許可を出すわ」
その瞬間、元聖騎士団国家の卒業生でもある三人は驚きレナを見た。
その張本人は気にした様子もなく、のほほんと無表情のままだ。
「ちょっとまった! 俺はレナの推薦で行くんだよな」
「うん」
初めてレナがこの話し合いで声を出した。
「じゃあ、強くなくても入れるってことで良いのか?」
単純に考えるとそうなるが、
「さぁ?」
「ぅおいっ!」
張本人がこれだ。
「ええ、その解釈で間違ってないわ」
それはそれで楽でいいのだが、これからアイミは修行の道へ行くと考えると後ろめたさがないわけではない。
加えて、他の生徒は少なからず苦労して入ると考えると、ますます後ろめたさが膨れ上がる。
すると、勢いよくレナが立ち上がり提案してきた。
「君も一緒に行動する!」
目を燦々輝かせて俺に視線を向けてきた。
「ないない」
が、俺はそれをひらひらと手を動かして一蹴する。
見るからに落ち込んだレナを余所に、話は進む。
「学園生として入ることに後ろめたさを感じているのなら、気にしなくていいと思うわ。推薦枠は元々地位を持たない者への処置であるわけだし、その価値に値するから私たちは推薦を出す。そもそも、あなた達が思っているほど、聖騎士団国家での生活は楽ではないのよ。それこそ、簡単には逃げられないほどに」
なぜ行く前にそんな脅しを入れるのか、行きたくなくなってきたじゃないか。
「(なにより、大変なのは、レナの推薦ってことなのよね)」
「ん、何か言った?」
「いえ、なんでもないわ」
「そ、まぁ、あとはアイミ次第だな」
◆
そんなことがあり、アイミは俺たちとは別行動をとることになった。
「へへ、久しぶりタダシ」
「あ、ああ、なんかずいぶん変わったな」
長い髪も短くなり、どこか儚げだった雰囲気も明るくなったような気がする。
なにより、小汚い田舎町の服が、この世界での学生制服に変わっている。
それが、俺をドギマギさせた。
こいつ陽キャラになりやがって、カーストピラミッドで俺より上に行きやがった。
それを気づかれんと、誤魔化しつつ、
「制服なんてあるんだな。もう立派なセントクロスの生徒ってわけだ」
どのくらいこの都市にいるのか、すでに馴染んでいるようだった。
それにアイミは呆れた表情をつくる。
「違うよ、タダシが着いたって聞いたから急いで着てきたんだよ」
「なんで???」
理由がわからないから、そう尋ねるとむっと頬を膨らませて機嫌が悪くなる。
「ずっと待ってたの!」
「誰を?」
「タ ダ シ を!」
俺も言うのもなんだが、なんて無駄な時間を過ごしているんだ。
ただ、待たしておいてそれ以上は言えないかと、言葉を飲み込む。
「それは悪いことしたな。で、これからどうしたらいいんだろ?」
「全くこっちの気も知らないで……。それに、たぶん大丈夫だよ。すぐにくるから」
「だれが?」
なんとなく俺だけ取り残されたような気がしていると、
「さっきからいる」
急に後ろから声を掛けられた。
「ぎゃぁあっ!」
俺は叫び声も短く逃げ出した。
なにもこの数か月という期間、変わったのはアイミだけではない!
残されたアイミは、ぽつりと零す。
「逃げ足、早くなったね……」
砂埃を立て走り逃げ去った後ろ姿を、アイミと突然現れた【影】はただ見つめていた。




